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8 裳着の儀

3ヶ月も過ぎると、俺はすっかり普通の人間サイズへと大きくなった。


爺さん婆さんからの愛情と栄養と心地の良いのんびりとした生活の末、にょきにょきと大きくなった。


サイズが大きくなるに伴って、髪もやたら長くなったし、手も足もスラリと伸びた。


そして、このお姫様の体、なんと風呂もトイレも必要のない、何処かで信じられていたアイドルのような生態をしている。


…別に、何も期待なんてしてないし…。


…別に。


…。



爺さん婆さんが悩んでいた名前の件は結局、例の貴人の方へ相談したようだ。


その道のプロというのが居るらしく、貴人の方の紹介でその人に名付けを頼んだらしい。


まぁ、俺は名前の見当は付いている…というより知っているのだが、爺さん婆さんが楽しそうなので余計な口出しはしない事にした。




「実はね、髪上げの儀をしようと思っているのですよ」


食事の時に婆さんに告げられたのだが、爺さんも婆さんもニコニコと嬉しそうにしている。


かみあげ…女の子の成人のお祝い的な感じだよな…。


「その時にのぉ、名付けも正式にしようと思うのじゃ」


『ほぉ、それは良いですね』


良いのか…。


「その時にのぉ、世話になった人らも呼んでわしら自慢の娘を紹介しようと思うんじゃ」


「良くして貰った人にもね、なにも紹介したりせずに引っ越してしまったので…良い機会なので紹介できたらと思ったのです」


『世話になった者を呼ぶとは義理堅いですね。

…呼ぶことを許可します』


「みんな、娘の美しさにびっくりするかのぅ」


『…まぁ、このような機会など滅多にありませんし、しょうがないですね』


「これは気合いを入れて準備せんといかんのぅ。…晴れ姿、楽しみじゃの」


「きっととてもキレイですよ」


「わしの出来る限りの力で頑張らんとのぉ」


「わたしもできる限りがんばりますね」


『良い心掛けです』


「…」


…お姫様の声は聞こえていないはずなのだが、3人で仲良く盛り上がっているようだ。


そもそも、髪上げの儀と呼ぶくらいだし、形式的に髪の毛上げて終わりじゃないのか?


身内でお祝い的な感じなのかな…


爺さん婆さんは身内も居なさそうだし、仲の良い知り合いでも呼んで祝うのかな。


「お爺さんお婆さん、私の為にありがとうございます。」


…詳しくはわからないが、とりあえずみんな楽しそうにしているしニコっと笑ってお礼を言っておいた。



…そして、詳しく知らないまま話を進めてしまった事を後悔した…。





髪上げの儀式は裳着と呼ばれる、やはり成人式のような物であった。


少女から大人の女性になり成人として初めて裳を身につけるらしく、化粧や髪上げ、裳の腰紐を結って貰うなどの手順があるらしく、なにやらすごく面倒そうな上に人手を必要とするイベントらしい。


だいたい、裳って何なんだよ…と、思ったら腰ぐらいから垂れている布の名前っぽい。


この布、必要か…?



おかげで、お屋敷の中はかつてなく人で賑わっている。


一緒に名付けもある為、爺さん婆さんもずっと忙しそうにしている。


そして仲の良い知り合いどころか、今回協力して貰った貴人の方はじめ、貴人の方のお知り合いの高貴な方からお近所さんやら付き合いのある人からない人まで、分け隔てなく呼んだらしい。


何故誰も止めなかったのか…。


…いや、止めるのはきっと俺の仕事だったんだ…


しかも三日三晩お祝いをすると聞いた時には、一瞬そういうものなのかと思ってしまった。


しかしお姫様に確認したところ、通常は一日で三日もお祝いなんて聞いたことがないと言われた為、余計に口を出さなかった事を後悔した。


絶対に必要のなかったイベントである。


更に、裳着には結婚適齢期という事を周知する意味もあると知り、すでに始まった儀式中その会話を思い出して泣きたい気持ちになった…。


お姫様は何故教えてくれなかったのか…


『知っていて当然の事ばかりでしょう?』


常識の照らし合わせは大事である。


だいたい、成人式なら昼間のイメージだったのだが、夜に行われる事にもビックリだ。



俺は言われるがままに座って立って移動して、爺さん達や貴人の方の協力により呼んだ身分のある方々に髪を結ばれたり、腰紐を結ばれたり、なにやら寿がれたり…。


俺の内心とは裏腹にとてもスムーズに儀式は進んだ。


いや、スムーズに進むことは良い事なのだが…。


初めてお目にかかる人々は皆一様に俺に見惚れる。


この反応からしても、姫様は一般的にも相当美しい部類の姿をしているのだろう。


爺さんと婆さんの贔屓目では無かったようだ。



因みに俺も鏡で見たが、実に可愛かった。


思わず色々な表情をしてうっとりしていたら、お姫様に怒られた…。


意識が他に飛んでいる間に儀式は無事終わった。


儀式が終わると参加していた見知らぬ高貴な身分の方々からお褒めの言葉を頂いたが、正直おじさん達に美しいだの可愛いだの言われても嬉しいよりも気持ち悪…困惑してしまう。



そして本来その称賛を受け取るべきお姫様からの反応は全くなく、完全スルーしていたと思われる。



…爺さん婆さんに儀式後すれ違いざまに褒められた時は嬉しそうな声で『当然です』と言っていたので、聞こえてはいたはずだ。


儀式が終わっても、お祝いは終わらない。


なんせ三日も予定しているのだ…。


もはや、宴会となったお屋敷には見たことのない人々が沢山いる。


高貴な女性は顔を晒さないというここの常識のおかげで酔っ払いに絡まれたり、お酌する必要がないのはありがたい。


しかし、一応爺さん婆さんの顔を立てて紹介された者には挨拶だけはするようにした。


手には顔を隠す扇子を持ち、少し澄まして涼しい顔で頭を下げる。


開いた扇子を少しだけズラしてチラリと僅かに顔を見せる。


なにやら勿体振るのが良いらしい…。


…俺には理解出来ないが、爺さん婆さんが笑顔で得意気にしているのでどうやら大丈夫そうだ。


…俺は一体何をしているのだろう…。


『なかなか様になっていて、良いですよ』



…珍しいお姫様からの褒め言葉も、全く嬉しくない。



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