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報告書11-新たな調査へ(2)


 次の日の昼ごろヴィエラは首都にある古代遺跡及び遺産保護委員会本部に到着した。

重い体を引きずりながら、新しい調査の詳細を聞くためにリーダーのもとへ行く。長距離を短時間で移動できる乗り物を使い、首都まで戻って来たが、その乗り物がヴィエラは大の苦手である。3時間程のその旅路は彼女の精神力と体力を大きく削るには十分だった。任務がなければ自宅に戻って思う存分眠って体調を回復させたい。

顔色を悪くさせながら本部内を移動していたのだが、注意力散漫になっていた彼女は進行方向に立っていた人の背中にぶつかってしまった。

「すみません」

 弱々しく謝罪し、相手の顔を見る。その人物を認識したヴィエラは悲鳴を上げそうなほど驚愕した。

「あ、貴方!どうしてここに」

 彼女がぶつかった人物はトレジャーハンターのシンだった。

 だが、彼女を見下ろすシンは、遺跡で共に行動していた時の様に明るく生き生きとした印象とは打って変わり、感情が死んでしまったような静かな表情をしている。その表情にヴィエラは嫌悪を覚えた。

この表情は嫌な感じがする。何か思い出したくない・・・。

 次の瞬間、ヴィエラはあの頭痛に襲われが、それを振り払う様に、彼女は頭を振る。

「お、もう着いたのか」

 シンの前に立っていた人物がヴィエラに気づき、声をかけて来た。

「リーダー」

 弱々しくヴィエラが言う。

「相変わらず乗り物に酔ったのか。任務の説明の前に医務室行って一時間休んで来い。内容が頭に入らない様じゃ仕事に支障が出る」

 呆れながらリーダーはヴィエラに指示する。それをヴィエラは首を横に振って拒否した。普段なら喜んで医務室へ向かうのだが、今は目の前の状況の方が気になる。

「リーダー、この人は」

「ああ、こいつは今回の任務でのお前のパートナーだ」

 返って来た答えにヴィエラは目を見開いた。

 自分の記憶間違いでなければ今回の任務はアインスと一緒に組むはずだ。

 目の前の無愛想な男は、昨日へらへら笑いながら自分はトレジャーハンターだと言っていたではないか。

 つまり自分はアインスに騙されていた、ということなのか。

「今回のパートナーということは、この男はアインスですか?」

「ああ、この無愛想な男はアインスだ」

 アインスはその特殊性から素性を隠す事がある。何らかの理由でヴィエラに正体を明かさなかったのだろう。理解は出来るが、納得のいかないヴィエラは苛立ちを感じた。

「リーダー、やっぱり気分が悪いので一時間だけ休ませて下さい」

「分かった。一時間後俺の執務室に来い」

 ヴィエラはふらふらと医務室に向かって歩き始めた。

 ただでさえ昨日の遺跡侵入者との接触及び戦闘などで体調が良くないというのに、急な任務変更で苦手な乗り物に乗って気分が悪くなった。その上トレジャーハンターだと思っていた人物が実はアインスだった、という衝撃的な事実を突きつけられて平静でいられる人がいるなら今の自分と変わってほしいものだ。

 そう思ったのだが、耐えられそうな面々を思い浮かべる事が出来て、深いため息が出た。


「あれがヴィエラ・リーニだ」

 ヴィエラに届かない程の小さな声でリーダーがシンに言う。けれど彼は無反応だ。

 リーダーにとって彼がこういう態度でいる事は普通なのでヴィエラの様に驚きはしない。

「俺たちの大事な仲間で、娘の様な子だ。無茶をし過ぎるなよ」

 リーダーはシンの肩を軽く叩いて去って行った。

 残されたシンはその場を動かない。しばらくの間誰もいなくなった廊下に佇んでいたが、やがてどこかへ行ってしまった。


 医務室に着き、在中している医師に頼んでベッドを借りた。

 上着と付けていた装備を外してベッドの下に置いてある籠に入れ、ヴィエラは横にある。それだけで少し気分が良くなる。具合の悪さに身体が疲れていたのか、あっという間にヴィエラは眠りについた。

 次に目が覚めた時、彼女は近くに人がいるのに気がついた。視線を天井から横に移動させると、そこにはシンがいた。

 何故ここにいるのかとは問わず、彼女は寝起きの擦れた声で彼に言う。

「貴方、アインスだったんだ」

 シンは静かにヴィエラを見つめる。彼からの反応を期待していたわけではないので、ヴィエラは自分の知りたいことを口にする。

「何故、私を指名したの」

「昨日起きた現場に君が居たから。それだけだ」

 つまり、偶然彼に遭遇し、仮面で顔を隠した変な男性2人組にも遭遇してしまった為に自分は今回の調査を途中で外されたということか。

 遺跡での遭難といい、つくづく運のない自分に溜息が洩れた。

 だるい身体を起こし、ヴィエラは手で髪を整えつつベッドから降り、外していた装備と上着を身に付ける。

 時間を確認すると十数分で一時間経つ。

 動こうとしないシンをそのままに、ヴィエラはベッドを貸してくれた医師に礼を言って1人で医務室を出た。


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