プロローグ
誰もが嘆く。「人生をやり直したい」と。
誰もが語る。「人生に後悔なんて無い」と。
はっきり言おう。どちらも嘘だ。
そんなのは今を必死に生きている奴らに比べたら贅沢な願いだし、死の恐れをどうにか紛らわすための浮ついたセリフにすぎない。
何故言い切れるかって?
どっちも経験したからだよ。
だけどあのマンションの屋上の淵に立った時。
あの時は間違いなく、こんな人生、もう一度最初からやり直せたら……って思っていた。
心に煤として残った、失敗とか後悔とか。その全てから解放されて。この柵を乗り越えて、ゲームみたいに全部リセットすることができたらって。
不思議な気分だった。天に登りたくて高いところに来たのに、死ぬときは真っ逆さまに落ちていく。身体が空を切っていく感覚は子供の頃、好奇心を頼りに公園を疲れるまで走り回ったあの時の快感に似ていた。
一瞬の痛みと共に訪れた黒い静寂。
でもそこで終わりじゃなかった。
瞼を恐る恐る開けると、そこには映画でしか見たことのない、美しい草原にポツンと立っていた。
『もう、わかってるよ』って顔してるな。
そう、俺は異世界『ニルヴァーナ』を跨ぎ、異世界転生ってのを繰り返した『転生者』だ。
羨ましい?
確かに気持ちはわかるよ。でも、みんなが思っているほど良いものじゃないんだ。
何度身体が生き返っても心は……魂はどんどん蝕まれていく。それを繰り返して繰り返して、いつか思うことになる。
もういっそ、無限の暗闇の隅で、何も考えず穏やかに眠っていたい、ってな。
さてと、これから語るのは俺の人生のうちの、ほんの一片だ。全て話せとなると、それこそ一生分語ることになってしまうね。それでも長い長いなが〜い話だけどね。
これは俺が死ぬまでの物語。
そして俺が生まれ変わるまでの物語だ。