Ep.5-2【愛しき厄病神】
朝八時十分の朝礼すら始まっていない教室。
朝礼は四十分から、なので教室には五人ほどしか人がいない。
そこで僕は溶真に話しかけていた。
溶真は自分の席に手を組みながら座っており、僕はしゃがみ込んで横から話しかけている。
「──てなわけで、水族館に行こう!」
「断る。」
即答された。
「断るのが早いッ!」
「それをいうなら判断だろ。」
「魚か!?魚がダメなのか!?動物園なら良いんだね」
僕は懸命に頼み込んでいるが、溶真は顔色一つ変えないほどに無関心。
なんなら先程から、ずっと手を組んだまま正面を向いており、僕に視線を向けることすらない。
「動物園も駄目だ。」
「じゃあどこなら良いのさ……?」
「……心夜、お前に一つ教えてやる。一度しか言わないから良く聞いておけ。」
僕はゴクンと唾を飲む。
「俺はなぁ、人の多いところが苦手だ。」
「どッこも駄目やんけッ!!」
僕はムッとした表情を浮かべながら地団駄を踏む。
溶真は「はぁ…」とため息を吐き、横目で僕に視線を向ける。
ようやく目が合った。
「分かった、行っても良いが条件がある。」
「え、やだ」
僕は即答する。
「なんでだよ……。」
溶真は微かに声を震わせている。
先程まで無表情だったが、ピキピキと顔がひきつっている。
「なんか面倒くさそうだし」
溶真の身体からプシュゥゥゥと静かに白煙が放たれ、辺りの気温が上がる。
「なんか暑くないか?」
「急に気温上がったよな」
「妙にこの辺だけ暑くない?」
教室にいたクラスメイトが騒ぎ始める。
溶真の躊躇のない行動に、僕はただただ驚愕していた。
「待って!できる範囲でなら条件のむから!」
「それで良い。」
溶真は傲慢に返事をする。
溶真の身体の熱が収まり、白煙も消えてゆく。
「お、涼しくなってきたぞ!」
「俺なんか、頭痛いかも……。」
「おい、大丈夫か!」
「とりあえず外で涼もう!」
暑さに耐えかねたクラスメイト達は、すぐさま教室から出ていく。
俺は溶真を睨む。
「お前、周りにもっと気を付けて能力使えよ!そもそもバレたら面倒だから人前で使うな!」
「バレたときは全能がいる。」
「僕を尻ぬぐいのためのパシリにするな」
思わず僕はムッとする。
溶真は基本、傲慢な態度しか取らない。
別に僕が嫌われているとかではなく、誰に対してもこんな感じみたいだ。
それでも、こんな憎たらしい奴でも、
友達って新鮮だな。
「それでぇ、条件って何?」
僕は気乗りのしない声で尋ねる。
溶真は僕に体を向けた。
ほんの少しだけ嬉しそうな微笑みを浮かべ、僕の質問に答える。
「──これが条件だ。」
「……またまた、面倒な条件だこと」
「やめとくか?」
「いや、いくらでも受けてやるさ。妹のためだからな」
僕は溶真が出した条件をのむ。
そして、溶真を水族館に誘うことに成功した。
ちなみに七海先輩を誘ったら、「いいねぇ!」と二つ返事で承諾された。




