恨みを込めろと言われましても
「まあ、これを私に?」
「はい!ヘンリエッタ様の為に頑張って手に入れたのです!是非ともご使用下さいませ」
その時のエミリー様の目は本気でした。
エミリー様、私は見るからに怪しいこんな物は要りません。
そう断る事が出来たらどんなに良かったでしょう。
「貴重な物なのでしょう?私が頂いてもよろしいのでしょうか」
遠回しに要らないと言ってみたのですが、エミリー様はその怪しい物体を私に押し付けてきました。
ちょっと止めて。こんな物触りたくないのだけど。
「遠慮なさらないで。是非ともこれを使ってヘンリエッタ様の恨みをはらして下さいませ!」
エミリー様、私には恨んでいる人などいません。
「まあ、恨みを………」
「これにヘンリエッタ様の恨みの念を込めて祈れば、この呪いの呪具がその相手を呪ってくれますわ!」
エミリー様、私には呪いたい人などいません。
私がこれを受け取ることを疑ってもいないエミリー様の様子に頬が引きつります。
それでも私はこの呪具だという怪しい腕輪を受け取りました。
だって受け取らなければエミリー様が逆恨みして私に呪いをかけてくる可能性とかありそうですよね。
「ヘンリエッタ様の恨みの強さが強ければ強い程、呪いの力も強くなるはずですわ!あの泥棒女を呪い殺してやりましょう!」
え、ころ………!?
ちょっ、エミリー様本気で怖いです。
私が持つよりエミリー様が使った方が絶対効果ありますよね!?
エミリー様が私に下さったのは怪しいオーラを放つ腕輪でした。
石が一つ付いていて、どこか黒っぽい斑色のその石は、悪いものが詰まってそうな気がします。
呪具との事でしたが、成る程、素人の私でも分かるような普通じゃない感が凄いです。
持っているだけで気分が悪くなりそうです。
エミリー様はこんな怪しい物どこで手に入れたのでしょう?
そしてそれをわざわざ私に渡してくるってことは、彼女には私は人を恨む醜い心を持っていると思われている訳ですよね?
エミリー様が私のことをどう思っているのかよく分かりました。
エミリー様の望みは私がこの呪いの腕輪に恨みの念を込めて私の婚約者の殿下と想いが通じ合っている男爵令嬢に呪いを掛けろ、ということなのでしょうが。
エミリー様、私は全く二人を恨んでいないどころか、二人の仲が進展するように頑張ってきたんですよ。
この国唯一の王子であるギュンター様と私は婚約者同士ではありますが、私達二人の仲は良くないのです。
良くないというか、全く噛み合わないといいますか。
どうやっても気が合わない相手って誰にでもいますよね。
嫌いな訳ではないのですよ?
話していても楽しくないというか、私は早々に殿下と親しくなる為の努力を放棄してしまいました。
だから私は殿下に特別な感情は懐いておりません。
殿下の方も私にあまり興味がないようなので同じようなものだと思います。
私と殿下の婚約は陛下や宰相様が家格の都合などを考えた上で成立したのですが、まさかここまで関係が進展しないとは誰も思わなかった事でしょう。
王宮では密かに陛下と宰相様の人生最大の失敗ではないかと言われているそうです。
私と殿下の婚約が今まで解消されていないのは王族の婚約は簡単に解消出来ないから。とか言われてますが、本当は自分の決断が誤りだと認めたくない陛下と宰相様の無駄なプライド故ですよね、絶対。
子供の時は合わなくとも大人になれば違うだろうと希望を持たれていたようですが、私と殿下はもうほぼ大人なんですよね。もう無理でしょう。さっさと諦めた方が得策です。
だから、ギュンター様がアメリア様と惹かれ合っているのを見た時、私は二人の仲を応援しようと思ったのです。
頭の硬いあの殿下が予定を変えてまでアメリア様と会う時間を作ろうとされていることを知った時、殿下を押し付け、ではなく、任せられるのはアメリア様しかいないと思ったのです。
まあ、その応援の仕方は苛めをするのに近かったので、エミリー様が誤解してしまったのも多少は仕方ないのですが。
二人を応援するにあたって気付いたのですが、どうやら障害がある方がこの御二人の恋心は良い刺激を受けるようなのです。
私は恋の刺激的調味料になるべく、立派に障害の役割を果たしてきたのです。
それに、アメリア様は中々の負けず嫌いで、ちょっと注意しただけで素晴らしい成果を見せてくれますので見ていてとても楽しかったです。
別に苛めを楽しんでいた訳ではないんですよ?
それに、殿下はこの国唯一の王子なのです。
惹かれ合っているとはいえ守って欲しいだけのお嬢様では殿下の相手として認められません。
その点アメリア様は殿下に並び立つ為に努力を怠らない素晴らしい方です。
いずれ私と殿下の婚約は解消してアメリア様が殿下のお相手になるのがどう考えても最善策だと思ったのですが。
そうは簡単にいかないのが国というものですよね。
どうしても己の判断が間違いだったと認めたくない陛下と宰相様は私を正妃に、アメリア様を側室に、なんて考えているようなのです。
王家と婚約解消した私の立場が悪くなることを考えて、とか言ってますがね。
国内に居づらいなら国外に出たら良いだけなので私としては殿下と結婚するなんて地獄のようなものなのです。
王妃にも興味ありませんし。
私は楽が出来るなら楽をしたい人間なので。
私も貴族の娘。殿下と陛下と宰相様が地獄の道を進むというのなら、お供しましょう。
皆が地獄に進むというのなら、私も受け入れます。
しかし、同じ地獄に特別は認めません。
殿下はアメリア様を諦め、陛下は夜のお楽しみを全て諦め、宰相様は奥様と離縁してその後親族とは一切会わないくらいの地獄に堕ちて下さるなら、私は共に地獄に行きましょう。
ですが、殿下にアメリア様という花を与えるのは許せません。
地獄は地獄で平等でなければ。
私と殿下の結婚を強要されそうだったので、私は病気になって領地に引きこもる予定を立てていました。
体調が良くならないので結婚は無理です、と逃げる計画ですね。
とても単純な計画ではありますが、あえて分かりやすい拒絶をすることも作戦の一部です。
変な画策をする方が失敗しそうですし。
ですが、私と殿下の関係も、年頃の乙女には現実が見えていないようです。
私が殿下を奪うアメリア様に嫉妬しているとエミリー様は思ったのですよね。
まさかこんな呪具を渡されてしまうとは。
しかも卒業式の前日にですよ。
怪しいと分かっていてもつい試してしまうのは、若い娘としては仕方ない事ですよね。
「ふんっ。ん、ん、ん、ん」
唸りながら腕輪に恨みを込めてみようとしてみたのですが。
「何も、変わらないですね」
まさかただの偽物?
こんなにも怪しいオーラを纏っているのに?
何だか騙された気分!
とちょっと怒りながら腕輪を見ていますと、何だか違和感が。
腕輪には紋様のような文字のようなものが彫られています。
その紋様のようなものが何だか変化している気がするのですが。
『足りない』
と読めますね。
えーと、つまり、恨みの念が足りない、とこの腕輪が教えてくれているの?
「え、呪具ってそういう仕組み?」
初めて呪具という物を見たのでよく知らないのですが、呪具とはこういう仕掛けがあるものなんでしょうか?
「いえいえ、まさか。そんなまさか」
この呪具が特別変わっているんですよね?
試しにもう一度恨みの念を込めようとウンウン唸って頑張ってみました。
『諦めろ』
え、今度は諦めろと読めます。さっきと変わっている!
ていうか諦めろとは、私には恨みの念を込める才能がないということでよろしかったでしょうか?
これはこれでちょっと腹立ちますが、もう二十分はウンウン唸ってみたのに無理だったのですから、本当に私には恨みの念を込める才能が無かったということなんでしょう。
私は諦めて腕輪を外そうとしました。が。
まさかの外れない。
そこはばっちり呪具なんですね!?
呪具さん、外れないなんて呪具らしさを出さなくてもいいんですよ?
ていうか、私の腕から外れないで粘っても恨みの念はいつまでも集まりませんよ!?
呪具さん、あなたの方が諦めて私の腕から離れて下さい!
腕を振り回そうが机の角にぶつけようが腕輪は外れません。
『我に恨みを』
なんて偉そうに意思表示されましてもね。
私ではムリなのです。
さっさと外れなさい。
むしろ外れないことへの恨みの念を込めろとでもいうのでしょうか。
私が一人部屋で腕輪と戦っていますと、部屋の扉が叩かれました。
腕輪を服の袖でさっと隠して部屋の扉を開けますと、そこにはいるはずのない人が。
「ロニー様!?」
ロニー様はさっと部屋の中に入ってきて扉の鍵を閉めてしまいました。
「ロニー様、一体何を」
するのですか、という私の言葉は続けることが出来ませんでした。
ロニー様は跪いて私の両手を握ってきました。
「ヘンリエッタ嬢、貴女を愛しています。どうか私と、逃げて下さい」
ロニー様は私に求婚してきました。
ロニー様は、兄と同じ年で、私よりも五歳年上です。
家の領地の隣にある隣国の貴族です。
隣国とはいえ領地が隣同士なので、昔からの知り合いです。
そして、私の憧れの人でもあります。
憧れの人に求婚されて嬉しくない訳ありません。
でも、私はまだギュンター様の婚約者なので、この求婚を受ける訳にはいきません。
それに、逃げて下さいって、駆け落ちということですよね?
「ロニー様、それは」
受ける訳にはいきません。
ロニー様は次期伯爵様になることが決まっている人。
ロニー様のご両親はもういないので、祖父である伯爵様から爵位を継ぐのはロニー様しかいないのです。
駆け落ちなんてしたらロニー様から大切な人生を奪うことになるじゃないですか。
私だって逃げ回る人生なんて嫌です。
だから、病気になったことにして領地に引きこもって、婚約が解消してからロニー様にアプローチしようと思っていたんです。
ロニー様は熱心な瞳で私のことを見てきます。
ちょっと恥ずかしいじゃないですか。
っていうかさりげなくロニー様の手が腕輪に掛かっています。
あ、ちょっとそこには怪しい腕輪があるので出来たら触らないで欲しいのですが。
「兄のように慕っていた私からの求婚なんて気持ち悪いかもしれない。しかし、私は貴女のことをずっと愛していたんだ。諦めきれず、未だに婚約者もいないくらい」
ロニー様の言葉に顔に熱が集まります。
跡継ぎであるはずのロニー様に婚約者がいないのはずっと私のことを想っていてくれたからということ!?
兄のように慕っていたなんてとんでもない。
私だってロニー様のことをずっと想っていました。
ギュンター様との婚約が決まって、私は頭に十円ハゲが出来るくらい悩んでいました。
それだけ精神的に追い詰められていても、回りの人は私が我慢するべきだとか殿下のことをそんな風に言うべきでないとか綺麗事ばかりしか言いません。
誰も私の気持ちを汲み取ってくれる人などいませんでした。
唯一、話を聞いてくれたのがロニー様でした。
隣国の貴族であるロニー様に殿下とのことを言うべきでないことは分かっていたのですが、まだ子供だった私にはそれよりも溜まった鬱憤をどこかに吐き出してしまいたかったのです。
殿下の婚約者に選ばれることは栄誉なことなのだから。とか言われても、会話をするのも苦痛な人と結婚しなければいけないという絶望の方が大きくて。
ロニー様は聞かなかったことにするから、と言って私の支離滅裂な愚痴を聞いてくれていたのです。
なんで私ばかりがこんなに我慢をしなければいけないの、という心の悲鳴をロニー様が聞いてくださったから、今の私があるのです。
もう惚れるな、っていう方がムリですよね。
私の方こそロニー様は私のことを妹のようにしか思っていないと思ってました。
嬉しい。とてつもなく、嬉しい。
ですが、今その気持ちを受け取ってしまうと、浮気になってしまうのです。
殿下の方が先に浮気している現状があったとしても、まだ婚約解消していない内に私が恋人を作ってしまったら、私の非を理由に婚約破棄にされる可能性があります。
それは嫌です。
国の汚いおじさんにいいように利用されるなど、もう嫌ですからね。
でも、ロニー様の気持ちが嬉しいのはどうしようもなくて。
「ロニー様、わ、私もロニー様のことをお慕いしています」
だから、無事に殿下との婚約を解消してからもう一度その言葉をお願いします。
と続けたかったのですが、言い切る前にロニー様が喜びの雄叫びを上げてしまいました。
「うおおおおおーーー!!」
え、ロニー様、落ち着いて?もう家の屋敷中に響いてますよ?
この部屋には忍んで来たんですよね?
婚約者がいる娘の部屋に二人きりとかもう浮気の証拠ばっちりになっちゃいますが。
「ヘンリエッタ嬢、本当に!?貴女も私のことを!?」
立ち上がったロニー様は私の両手を握ってきまして、私の胸元に両手がくる形になっています。
うん、まだ腕輪が気になるところではありますが、ロニー様の喜び様に私も嬉しくなってしまいます。
「はい、ロニー様。ずっと、お慕いしていました」
感極まったロニー様は私のことを抱き締めてきました。
その時、私とロニー様との間に光が走りました。
明らかに、あの腕輪からです。だって腕輪を着けている手首が熱いですもん。
喜び過ぎて気付いていないロニー様を何とか落ち着くように諌めて体を離してもらい、袖を捲って腕輪を見てみます。
そこには、あの禍々しいオーラと斑色の怪しい石はどこにいったのか、石があった場所にはピンク色の石があります。
「え!?石の色が変わってる!?」
腕輪の文字を見てみますと、そこも変わっていました。
『恋の成就』
と読めます。
腕輪を見て動揺する私を、ロニー様が甘い表情で見てきます。
あ、待って、待って。
私、今どっちの対応をするべき??
あの後、ロニー様はちゃんとお父様の許可を得て私に求婚してきたことが分かりました。
だから扉から入ってきたんですね。
私に会いに忍び込もうとしたらお父様に見付かり、ちゃんと許可を取った上での求婚だったのですが、私を連れて逃げるくらいの気持ちを持ったまま私の部屋に来てしまったので「逃げる」という言葉が出てしまったらしいです。
もう、紛らわしいですね。
でも嬉しかったのでよしです!
お父様は私とギュンター様の婚約を正式に解消するべく陛下と宰相さんとは話をするつもりだったとのことです。
私とギュンター様の仲が良くないことは周知の事実ですし、ギュンター様とアメリア様のこともけっこう知られてますからね。
お父様にとっては王家との仲を強化することよりも隣国との繋がりを得る方が利益を得られるので、もともと私とギュンター様の婚約は賛成していなかったのですよね。
そして、呪具のことですが。
「恨みの念が二人の恋の成就によって浄化されたのだろう」
色々な物を見てきたお父様の見解では、どうやら私とロニー様の『愛の力』で呪具の恨みの念を浄化するという『奇跡』を起こしてしまったようなのです!
でもお父様の口から聞くと何だか笑えます。何ででしょう?
まあ奇跡を起こそうと今のところ浮気なんですがね!
エミリー様は宰相様と近い家柄なので、そこら辺を責めて宰相様に揺るぎをかけるのもありですよね。
だって、殿下の婚約者に呪具なんて怪しい物を渡してきたのです。
何も責められないと思っているんでしょうか?
殿下に呪いがかかったら全部私の責任に出来ると思っているんでしょうか。
ロニー様は卒業式に出ることを心配して下さいましたが、ギュンター様とのことも早く区切りを付けたいので卒業式には出ることにしました。
何事もなく終わるか、と思いきや、エミリー様が自らやらかしてくれました。
「ヘンリエッタ様はアメリア様に呪いをかけるつもりなのです!私、昨日それを知ってしまって心配で!ヘンリエッタ様、馬鹿なことはよしてください。いくら殿下の心がアメリア様にあるからと、呪いをかけようとするなんて恐ろし過ぎますわ!」
大きな声でエミリー様が何か言ってますよ。
私に呪具を渡したのは貴女じゃないですか。
ギュンター様がアメリア様を守るように寄り添っています。
安心して下さい。もし、私が呪いをかけるとしたらアメリア様でなくギュンター様です。
かわいくて頑張り屋さんのアメリア様に呪いをかける前に浮気男を懲らしめる方が先ではありません?
まあ、呪いを込めるどころか浄化してしまいましたがね!
「エミリー嬢、その話は本当なのか?」
疑わし気にギュンター様が聞いています。
「もちろんですわ、殿下!私、ヘンリエッタ様が怪しい呪具を持っているのを見てしまったんです!ヘンリエッタ様、隠しても無駄ですわ!呪具を見せてください!」
エミリー様あああ!
呪具を見せろと?無理なんですが。だって浄化しちゃって今は怪しい呪具ではなく奇跡の幸せの腕輪になってますからね!
「ヘンリエッタ様はそんな方ではありませんわ!」
ここでアメリア様の味方が入ります。
アメリア様………!私のことを信じて下さるんですね!
本当は呪いがかかるのかちょっと試してしまってましたが、無理だったのだから問題ないですよね!
私は落ち着くように息を吐きました。
「エミリー様、貴女が昨日私に下さった怪しい腕輪のことを仰っているんですか?」
とりあえず本人が主張したので真実を言っておきます。
「ヘンリエッタ様、私に罪を押し付けるつもりですのね!?諦めて罪を認めて下さい!」
いえ、それ貴女のことですよね?
私は大袈裟に溜め息を吐いてまだ腕にはまっている腕輪を見えるように袖を捲りました。
「ほら!本当に呪具を……!」
嬉しそうなエミリー様の声は突然響いた大きな鐘の音にかき消されました。
この鐘の音は、今は修理中の大教会の鐘の音です。
もし私とギュンター様が結婚するとしたら結婚式までに修理が間に合わないどうしよう、と修繕の方々の頭を悩ましていた鐘の音が大きく響きました。
え、どういうこと?修理中の鐘の音がするはずなんてないのに。
その時、腕輪が少し光っているのに気付きました。
「アメリア様、(ついでに)ギュンター様、私の事を信じて下さいますか?」
私が聞くと、アメリア様が強く頷いて下さいました。
ギュンター様はちょっと疑っている感じですが、まあどっちでもいいです。
浄化されて腕から既に取れる腕輪を御二人に渡します。
こんなこともあろうかと持ってきていて良かったです。
「私は婚約者の座を下りるつもりです。御二人が結ばれることを望んでいますわ」
もちろん、本心です。
私が差し出した腕輪をアメリア様とギュンター様が一緒に持つと、腕輪が強く光りました。
「おめでとうございます!御二人の『愛の力』と、私の御二人の幸せを願う『奇跡の力』で、腕輪の呪いの力を浄化してしまいましたわ!」
本当は既に浄化はされてましたけど、私とロニー様の愛の奇跡のことを言ってしまうと浮気が先にきてしまうのでアメリア様とギュンター様の愛の力、ということにすげ替えさせて頂きます。
会場に拍手が響き渡りました。
鳴るはずのない鐘の音と光る腕輪とで会場の皆さんは奇跡の力を信じて下さったようです。
まだ学園を卒業したばかりの未来に希望を持つ若者ばかりだからなんとかなったのでしょうね。
これが可愛げを過去に置いてきた奇跡も信じられないお姉様やおじさま方ばかりであればここまですんなりとはいきませんでしたね。
こうやって卒業式は感動で幕を閉じたのです。
その後、呪具は王宮の方に渡し、エミリー様に頂いたことなども報告しました。私とロニー様のことは残念ながら言えませんので、殿下とアメリア様が真実愛し合っているから奇跡が起きたのだとまとめておきました。
私の御二人の幸せを願う奇跡の力もあったんですよ!とも言ってみたんですが、担当者が話の分からないおじさんだったので鼻で嗤われてしまいました。
真実は私とロニー様の愛の力だ、なんて言ったらもっと嗤われそうですよね。
何はともあれ、奇跡の愛の力で祝福されたアメリア様とギュンター様の関係を、無視することなど出来ませんよね!
私とギュンター様の婚約は円満解消。
御二人は晴れて婚約することが決まりました!
鐘の音は本当に謎のままです。
正直、お父様が何かしたのではと疑っていたのですが、違ったのです。
エミリー様は厳重注意と、一年間の社交の場の出席禁止という処罰となりました。
証拠の呪具が浄化されて証拠となりえなかったのと、まだぎりぎり学生ということで、エミリー様の罪は大勢の前で侯爵令嬢である私に失礼な態度をとっただけとなったのです。
まあそれだけにしては厳しい処罰なような気もしますが。
どこで呪具を手に入れたのかも吐かされたらしいですが、エミリー様の証言した店は見付からなかったそうです。
魔女のいたずらではないかとのことです。
時々そういう不思議な出来事があるらしいですね。
そして、王宮で保管された元呪具の幸運の腕輪がいつの間にか失くなっていたらしいです。
やっぱり魔女のいたずらなのでしょうか?
その後、王都では恋人同士や婚約者同士でお揃いの腕輪をつけるということが流行りました。
その裏には腕輪デザイナーとしてやり手の女実業家の影があったとかなかったとか。
エミリー様はただでは起きなかった。
そんな王都の噂を私は領地で聞いていました。
愛の奇跡を起こしたはずの愛しの旦那様は忙しくて新妻を放置してくるので実家に帰ってきています。
隣の領地なのですぐに帰って来れるのがいいですよね。
すぐ実家に帰ってしまう妻と、それをいつも焦って迎えに来る旦那様。
それが当たり前の光景になり、その後、それが子供連れとなって。
さあ旦那様、愛の奇跡を起こそうがその後の現実は大変なものですわね?
私は私の為に焦って迎えに来てくれる旦那様を見るのが好きな、面倒臭い女なのです。
もし王妃になんてなっていたらこんなわがままな行動出来ませんでしたよね。
さあ、ロニー様、貴方が迎えに来てくれることで私はいつまでも奇跡を信じることが出来ますわ。