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13 車持皇子 -くらもちのみこ-

「かぐや、車持皇子殿も旅立たれるそうじゃ」


石作皇子の事があり、何とも言えない顔で爺さんが報告してくる。


はて、クラモチノミコとは誰だっただろう…?


『…。…あなたが蓬莱の玉の枝を求めた者です』


呆れた声のお姫様が教えてくれた。


いや、求婚者の1人だという事はなんとなくわかったのだが、あの時はちょっとテンパっていた為、その時に居た人物の正確な名前と顔と誰に何を求めたのかは覚えていないのだ…。


…あれ、つまり求婚者達に関しては何にも覚えていないという事か…?


…まぁ大丈夫だろ。


そうか、クラモチノミコは…



「…蓬莱の玉の枝…」


「…そうじゃ。…きっと見つけて来てくれるからのぉ…」


俺の呟きを聞き、ポンポンと軽く肩を叩きつつ爺さんは何故か俺を慰めてくれる。


いや、見つけて来て欲しくないんだって…


爺さんと婆さんは何故か俺が結婚に対して否定的な事をすっかり忘れているようだ。


まぁ、どうせ失敗するから良いのだが…。





「よし。行くか」


部屋にて1人になりお姫様に声を掛ける。


『…また行くのですか…』


お姫様の声は嫌そうだ。


…だが、今回は大丈夫。


「クラモチノミコは蓬莱の玉の枝の偽物を用意する筈だ。」


『…』


俺の確信を持った言葉にお姫様の反応がない。


「…あれ?聞こえてる?」


『…聞こえていますが、一体何を根拠に…』


根拠はないが、俺は知っているのだ。


「大丈夫。今回は簡単に証拠を集めてこよう」


俺は自信を持ってそう言った。




「あれ?」


思っていた状況と違う。


影を渡り移動して車持皇子のお屋敷へと向かったが既にお屋敷に人手はなく、どうも港へと向かったらしいことが残った家人の話で知る事が出来た。


よくわからないが、港に居るのならば行ってみようと向かったところ、なにやら悲壮感やら緊張感やら激励といった雰囲気で別れを惜しむ人々のいる現場へと到着した。



一人の年老いた家令っぽいのが、船へと渡ろうとする男へと声を張り上げている。


「…本当に海へとお渡りになるのですか?」


家令っぽいのへ向かって返事をする男。


「大丈夫だ。きっと無事に戻って来る」


「…しかし…海は命懸けの旅になります」


男は家令に向かって爽やかに宣言する。


「私は、姫の為に何としてでも蓬莱の玉の枝を手に入れて帰るつもりだ」


「…なんと!

そこまで想っておいでなのですね…」


家令がおいおいと泣き始める。


少し遠巻きにそれを見る人々。


「…見送りはここまでで良い。

朝廷には湯治に参ると伝えてあるし、私は気心の知れた者たちとひっそりと御忍びで行く予定だ。

…あまり目立ちたくない故、皆はここで帰ってくれ」


「…わかりました。

…旅のご無事をお祈りしております」


泣いていた家令っぽい老人は見送りの者達と少し後ろへと下がる。


周りで遠巻きに見る者たちはどうも感動しているようで中には涙ぐむ者まで居る。


え、何やってんだ…?


俺は純粋に疑問に感じたのだが…


『…これは…どうも感動的な見送りの場面に立ち会ったようですね』


…お姫様の言葉に考え直す。


…これは、感動的な場面なのか。

何かの演目でも演ってるのかと思った…。


旅立つ予定の男はやたら爽やかな笑顔を振り撒き、動作もわざとらしくて胡散臭いし、御忍びとか目立ちたくないと聞こえた割には男も家令もよく通る声で話しているうえ、遠巻きにすごい注目されている。


むしろ、これから旅立ちますアピールをしているのかと思った。


…というか、会話からしてアイツが車持皇子か。


なんだか生理的に受け付けな…いや、第一印象で全てを決めつけては失礼だな。


…そんな事よりも、こいつ船で旅立つのか?


いやいや、…蓬莱の玉の枝っていえば偽物作って持ってくる筈だよな。


いったいどうなってるんだ?


詳しい事を知りたいが、本人は船で出港しようとしている。



「お姫様、アイツの船に乗ったら帰って来るのは無理かな?」


『…道さえ繋げば行き来は出来ますが、…旅の様子まで見に行くのですか?』


お姫様は少しゲンナリとしているようだ。


「いや、ちょっと確かめたい事が…」


と、いうか…


「旅の様子まで見に行けるのか?」


なにそれ楽しそう。


『…余計な事を言いました…』


珍しくお姫様の反省の言葉を聞くこととなった。


影の移動のポテンシャルがすごい。




とりあえず船へと影の移動で渡り、今がどんな状況なのかを知る為に船上での会話を聞けるようにする。


船の上にはゆったりと寛ぐ様子の爽やか男と側近らしき男が居る。


他にも何人か居るようだがそちらはバタバタと出港の準備をしている。


船は屋形船の屋形部分に壁をつけて漁船を少し大きくした感じの小さくはないが、すごく大きいという程でもない木で出来た船だ。


…こんなので船旅に出るなんてすごいな…。



ちょっと態度にワザとらしさはあるが、本当に命を懸けてまで海に出るなんてすごい奴なのかも知れない。


こんな木で出来た船で何十日とかかる船の旅に出るなんて普通に考えたら無理だろう。


…しかも、良いとこのお坊ちゃんなら尚更箱入りで育ったのだろうに…


俺がちょっと尊敬の気持ちを込めて見つめた先から会話が聞こえて来る。



-「…計画通り旅立つ事が出来そうですね」-


-「そうだな。…これで私が旅立ったと皆にしっかり印象付ける事が出来たはずだ…」-



やっぱり、あれは旅立つアピールだったのか…


俺の中で上がった好感度が少し下がった。



-「準備は順調です」-


-「そうか。…では、予定通り2~3日程したら船を岸へとつけよう」-


-「岸に着くまで暫く窮屈な船旅となりますが…」-


-「良い。わかっている。

これも、全てを手に入れる為には仕方のない事だ…」-



…?


…2~3日?


「お姫様…2~3日の船旅で海って越えれ…」


『…』


「…ないよな…」


『…』


…。


こいつもか…。


いや、し、知ってたけどな。


危ない…俺はコイツが偽物を作らせるって元々知ってたはずなのに、ここまで派手な感動の別れシーンを見せられてつい信じそうになってしまっていた…。


これは、遠巻きに見ていた奴らがすっかり信じてしまってもしょうがないな。


それにしてもコイツ石作皇子よりタチが悪いな…。



あまり長時間家を空けると爺さん婆さんに気付かれてしまうので、一度家に帰ることにした。


お姫様曰く、一度道を繋げば辿り着く事が出来るらしいので、また見に行こうと思う。


ひとまず、船から家へと帰ることにする。



『…下界の男に誠実な者は居ないのですか…』


お姫様は下界の男に不信感を抱き始めたようだ。


「いや、たまたまそんな奴ばっかに当たっただけだよ…」


…たぶん。


そんな男ばかりではないと言い切りたいが、正直俺も少し不安になってきた。


「…クラモチノミコは2~3日は船に乗るみたいな事言ってたし、とりあえず何処かに着く頃にまた見に行ってみるか…」


『あんな者の事は放っておけば良いのではないですか…どうせ見つける事など出来ないのですから』


お姫様はうんざりした声で言うが、奴は失敗するのではなく、偽物を作って持ってくるはずなのだ。


一応確認しておかないと不安が残る。




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