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15 車持皇子

家へ帰宅後、お姫様から貴人の方を呼び出す様に言われた。


え、また、貴人の方に頼むのか?

自分の事は棚に上げて思わずお姫様に言ってしまった。


「…ちょっと貴人の方に頼り過ぎじゃないか…?」


『しょうがないでしょう。あなたには伝手も権力もないのですから…』


「…」


手厳しい…。


「…貴人の方に何を頼むんだ?」


『蓬莱の玉の枝制作の為に必要な貴金属類です』


「…?」


『蓬莱の玉の枝を作るとなると、技術だけではなく、上質な材料も必要となる筈です。

秘密裏にそれらを揃えるのは大変なことでしょうね』


お姫様の声は楽しげだが、何故か圧を感じる。


『…それらを揃える為には金銭を惜しむ事がないとわかっているのです。

ここはひとつ、希望通り高額で売ってあげれば良いのではありませんか?』


…なるほど?


『これは損をする話ではありません。

むしろ商いのチャンスを与えているのです』



なるほど。


…つまり搾れるだけ搾り取ろうとしているのか…。


確かに、いくら権力とお金を持っていても貴重な貴金属を秘密裏に入手するのは難しいだろうな。


貴重な品の売買経路なんてある程度決まってるだろうし。


一部の家人以外には旅に出たと偽っている事を考えると、どうも少数で動いているようだし秘密に動くにも限度があるだろう。


『隔離された場所にてさぞ暇を持て余す事でしょう。

ぜひ、他の物も供給して差し上げれば喜ばれることでしょうね』


さらに蓬莱の玉の枝の材料以外の物も高値で売りつけようとしてるんだな…。


まぁ、あんまりな金額なら車持皇子だって買わないとは思うし、…営業してみるのは自由だろう。


…。



とりあえず今回は貴人の方にも得のある話っぽいし、面倒には変わりないが多少頼みやすい気がする。


…それに、入手経路がわかっていればいざ偽物だと証明する時の役にも立つだろうしな。



さっそく爺さん経由で貴人の方を呼んで貰おうとしたトコロ、爺さんから手紙を渡される。


…なんと、帝からの手紙だ。


「かぐや…くれぐれも…くれぐれも失礼のない様に返事を書くのじゃよ」


いつもニコニコしている爺さんがものすごく不安そうに渡してきた。


いや、俺読めないし…読みたくないし…。


あいつイケメンのくせに、まだ俺のこと諦めてないのかな。


お姫様は手紙を読めるかもしれないが、書くことは出来ないから返事は無理だしな…。



結局、貴人の方へは車持皇子の件と共に帝への手紙の返事もお願いする事となった。


御簾越しに頼み事をした貴人の方が笑顔であったのに額に青スジが浮かんで見えたのはきっと俺の気のせいだろう…。


思わせぶりな文にうまく躱す返事を書いてくれた貴人の方はなんでも出来るな…。


ふと、一つの可能性が頭をよぎる。


…下界での補佐ってひょっとして貴人の方なのでは…。


…じゃ、俺は?


自分の存在意義をさらに疑問視することになったので、ひとまずこの問題は置いておく事にする。


そして、その日からどうも帝と貴人の方との文通が始まったらしい…。


『…私の思い付きよりも、あなたの思い付きの方がタチが悪いですね…』


貴人の方、なんだか申し訳ない…。


…でも、ありがとう。助かってます。






それから暫く車持皇子の拠点の様子を伺っていたが、やはり貴人の方は優秀だ。


車持皇子が到着して間もなく、拠点の様子がどんどん華やかな物へと変化している。


どうも小物から調度品まで必要あるのかないのかわからない物まで一新しているようだ。


退屈さを買い物で晴らしているのか散財っぷりがすごい。


辺鄙な場所なのに物資も豊富で全てを入れ替えている様子を見るに貴人の方の商売は相当捗っているはずだ。


パッと見ただけで恐ろしく高級そうな品が日々運び込まれている。


偶に側近っぽい人がそれとなく注意しているようだが聞く耳は持っておらず、品物は順調に増えている。


荘園をいくつも所有しているらしく元々財産がある上での散財気質だった様で我慢をする気も無いらしい。


勿論、以前の言葉通り蓬莱の玉の枝の材料に対する費用も金に糸目を付けていない。


日々気が遠くなりそうな金額を湯水のように使う為、側近の顔色が徐々に悪くなっている気がする。



結局、側近の様子に気付く様子のない車持皇子は隔離はされているが優雅で何不自由のないお買い物三昧の毎日を過ごしているようだ。


この旅で苦労をしたのは最初の船旅だけだったようだな。



…そして、そんな中でも職人達は真面目に蓬莱の玉の枝の製作に全力を注いでいる。


なんと五穀を断つ願掛け等も行い、豊富な材料に感謝し、より精密な作品を造る為に職人の技術を懸けて製作に当たっているのだ。


そんな職人達の様子に俺もお姫様もつい感化されてしまい、いつの間にか完成品が出来るのを楽しみにしてしまっている。


そして気づけば車持皇子御用達となった貴人の方もそんな職人達を気にかけているようで何かと便宜を図っている。


最近は家族への手紙類を託されたらしく状況説明付きの手紙を偶に家族宛に送っているらしい。


とりあえず、蓬莱の玉の枝の偽物については証拠や証人を確保することは出来たとおもうので後はぼちぼち様子を見ておけば大丈夫だろう。



しかし、こうなってくるとあと3人。


火鼠の皮衣と龍の首の玉と燕の子安貝を頼んだ奴らが気になる…。


「お姫様、他の3人も確認する?」


『…気にならないといえば、嘘になりますが…』


「…じゃ、見に行こう」


『…そうですね』


正直、俺が竹取物語で内容を覚えていたのは蓬莱の玉の枝の件だけなので残りの3人に関してはどうなるのかサッパリ予測が付かない。


話的には失敗していたと思うのだが、どうやって失敗したのか気になるところだ。


「…それで、あと3人なんだけど…」


『…なんですか?』


「お姫様って…名前覚えてる?」


『…』


話を覚えていた蓬莱の玉の枝の時でさえ人物名を覚えていなかった俺が他の奴の名前を覚えているはずがない。


お姫様はため息を吐きつつ3人の名前を教えてくれた。



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