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報告書10-新たな調査へ(1)


 朝日が昇る頃、ヴィエラは目を覚ました。

「ここは」

 少し擦れた声で言うと、直ぐ近くにいたのだろう、救護員がミュレアの寝ている寝台へやって来た。

「おはよう、ヴィエラ。気分はどう?」

「マリカ…貴女がここにいるという事は、ここはキャンプの救護テント?」

 見知った救護員がいることで自分がいる場所がどこなのか、ヴィエラは覚った。

「ええ、夜のうちにここに運ばれて来たわ。どこか痛い所はある?」

 ヴィエラの問いに答えながらマリカは彼女に異常は無いか確認して行く。されるがまま大人しく受けていたヴィエラは首を振った。

「いいえ、特にどこも痛くないわ。それより、私どうやってキャンプ地に帰って来たの?」

「シンという人が発作を起こした貴女を抱えてここまで連れてきてくれたのよ」

「あいつが」

 あの遺跡での出来事を思い出そうとする。

 確か、破損したデータを記憶媒体に移している最中に侵入者と遭遇し戦闘になったはずだ。

 男性2人組で、銃は当たらず自分が標的になったせいでこちらが不利になったとこまでは思い出せる。だが、その後どうやって遺跡を出た?

 思い出そうと記憶を辿るが途中で赤い靄の様なものに覆われて思い出せない。無理に靄をかき分けて思い出そうとするが、ヴィエラは耳鳴りと頭痛に襲われた。

「くっ」

 苦痛に声をもらし、頭を押さえる。

「こら、発作を起こした時の事を無理に思い出そうとしない」

 何度か彼女のこの症状に立ち会ったことのあるマリカはヴィエラを注意する。発作が起こる前や症状が出ている時の事を思い出そうとする度にヴィエラは耳鳴りと頭痛に苦しめられる。

 無理に思い出そうとすることによって、身体が拒否反応を起こしているのだ。


 そのまま強行してしまえば頭をかきまわされるような痛みによって長時間苦しむこととなる。薬は効かず、休む事もままならない。

 医者でも、己でさえもこの痛みを鎮めることは出来ない。

 だが、この痛みを鎮める事が来る者が唯一人が、いる。

 その人はヴィエラが最も信頼する、最愛の青年だ。彼は王都にある屋敷で彼女の帰りを待っている。

その事を思い出し、ヴィエラは無性に彼に会いたくなった。

 会って、いつものように優しい声で大丈夫だと、強く抱きしめて言って欲しい。

 泣きそうなるのをぐっと堪え、ヴィエラは青年が今どうしているだろうかと思いを馳せる。そうして段々と思いだそうとした事から意識をそらし、痛みを鎮めるとともに彼女の意識は再び沈んでいった。



 再び目を覚ますと、まだ辺りは明るく、それほど時間が経っていないことを覚る。

 大量の汗をかいていたようで、着ていた服が肌に張り付いて気持ちが悪い。あの頭痛に襲われ無理やり鎮めようとした後独特の気分の悪さも残っている。

 体を洗って身も心もスッキリさせよう。

 そう決めたヴィエラは寝台から降り、救護テントに待機している隊員に一言残して外に出た。

 外に出て降り注ぐ光に目を細める。

 手で顔に当たる光と遮りつつ空を見上げると、太陽が高い位置にあるのを確認した。数秒見つめた後、目線を下に降ろし、目的地へ足を進める。

 自分の割り当てられたテントに入り荷物の一部を持って再び外に出る。

 ヴィエラは簡易シャワー室へ入って行き、汗を流した。

 身支度を整え、簡易シャワー室を出る。荷物をテントに置いたら、遺跡にいるだろう調査部隊と合流しようと思い、彼女はテントへ戻る。だが、その途中で1人の隊員が真っ直ぐ彼女のもとへやって来た。

「いたいた。よう、ヴィエラ。お偉いさんがあんたを呼んでるぞ。会議室に来いだと」

 彼女を待っていた隊員は顔見知りで、何度も話したことのある隊員だった。だが、その隊員の名前を、彼女は覚えていない。

「そう、ありがとう」

 呼びに来てくれたことに礼を言う。

 しかし、隊員は呆れた表情を浮かべた。

「お前さんちゃんと通信機を携帯しておけよ?後で叱られるぞ」

 指摘され、ヴィエラは通信機の存在を思い出した。

 最近導入された機械で、離れた場所にいる人物と会話出来るものらしい。

 小型で持ち運びに便利なのだが、ヴィエラは身に付けるのを何度も忘れてしまっていた。

 どこに置いたままだっただろうか。

 首を傾げて考えていると隊員が彼女を現実に引き戻す。

「とりあえずはシュピッツェの所に行けよ」

 じゃあなと言い残し、隊員は去って行った。

隊員を見送り、言われた通りシュピッツェの所に行こうとしたところで彼女は自分が持っている荷物の存在を思い出した。これを持ったまま行くのはまずいだろうと考え、彼女は一旦テントに戻り、荷物を置く。

 それからようやくシュピッツェがいるだろう簡易施設へ向かった。

 会議室として使われている簡易施設前に着き、入室許可を貰ってから中に入る。すると中にはシュピッツェとヴィエラと同じツヴァイであるカワムラが居た。

「お呼びだと伺いましたが、どういった用件でしょうか」

「倒れたばかりだというのに、ここまで来てもらって申し訳ない」

 そう、切り出したシュピッツェは室内に設置してあるテーブルの椅子にヴィエラを座らせ、その向かいに自分も座る。

「ここに呼んだ用件だが、君に次の調査の依頼だ。アインスと共にある調査を行なってもらう」

 アインス・・・ツヴァイより上位の階級だ。そのような人物と共に仕事をしろと目の前の人は言っているのか。

「ちょっと待って下さい。アインスと組んでの調査、ですか?」

 ヴィエラの質問に、至極真面目に答える。

「ああ、そうだ」

 その答えに、ヴィエラは思考が一瞬止まる。

 ちょっと待て。

 アインスは特殊部隊だ。彼らは時に己の資格を隠して保護委員会の部署に潜入したり、他の機関に潜入したりし、調査する場合もあるらしい。実際に彼らがどのような活動を行なっているのか、他の部署には全く知らされることは無い。謎の部署だ。

 そんな特殊な部隊と一緒に調査をしろと言うのか。いったい何を?

「詳しい説明は本部で行われる。明朝首都へ戻るように。それじゃあ、私は現場に戻るから」

 笑顔で言い残してシュピッツェは出て行った。カワムラは彼が出て行った扉を見て溜息を吐く。

「シュピッツェの言った通りだ。リーダーからの許可も下りている。お前の担当は俺が引き継ぐ」

「分かりました」

「あと、通信機ちゃんと携帯しとけ。リーダーが怒ってたぞ」

 その言葉にヴィエラはやばいと顔を引きつらせた。リーダーとはツヴァイの統率者であり、アインスとまではいかないが各々好きな事をするツヴァイの変人をまとめ上げる事ができるつわものだ。その人物が怒っているということにヴィエラは背筋に冷たいものを感じだ。

 本部に帰りたくない。

 この時、彼女は本気でそう思った。

「せっかく配給したのに使わなければ意味が無いとさ。ま、その通りだが。これに懲りたら忘れない事だ。ほら、通信機。処置室に置いてあったぞ」

 カワムラが机にヴィエラへ支給された通信機を置く。

「以後気をつけます」

 素直に反省したヴィエラを慰める様に、カワムラは彼女の頭を撫でた。

 ツヴァイの資格を持つ者の多くは30代から50代が多い。そのせいか、まだ10代のヴィエラは先輩たちに可愛がられている。

「じゃ、俺も仕事に戻るから。倒れたばかりだし、今日はゆっくり休めよ」

 ヴィエラとカワムラは共に会議室を出て、それぞれ自分がしなければならない仕事をこなすための場所へ足を向けた。


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