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10 帝からの求婚

あの求婚者達との対峙から数日後、新しい事件が起こった。


やたら、玄関先が騒がしいと思ったらなんと帝からの使者が来たのだ。


どうも、俺の噂が帝の所まで届いたらしい。


噂の俺を一目見たいとの事だったが、よくわからんがこれは断固拒否するべき案件だろう。


爺さん婆さんが呼びに来たので、とりあえず天界頼りで貴人の方へ相談する事を勧めた。


万が一、俺が不敬を働いて何か罰を与えられる事になったら困ると爺さんに伝えると何やら納得して急いで貴人の方のトコロへと走っていった。


前回やらかした無理難題が余程衝撃的であったようで、無理に会わされるような事は無かった。


その後、同じ使者が何回か訪ねてきたようだが追い返された様子を見るに貴人の方から何かアドバイスを貰ったようだ。


ありがとう、貴人の方。

ありがとう、天界。


そして、他の求婚者達の件もついでにどうにかしてくれないだろうか。


『なかなか良い性格をしていますね…』


今は最高の褒め言葉だ。



…しかし、現実はそんなに甘くない。


そのうち帝も諦めるだろうと気楽に構えていたら、なんと帝が来たのだ…。


どこへ?


もちろん我が屋敷にだ。


流石に正式な訪問ではない。


鷹狩りに行った帰り道に休憩をさせて欲しいと訪れたのだ。


なんというセコい手を使うのだ。


当然、爺さん達に拒否する事は出来なかったようだ。


一応、貴人の方に頼んで最近は在住している使用人もいるのでおもてなしはなんとかなっているようだが、俺は絶対顔を出したりするつもりはない。


いつもと違い騒がしい屋敷の少し奥の部屋で嵐が去るのを待つ事にした。




忙しそうにバタバタとした気配を感じる屋敷の表側から少し離れた部屋にてぼんやりと時が過ぎるのを待っていたその時、


「…これは」


急に見知らぬ男の息を呑むような低い声が聞こえて振り返る。


え、なんで居るんだ…。


隣の部屋からこちらを見る男を見つけゾクっとする。


屋敷には迎え入れた者しか入れない結界があると聞いていた為油断していたが、屋敷に入って仕舞えばそれ以上の制限は無いのだろう。


見知らぬ男が突然現れた事に思わず動揺する。


ひとまず逃げなければ…


念の為手元にあった扇子で顔を隠して奥の部屋へと逃げようとすると、男が近寄ってくる気配がする。


「待て。逃げる必要はない」


いや、許可もなく女の部屋に押し入るなんて不審者以外の何者でもないし普通逃げるだろ。


大体誰だよ。


心の中で苛立ちつつも俺は急いで立ち上がり逃げようとするが、着物の動きづらさが足を引っ張る。


『この者、服装が…。


ひょっとして下界の王、…帝と呼ばれる者ではありませんか?』


お姫様の言葉に驚いた。


え、帝?


一瞬の戸惑いで袖を捕らえられる。


「捕まえた」


この帝らしき男、やたら良い声をしている。


その上、女慣れしたモテ男的な雰囲気を感じる。


自分が拒否られるなんて考えてもいないような余裕を感じて、なんだか無性に腹が立った…。


正直に言おう…嫉妬だ。


さっきチラリと見た時、顔もスタイルも悪くなかった…いや、むしろこの時代の人間とは思えない程イケメンだった。


…妬ましい。



『…この者…』


必死で扇子で顔を隠してなんとか逃れようとするが余裕で優しく捕らえられている。


その優しさが、くっそ腹立つ。


「…どうか、お許し下さい。」


感情を隠して怯えたように訴える。


か弱い女の子にそう言われたら、離すしかないだろう…そう思ったのに。


この男、何やら楽しそうにこちらの様子を伺っている。


「放さないよ。

…こんな可愛い姫はこのまま我が屋敷に連れて帰ってしまおうかな」


いやいや、ないだろ。


え、ありなの?

権力者のイケメンはそんな事もありなのか?


冗談か本気かわからないが、勘弁して欲しい。


隙を見て逃げたいが、お屋敷の中を全力疾走する事も今から何処かに隠れる事も現実的ではない…。


どうしたものかと悩んでいる時にお姫様から助言をもらう。


『腕を振り払って影に入りなさい』


かげ?

隠れられるような影なんてないのだが…。


もう少しわかりやすい助言が欲しい。



「ふふ。…さぁ可愛い姫、このまま私の御輿で一緒に行こう」


『今です。振り払いなさい』


帝は俺を連れて行く為に抱き抱えようと袖を離したのでその隙に手を振り払い、よくわからぬままに部屋の端の物陰目掛けて駆け出した。


『影に入りなさい』


とりあえず言われるがままお姫様の指示に従う。


しかし、俺の着物姿での動きは鈍い為、帝もやれやれといった様子で追いかけてこようとする。


正直すぐに追いつかれるだろうと思いつつ部屋の端の影に入った途端ストンと影に落っこちた。


いや実際には落ちたわけではないのかもしれないが、体感としてそう感じたのだ。


「…っなに。」


帝の驚く声が聞こえ、慌てて近くに寄ってきた気配はするが何処か壁を隔てた向こう側で驚いているような感覚だ。


なんだこりゃ。


『これで安全は確保できました。さぁ、あの者を追い払ってください』


お姫様の無茶振りも酷い。


だが、とりあえず追い返したい気持ちは俺も同じだ。


「っ姫。いったい何処に…」


キョロキョロと周りを見渡しながら俺を探す帝に声を掛けてみた。


「わたしはここです…」


「なんと。…姫。無事なのか?

…声は聞こえるのに一体どうなっているのだ…。」


よし。声は聞こえているようだな。


「私はこの世界の者ではありません。

ですから一緒に行く事はできません。」


『相変わらずはっきりと言うのですね』


俺のセリフにお姫様のちょっと笑いを含んだ呆れ声が聞こえる。


だって他に言いようがないだろ。


「…この世界のものではないなんて…

そんな事あるわけが…」


帝は半信半疑の様子だ。


まぁ、普通の人間なら当然の反応だよな。


「この状況こそが証拠となるでしょう…。

ですので、一緒には行けません」


だから早く帰ってくれ。


そんな気持ちを込めて帝の様子を伺うと何かを考え込んでいる。


「…」


「…」


「わかった、今回は諦めるとしよう。

…だから姿を見せてくれないか。」


帝は軽くため息を吐くと両手を上げてみせる。


いちいち仕草が様になっていて腹が立つ。


「…お帰りくださると、お約束していただけますか?」


「…。…約束しよう」


「…」


『…ここまではっきりと言い切ったならば、きっと大丈夫でしょう…』


お姫様からも大丈夫と言われ、ひとまず帝の言葉を信じる事とした。


さて、どうやって戻るのだろう…。


『表に戻るつもりで動くと戻れます』


よくわからないが、ヨイショと一歩前に動くと帝の前に姿が戻った。


「本当に普通の人とは違うのだな…」


とても残念そうにそう言う帝に向かって営業スマイルを向ける。


「…お約束どおり、お帰りはあちらです」


「…確かに、約束したからな…」


来た道を手に持っていた扇子で指し示すと帝は苦笑しつつ素直に引き返して行った。


チラリチラリとこちらを振り返っては名残惜しそうに去っていく帝に変わらぬ営業スマイルで手を振った。


その後、なんやかんやと爺さん婆さんが、帝御一行の為に歓迎の宴を催したようだったが俺の部屋に立ち入るものは誰も居なかった。


もしも願いが叶うなら、守りの結界を俺の部屋にも付けて欲しい。


帰り際に帝からの文が届いた。


残念ながら俺には読めなかったのだが、お姫様には読めたようで内容を教えてくれた。


『要するに、この者もわたしを嫁に貰いたいと思っているのです』


いやいや、上手い事断って貰いたい…


と、いう事で返事は帝のおもてなしのフォローに来ていた貴人の方に頼んでみたトコロなんと上手い事返事を送ってくれたのだ。


簡単に言えば、畏れ多いです的な文を送ったらしい。


なんて無難で当たり障りのない理想的な断り文句なのだろうと思わず感心した。


もし、俺がこの貴人の方の上司であったなら、ボーナスを上乗せしてあげたい程に毎回の手際の良いフォローに感謝の念が絶えない。





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