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7 平和な生活?

帰って来た爺さんから話を聞くと、お屋敷に間違いはなく、希望するなら人員の手配などもして貰えるそうだ。


ただ、まずは爺さん婆さんも俺もこのお屋敷に慣れてから考えても良いのではないかという話になったようだ。


正直、ホッとした。


よく知らない使用人が増えても気持ち的に疲れるだけだし、爺さん婆さんも慣れない環境は気疲れするだろう。


慣れるまでソッとしておいて貰えるのはありがたい。




次の日から爺さん婆さんと、このお屋敷での生活が始まった。


爺さんは服装こそ綺麗な物になったが、変わらず竹を取りに行くようだ。


そして金の入った竹を見つけては困った顔をして帰って来る。



婆さんは綺麗な服を着て、髪を整えたら上品な仕上がりになった。


俺のためにせっせと美味しいご飯や着物を縫ってくれる。


俺はそんな婆さんの周りでお手伝いをしたり、お昼寝をして過ごしていた。


そしてお気に入りのエジコだが、スクスクと育っている為、1週間程で入れなくなってしまった。


残念がる俺を見て爺さんが新しく少し大きめの物を作ってくれる事になった。


婆さんもせっせと綺麗な布でエジコに敷くフワフワの布団らしき物を作ってくれる。


まだまだ大きくなっても大丈夫なように張り切って大人サイズを作ってくれたのだが、大きい分、時間も材料も掛かりちょっと申し訳なく思った。


そして、完成品を見てビックリ。


それはもう既にエジコではなく竹で作られた和モダンでオシャレなベッドだった。


お姫様もこれには感心して珍しく褒めていた。


あまりの出来の良さに爺さんはこれを売ったら良い商売になるのではないか…とつい思ってしまったが、今お金は足りているので黙っている事にした。


沢山ある部屋の中の奥の寝室をひとつを貰い、大きいエジコの中に小さいエジコを飾る。


『…これは良い物ですね』


「そうだな。寝心地も良いしな…」


何より、爺さん婆さんからの愛情を感じる。


完成品を見て驚いている俺を見て、爺さんも婆さんもいつも以上に優しい笑顔でニコニコしていた。


『作って貰ったのは私なのに、何故か彼らの方が嬉しそうでしたね…』


「そりゃあ、苦労して作った物を喜んで貰えたら嬉しいだろ。」


部屋にでっかいエジコを置いて貰った時、小さいエジコは婆さんが捨てようとしていたので、慌てて返して貰った。


爺さんと婆さんはそれを見て嬉しそうに笑い、次の日には小さい人形を作って渡してくれた。


「これで、ひいな遊びでもすると良いですよ」


「婆さんと一緒に作ったのじゃ」


顔、形は木で出来ていたので爺さんが作り、服は婆さんが作ったのだろう。


俺に良し悪しはわからないが、コケシみたいで可愛いと思う。



『もう、人形遊びする年齢ではありませんが…これはそのまま飾っても可愛いですね』


お姫様はでっかいエジコに続いて気に入った様で、人形を小さいエジコに入れて飾ると声が嬉しそうだった。


爺さん婆さんは人形を貰って嬉しそうな俺を見て、部屋で1人にしてくれる事が増えた。


人形遊びでもすると思われたのだろうか…。


まぁ、そのおかげでウッカリお姫様に話しかけても人形遊びだと思って貰えるだろう…。



俺が唯一心配していたお屋敷の管理だが、このお屋敷に掃除は必要無かった…。


何故か常に埃もなく、庭の草木も好き勝手に伸びる様子がない。


食料等も婆さんが気付くと補充されているようだ。

そして使わなかった食材も傷む様子もないので無理に消費する必要もないようだ。


何度も言っているが、天界のケアがすごい。


そして、爺さん婆さんは何故かそれを全部俺のおかげだと思っている。


間違ってはいないが、間違っている。


絹の着物も食品も準備され、竹を取りに行けば金を持って帰ってくるので、気が付けばご近所でも評判のとてつもないお金持ちになっていたようだ…。


爺さんは竹ではなく、簪や反物のお土産を買って来るようになった。


しかし、しばらくすると爺さんの様子がちょっとおかしくなった。


外出から帰ってくると元気がないのだ。


どうも落ち込んでいたり、何か悩み事がありそうな雰囲気を出している。


そして、婆さんもそんな爺さんを心配そうに見ている。


爺さん達は俺には気付かれていないと思っているようだが、わかりやすい態度でバレバレだ。




「お爺さん、何か悩み事でもあるのですか?」


爺さんが気になり、3人のご飯時に聞いてみた。


爺さんも婆さんも驚いたように俺を見る。


いや、あんなにわかりやすかったのに本当に気付かれてないと思ってたんだな…。


「…急にどうしたんじゃ。…そんな事は…ないのじゃが…」


爺さんは俺に向かって力無く笑う。

婆さんは困った顔をしている。


「…お爺さん、私も大分大きくなりましたし…。最近、お爺さんが何か悩んでいるようで…心配です」


「…」


しばらく悩んでいたが爺さんは話し出した。


「…実はのぅ、前に良くして貰ってた人達と上手くいかんくなってしもってなぁ…」


「お爺さん、そんな事話す事ではないですよ…」


話し出した爺さんを婆さんが止めるが、爺さんは首を振って話を続ける。


「…話さんと逆に心配かける時もあるんじゃろ…」


「でもねぇ…」


「…わしらはなんも悪い事はしてないのじゃから隠す必要はない。」


爺さんは婆さんに向かってキッパリとそう言うと、俺にキチンと話してくれる。


「…わしらが、こんなお屋敷で可愛い娘まで授かってお金に困らんくなったのを喜んでくれる人とな、良く思わん人がおるんじゃ…」


おぉ、なんとなくだが人間関係の面倒さを思い出した…。


「急に態度が変わったり、知らん奴に金があるならこちらにも寄越せと言われたりしてのぉ…」


急に裕福になった爺さん婆さんへの妬みや嫉妬で攻撃的になった奴らや急にへりくだる奴が出てきたんだな。


善良な爺さん婆さんにはちょっとショックが大きかったのだろう。


『そんな下等な者達とは関係を持たないか、縁を切れば良いのです』


お姫様は少しお怒りのようだ。


まぁ、そう出来たら楽なんだが、出来ないから悩んでるんだろうな…。


そもそも、お姫様が金渡し過ぎなのでは…。



「…お爺さん。…大丈夫、そんな良くない人ばかりではないですよ…。

…それにそんな嫌な事ばかりではなくて、嬉しい悩みもあるでしょう…」


婆さんの言葉に爺さんは少しハッとした後にシュンとなる。


「そうじゃな。

…嫌な言い方をしてしまったのぉ…」


爺さんもきっと腹が立つ思いをしたからこその反応だろうに、すぐに自分の態度を反省をする。


『悪くないのになぜ謝るのですか。悪いのは下等で下劣な者達でしょう』


お姫様は反省どころか更に怒っている。


「…ほらほら、おじいさん」


婆さんが爺さんに明るく声をかける。


「…おじいさんが最近悩んでたのはですね…

せっかく授かった娘にぜひ良い名前を付けたいと思って悩んでいたのですよ。

…ね、おじいさん」


婆さんは爺さんの顔を見て微笑みかける。


爺さんも婆さんのそんな様子を見て気持ちを切り替えたのか同じ様に明るく話し出した。



「…そう…そうなのじゃ。

…こんな可愛い娘にぜひ良い名前を付けなくてはいけないと思ったのじゃが、どうしたものかと悩んでおるのじゃ」


昔は女性に名付ける事はないと歴史で習った気がしていたので気にしてなかったが。


…普通に名前とか付けるのか。


確かにいつからカグヤ姫って呼ばれるのかなぁとは少し思っていたが。


…あれ?


逆に今までずっと名前がないなんて酷くないか…?


俺がちょっとだけ爺さん婆さんの愛情を疑った時にお姫様の声が聞こえる。


『下賎な身分なのに娘にわざわざ名を付けるなど…なかなか良い発案ですね』


…娘に名前を付けるのは良い発案だそうだ。


やっぱり普通は付けないが、大切に思っている故に名前を付けるっぽいな。



…爺さん婆さん、愛情を一瞬でも疑ってしまい申し訳ない。


俺は優しい爺さん婆さんの方向に向かって気付かれない程度にコッソリと頭を下げた。






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