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報告書12-新たな調査へ(3)

 医務室を出たヴィエラは、リーダーの執務室を訪れる。中に入ると、リーダーは椅子に座り何かの書類を読んでいるようだった。

 入室の際に了承を取ったのでヴィエラが入ってきている事は分かっているはずだ。彼女はリーダーが口を開くまでじっと待つ。

 しばらくするとリーダーは書類を机の上に置き、ヴィエラを見る。

「さっきよりも顔色が良くなっているな。前々から言っておいただろう、体調管理をしっかりしろ。仕事に差し支える」

「はい」

 ヴィエラは短く答える。

「これに今回の任務の詳細が載っている」

 リーダーは1枚の書類をヴィエラへ差し出した。

「君にはある組織を追ってもらう。奴らは無許可で遺物を保有、使用していることがこれまでの調査で分かっている。アインスと協力し、組織が保有している遺物を押収し、保護するように。何か質問は」

 差し出された書類を一応受け取ったが、リーダーの言った任務内容にヴィエラは反論する。

「遺物無許可保有している組織ということは、違法組織じゃないですか。この手の仕事はツヴァイの管轄外のはずですが」

「アインスからの要請だ。断れん」

 どうして遺跡の発掘と調査の専門であるツヴァイに所属している自分が違法組織の取締をしなければならないんだ、とヴィエラは頭を抱えたくなった。

 そして医務室で言われた事を思い出す。

 全てはあの遺跡での出来事のせい。本当に、何故あれに遭遇しただけで自分がこのような任務に巻き込まれなければならないのか。

 リーダーに愚痴を言い続けても仕方がないので、取り敢えず書類に書かれている内容を確認する。

 期間は明朝から2カ月。

 その間に出来るだけ遺物を回収する事。

 各支部からの支援、補給を受ける事は可能。

 等、細かい事が書かれているが、目的以外はほぼ今までの仕事と変わらない内容だった。回収する遺物が遺跡ではなく違法組織にあるという点だけが、今までヴィエラが関わった仕事の中には無かった事項だ。

「拒否することは」

 ほんの少しの希望を持って問う。

「無理だな」

 が、直ぐに希望を打ち砕かれた。

 溜息が出そうになるのを堪える。分かってはいたが、こうもバッサリと断言されると逆に清々しいものだ。

「ツヴァイ所属ヴィエラ・リーニ、任務承りました」

 リーダーに任務承諾の意を示す。腑に落ちないところもあるが、なにも違法組織へ遺物の回収に駆り出されるのが嫌だというわけではない。遺物が違法に保有されているならばそれは許されない事だ。貴重な遺産はきちんと委員会や然るべき所で保持されなければならない。

 だから、ヴィエラの承諾を聞いた後のリーダーの爽やかな笑顔を彼女が殴りたいと思ったのは決して気に入らない任務を無理やり承諾させられたからなどではない。きっとこっちは疲れているというのに、無駄に清々しく爽やかなリーダーの笑顔が癪に障っただけだ。

「では、私はこれで失礼します」

 ヴィエラはこれ以上余計な事を押し付けられる前にさっさとここから出ようとお辞儀を取る。

「ご苦労様です。あ、そうだ」

 リーダーの言葉にヴィエラはお辞儀をしたまま一瞬硬直した。これ以上何を言われるのだろうかと内心うんざりしながらお辞儀の体勢を元に戻す。

「何でしょうか」

 顔が引きつりそうになるのを堪えながらヴィエラはリーダーを見る。

 先程から浮かべている笑みを更に深いものに変え、それは爽やかさを増すどころかこれから良くない事が起こるのではないかという錯覚を覚える。

「そんな身構えなくても」

 ヴィエラは頑張って隠そうとしたのだが、若干引き気味になっていたのをリーダーに見破られていた。

 どうせバレるならと開き直り、ヴィエラは思いっきり眉間にしわを寄せて不満を示す。

「明日からの調査の準備をしたいのですが」

「うん。そうだね。でもその前に1つ」

 いつのなら直ぐに要件を告げるリーダーがこの様に勿体振るのは珍しい。何を企んでいるのだろうかと怪しんでリーダーを見ていたが、1つ思い当たる事を思い出して息を飲んだ。まさか、と冷や汗が出てくる。

「ヴィエラ、君は貴重品である通信機が配給されている意味をきちんと理解しているかい?」

 やはりその事か、とヴィエラは頭を抱えたくなった。

 機械は貴重品だ。発掘される機械のほとんどは今の技術力では直せず、利用出来る物は少ない。使えるとしても数百年前の人間の文明を知る事が出来る貴重な遺産を無闇に使用することは出来ないので、厳重に保管される。また、発掘された機械から知識を得て新しく開発したとしても大量に生産出来るだけの資源と労働力がない。そんな貴重品である機械、しかも最新技術で作られた通信機は保護役員の全員に配給されている。その主な理由は。

「調査報告や遺産などの情報を迅速に交換、収集するのが主な理由だと記憶しています」

「なのに、君は調査の際に携帯していないことが大半だ。役員としての意識が低いと言わざるをえない」

 リーダーの言葉にヴィエラは唇を噛んだ。自分に非がある分、反論できない。だが、決して役員の仕事を軽くなど見ていない。自分の仕事に誇りとやり甲斐を感じている。だからこそ、大事な人と離れて過ごす事が出来るのだ。

「なので君の相棒になるアインスを連れて明日からの任務の準備をする様に」

 リーダーは最後まで笑顔で言い切った。彼の言葉に「どうして一緒に準備しなければならないのか」とか「それとこれとはどういう関係があるんだ」とか色々頭の中でぶつかり合ったせいでヴィエラの思考が停止してた。

「それじゃあ、よろしく」

 話は終わったとリーダーはヴィエラが来るまで見ていた書類に視線を戻す。それを見て、呆然としていたヴィエラの意識が覚醒した。直ぐに彼女はリーダーに食って掛かる。

「どうして私があいつと任務の準備をする必要があるんですか!?」

 ヴィエラが大きな声で訴えてもリーダーは書類から視線を外さない。

「俺が無駄な事をしろと言うと思うか?」

 反論出来ず、押し黙る。彼が意味のない事を命令をしたことなど一度も無い。

「分かりました」

 納得出来ないが、リーダーには何か考えがあるのだろう。取り敢えずヴィエラは言われた通りに行動することにした。

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