Ep.3【君って超能力者なんでしょ?】
僕は驀進した。
メロスではない。
セリヌンティウスを人質にもされていない。
ただ単純に──
「寝坊だーーッ!!」
聞いての通り寝坊です。はい。
(おかしい……いつもは普通に起きれるのに。
今日は起きれはしたけど、意識が朦朧としていて二度寝した。)
全力疾走で静かな朝の通りを駆け抜ける。
険しい表情を浮かべ、額には汗を垂らしている。
しばらくして学校の正門に到着するが、到着と同時に一限目のチャイムが鳴る。
「ウソ──」
「嘘でしょ!?」
背後から力強い女子生徒の声が聞こえた。
とてつもなく焦っている声に聞こえた。
「遅刻しちゃったぁ、まあ遅刻したのに変わりはないからゆっくり行っちゃお!」
なんともポジティブな性格だ。
女子生徒は小豆色の髪に、オレンジ色の瞳、大人びた雰囲気の体型をしていた。
髪は少しボサっとしており、腰まで届くほど長く伸びていた。
前髪はゴムで縛ってデコ出しのちょんまげにしている。
その顔立ちは中々に美人であった。
「ねぇねぇ、君さ!」
「……。」
(僕じゃ、ないよな)
「ねぇ君だよ?なんか青色の……」
(僕でしたぁ……)
「はい?なんですか?」
女子生徒はなんとも元気な性格をしており、少し圧を感じたので僕ははにかんだ表情を浮かべる。
「君さ、さっき一生懸命走ってるとこ見たけど君も遅刻かなぁ?」
「はいっ、大正解です。」
「やったー!大正解の景品貰えたり?」
「……ジュース一週間分を差し上げまーす!」
僕らはほんの少しウマが合うのか、意気投合している。
「約束だからねぇ?」
(え?ガチで言ってんの?)
「それはさておきさ、君って超能力者なんでしょ?」
「……。」
(え?ガチで言ってんの?)
あまりに急な問いかけだったため思考が停止した。
女子生徒は苦笑いを浮かべる。
「ごめん!急すぎたね、まずは自己紹介から。
アタシの名前は『浅島 七海』、二年生だよぉ」
「僕は『長春 心夜』、一年です。」
「おっ!後輩だねぇ!」
僕は学校で友達すら作らない為、少しむず痒く感じるが悪くないなとも思った。
友達を作らない理由は、自分の能力のことと、笑わなくなった妹のことで手一杯だからだ。
実は美人な先輩に声をかけて貰えて嬉しかったりする。
「よろしくです。ところで超能力者って、なんですか?」
「誤魔化しても無駄だぞぉ?走ってる時にエネルギーを感じたもん?」
僕はすっとぼけようとしたが、まるで見透かしているかのような自信満々な返し。
しかし、走っている時に能力など使ってはいない。
おそらくハッタリだろうが、一応確認してみる。
(全知発動──)
「おっ……?」
浅島先輩は何かに勘づいたような表情を浮かべる。
(浅島七海は僕の能力に気づいているのか?教えてくれ)
『───そのような情報は検出できません。』
(やっぱりか……ありがとう。)
浅島先輩は僕の顔をジロジロと見ながら興味深そうに頷いている。
かと思ったら、今度は目をキラキラと輝かせ、嬉しそうに微笑んでいる。
そして口を開く。
「何をしたのかは分からないけど今ので確信できた。やっぱり心夜くんは超能力者!是非とも私たちの仲間に──」
「遠慮しておきます」
僕は食い気味に断る。
そして校門をくぐり、スタスタと下駄箱まで向かう。
やはり浅島先輩は僕を追ってくる、そしてしつこく「仲間にならないか」と勧誘してくる。
が僕は「嫌です」の一点張り。
靴を履き替え、教室に行こうとしたその時──
「コラーーッ!!授業中に何を騒いでおる!」
(あなたは二番目に騒いでます)
「すみません寝坊でーす!この隣の人は一緒にサボろうって脅迫してきます。」
「えっ!?」
僕たちの、主に浅島先輩の声を聞き、学校の先生が駆けつけた。
「おい浅島!放課後に職員室へ来い!」
「ええぇぇぇ!?」
「「うるさい!」」
僕と先生は同時に言う。
そして僕は何事も無かったようにゆったりと教室に向かった。
浅島先輩は先生の方を向き、あははと苦笑いをしてから逃げるように自分の教室に向かう。
* * *
学校の校庭で、青色のジャージを着た多くの生徒達が準備運動をしている。
体育の授業だ。
準備運動が終わる頃に、皆と同じ青色のジャージに、青い髪をした生徒が遅れてやってくる。
もちろん僕だ。
「すみません寝坊しましたぁ!」
「長春、遅かったな。今日は予定通り体力測定だ。
五十メートル走にハンドボール投げ、そして握力測定だ。」
「準備運動してきまーす」
「おう。」
僕はグラウンドをゆっくりめに二周走る。
距離にして四百メートルほど。
準備運動を終えるとちょうど僕の番が回ってきたらしい。
「長春、少し休憩しておけ。」
「ウィーッス」
「永山、次お前の番だ。」
「……はい。」
永山は色白で目にクマのある少し不気味な男だった。
髪型はオールバック。
永山と目が合う。
心做しか冷たい目をしていた気がした。
永山がクラウチングスタートの構えをし、五十メートル走に挑む。
先生の「よーいドン」の掛け声と共に、パンッとスターターピストルの音が雲の向こう側まで響く。
そして永山は中々の足の速さを見せつけてくれた。
「永山……六秒.零九!?」
「嘘だろ!?」
「五秒代行けそうじゃん!」
確か陸上五十メートル走の世界記録が『五秒.四七』、日本記録が『五秒.七五』だ。
高校一年が五秒代に届きそうなのは中々に恵まれた記録だ。
「先生次やりまーす!」
「スタミナは大丈夫か?」
「はい!」
僕は元気に復活した。
といっても準備運動で軽くランニングした程度だ。
四十秒もすれば全快していた。
僕はスタート地点の白線前でクラウチングスタートの構えをする。
パンッとスターターピストルの音が鳴り響くと同時に、皆はあんぐりとした表情を浮かべる。
「えっと……長春……五秒.二六」
「「「 はあああぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!! 」」」
生徒皆が、体育の先生までもが驚愕していた。
それはそうだ、世界記録を出してしまったのだから。
しかし明らかに──
(異常だ。
能力を使っていないのに、何でこんなに足が速いんだ?能力が常に身体に影響を与えているとか?
となると浅島先輩は本当に俺の能力に気づいて……いや、全知はそんな情報は検出できないって判断したから、そこは偶然か。)
また永山と目が合う。
なんと永山は、ずっと僕のことを冷たい目で睨んでいたのだ。
僕はサッと目を逸らす。
五十メートル走のトップ三人の記録はこうだ。
秋山の記録、六秒.六七
永山の記録、六秒.零九
長春の記録、五秒.二六
次の種目はハンドボール投げだ。
ハンドボール投げのトップ三人の記録はこうだ。
山本の記録、四九.一メートル
永山の記録、五六.七メートル
長春の記録、六八.七メートル
最後に握力、トップ三人の記録はこうだ。
天音の記録、五五.九キロ
永山の記録、八十.零キロ
長春の記録、八九.七キロ
僕は細身だからなのか、握力では世界記録を出せないみたいだ。
いやそんなポンポンと世界記録を出せても困るけどさ。
* * *
放課後
真っ赤な夕焼けに照らされ、僕は欠伸をかきながら下校をしている。
すると──
「待ってぇ!待ってってばぁ!」
浅島先輩が全速力で駆け寄ってきた。
逃げようとも考えたが、別に浅島先輩は悪い人ではない。
急いで帰る理由もないし、とりあえず話だけでも聞いてみようと思った。
「なんですか?」
「いやそのさぁ、ジュース奢ってくれるんでしょ?」
「え?ガチで言ってたんすか?」
「男に二言は無いでしょ?ほらさっさと先輩にジュース奢る」
そして僕はジュースを奢ることとなった。
先輩と一緒にコンビニへ向かって歩き始める。
「ところでさ?超能力の件なんだけどぉ……」
先輩は恐る恐る話題を振る。
「話だけなら聞いてもいいですよ」
「やったぁ!やっと話聞いてくれる気になったかぁ」
先輩は嬉しそうにオレンジ色の目をキラキラと輝かせ、子供のように「嬉しいなぁ」とはしゃいでいる。
「実はアタシも超能力使えるんだぁ。あともう一人仲間がいてね、その子から能力エネルギーを感知する方法を教えてもらったの。
そしたら君が強そうなエネルギーを発してるのを感じて、それで仲間に勧誘しようと思ったの」
「へぇ……先輩は仲間を集めて何をしたいんですか?」
僕は子供の相手をするように淡々と尋ねる。
「それはねぇ、人助けをするため。困ってる人を助けたいんだぁ!
でも能力のこと世間にバレると面倒だし、都合の良い能力者いないかなぁって探してるの」
(なるほど、それなら僕は打って付けだな。
でも、さっき全知で調べてみたけど浅島先輩は能力を持っていないと返された。やっぱりオママゴトだな。)
コンビニに到着すると、中から不気味な男が現れる。
橙色の瞳に、茶髪のオールバック。
うちの制服を着用しており、体格はやや細身のマッチョ。
感情の読めない無表情な顔で、色白の肌に目にクマがある。
永山だ。
やはり僕を睨んでくる。
「あ!溶真くん!」
浅島先輩が大きな声でそう口にする。
永山も浅島先輩に気づいて少し目を見開く。
「浅島先輩、永山のこと知ってるんですか?」
「七海で良いよぉ」
「溶真で良い。」
二人は俺に言う。
俺が溶真の目を見ると、先程までのように睨むことはなく、不思議そうな表情を浮かべている。
「てかなになにぃ?溶真くんのこと知ってるの?一応さっき話してた能力仲間なんだけどぉ」
「え……?」
(全知、永山溶真は能力を使えるのか?)
溶真が再び僕を睨む。
風が吹き、溶真の髪がゆらゆらと揺れる。
『───永山溶真の能力に関する情報は検出できません。』
次の瞬間、溶真の右拳が僕の顔のすぐそばまで迫る。
僕はギリギリの当たる寸前で拳を掴む。
「何すんだよ急に!」
「お前こそ、今何をしようとした?」
七海先輩は「はぁ」とため息をつき、少しだけ後退りをする。
僕が掴んでいる溶真の拳が徐々に熱を帯びていく。
ジリジリと鉄板の上でステーキを焼くような音が鳴り、僕の掌の皮膚がわずかに溶ける。
思わず手を離した瞬間、溶真の掌から橙色の熱の塊が僕を目掛けて放たれた。
次回
Ep.4【放課後カフェ】




