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17 大納言 大伴御行 -おおとものみゆき-

『龍の頸の珠は大納言大伴御行です。

大納言は大臣に続いての高い役職で、龍の頸の珠はその名の通り、龍の首辺りにあるといわれている宝玉を指した物です。

龍に関しては存在しないとは言い切れませんが、まず相見える事が無理な上にその頸の珠を奪うことは無理でしょう』


「…お、おう」


お姫様からの怒涛の説明は俺のこれまでの発言を踏まえた上でのものだろう。


だが、何時にない雰囲気で少し気圧される。


ひとまず、情報をちょっと整理させて欲しい。


「龍の珠はオオトモノミユキ…。

…地位は高いけど大臣よりは下、龍は存在しても頸の珠を手に入れるのはムリ…」


『そうです。行くのなら早く見に行きましょう』


「…お姫様、どうした?」


何故こんなに乗り気なのだろう…?


『…』



『…私は今までずっと受け身であったのだと気付きました…

聞くのと実際見るのでは物事が随分違っている事が沢山あります』


…百聞は一見にしかずって言葉もあるし、たしかに自分の眼で確認するのも大切だよな…。


『こんな下界等、わざわざ見る価値など無いと思っていました』


「…」


『しかし、私を拾った小汚い者たちは心優しく…地位のある者程、心無いものが多く感じます』


…。


『これは私の認識と全く違いました』


なかなか勉強だけで学べるものでもないしな…


『私は…結婚もしなければいけないものだと思い込んでいました…

そして、結婚するには…愛を理解しないといけないと思っていたのです…』


なるほど、ここに行き着くのか…。


…婚約が決まったからこそ愛を知ろうとして、なのに婚約者から教えて貰うのが難しそうだったから以前の求婚者のもとへ行って…その相手に不貞の告発をされたのだな…



『…しかしあなたの言動を見て…そして求婚者達の姿を見て気付いたのです』



『…相手を見極める事はとても大切な事なのだと』


あ、…うん。


…と、いうか天界では見極めようともしてなかったのか。


お姫様の気持ちはわかったし、自分の目で確かめる事の大切さに気付けたのは良かったと思う。


俺は何か言えるような立場ではないけれど…ある意味真っ直ぐなこのお姫様には幸せになって欲しいと思う。


顔は見えないが笑ってて欲しい…。


だからこそ、今度こそまともな、…いや、せめてお姫様の男性不信を加速させることのない求婚者である事を願う。


…あれ、…断る予定だからあまりにまともでも困るのか…?




複雑な気持ちのまま向かった大伴御行はこんな時期に何やらお屋敷中を建てかえている最中だった。


大幅なリフォームと家具の入れ替えなどで忙しいようで屋敷中がバタバタとしている。


そして、屋敷にいる家臣が他の屋敷と比べて少ない気がする。


『これはいったい…?…何かあるのでしょうか?』


「…よくわからんが、なんか忙しそうだな…」


俺とお姫様も屋敷に来てみたのはいいものの戸惑っていた。




-「…卿にも困ったものだな」-


-「…本当に」-


-「まさか、家臣を集めてあんなお触れを出すとはな…」-


-「しかも、奥方様達も追い出して…」-



聞こえてくる話はどうも雲行きが怪しそうだ…


『…もう少し詳しく聞きましょうか』


お姫様も今までの経験からすぐに帰りたいとは言わないようだ。


-「本当に龍など存在すると思うか…?」-


-「…いや、…しかしたとえ存在したとしてもその龍から珠とやらを奪うのはムリだろう…」-


-「…しかし、卿は進言した者を叱責したそうだぞ…」-

 

-「…卿はご自分の武力に自信をお待ちだからな…」-


-「あぁ、それは確かに…よく家臣の訓練にも口を出しておられるからな…」-


-「きっとご自分の鍛えられた身体なら出来ないことはないと信じておられるのだ」-


-「…いや、それにしても龍はさすがに無理であろうに…」-


…こいつも怪しくなってきた。


そして…なんとなくうっすら脳筋の匂いが…そして、良くも悪くも直情型な気配を感じるが出来れば気のせいであって欲しい…


-「…物資を持たされて送り出された者達は本当に龍を探しに向かったのか?」ー


-「いや、卿のほとぼりが冷めるまで様子を伺うようだ…」-


-「…それが良いな…卿もいつか気付くだろう…」-


話を聞いていると、どうやら龍の頸の珠を探してはいるようだが家臣が命令自体に従っていない…っぽいな。


幸か不幸か大伴御行は気が付いてないようだが、これはいくら待っても龍の頸の珠は見つからないだろう。

 

この場合、良かったと言うべきか気の毒と言うべきか…


-「それにしても、奥方様を全て追い出すのはやり過ぎではないか…」-


-「そうだな…いくら評判の姫を娶るからとはいえ…」-


-「これまで散々世話になっただろうに…」-


-「ご実家からも大分ご融資頂いていたのになぁ…」-


ー「…次の姫は光輝くように美しい上、相当な富者らしいからな」-



「…」


『…この者も…既に妻が居たのですね…』


おっと…、お姫様が…


「…い、いや。でも、求婚の為に家から追い出すなんて…ほら、誠実?かもしれないだろ…」


ちょっと無理はあるがしどろもどろに頑張ってフォローする。


「…お姫様の為に別れたようだし…隠して求婚する奴よりは、な。」


そう、少し先走り感はあるがお姫様の為に過去の女性達と別れたのだ。


この際、妻が複数形なのは置いておこう。


きっと今までと比べればマシなはず。


『…恩のある妻を簡単に放り出すような者を誠実とは言いません』


…それは…確かにそうかも…。


それにしてもこいつ、…俺にもお姫様にも結婚する気なんてないのに既に妻と別れてるなんて大丈夫なのだろうか…?


…ひとまず、本人を確認してみよう。





-「姫は美しい物が好きに違いない…もっと華々しくするように!」-


「…」


『…』


大伴御行は割とすぐに見つかった。


よく通る声が屋敷に響いていたのでそちらに向かったら、先頭をきって指示を出していた。


-「そこも、もう少し華やかにしろ!」-


人様の趣味にケチをつける程センスが良いわけではないが、これはどうなのだろう…。


部屋ごとに柄の違う綾織物が壁面を飾り、柱は漆でピカピカに磨かれ、所々に蒔絵が描かれた物も置かれている。


更には屋根の上までカラフルに飾り付けられていて、もはや何処に注目すれば良いのかわからない…。


-「間違っても姫に見苦しいなどと言われぬように気合いを入れて飾りつけるのだぞ!」-


張り切った怒声が屋敷に響き渡るが、あれが大伴御行だろう。


いかにも体育会系の筋肉質な大柄の人物である。


よく通る声に逞しい体つき、少し頭とセンスに疑問は残るが、裏表は無さそうな猪突猛進の激情家タイプだと思われる。


「お姫様…ああいうのがタイプってことは…」


『ありません』


良かった。


世の中にはマッチョなスポーツマンを支えたい女子も一定数居るからな…。


『…そもそも、この屋敷も私の趣味とは異なります』


…。


-「おい!そこはもう少し華やかにしろと言っただろ!」-


響き渡る大伴御行の声。


お姫様の趣味でもなんでもない華やかさを求めて頑張る屋敷の者達…。


よし。ひとまず、コイツは様子見で良いだろう。


好きにさせてあげよう。



「…しばらく家臣が帰って来る事もないだろうしぼちぼち様子を見ていけばいいかな…?」


なんとなく、気持ちを切り替えてお姫様に話しかけるとお姫様も面倒臭くなったのか、さっきよりも力のない返事が返ってきた。


『そうですね…。

家臣の様子に気付くまでは放って置いても問題無さそうですね…』



しばらくは様子見をする事になった。



…果たして…こいつはいつ頃に家臣が帰ってこない事に気がつくのだろうか…。



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