~最終幕~
スマホのアラームが鳴る。
寝ぼけている俺はそれを手に取った。可笑しいなぁ。今日は休みだからセットなんてしてない筈なのに。
スマホを手に取った俺は驚いた。スマホが震えているのはアラームに反応しているからでない。電話が掛かってきているからだ。電話は高木玲。玲さんからだ。
『もしもし! 今どこ? どこにいるの?』
「どこって自宅で寝ているけど?」
『馬鹿!! 私たち、もう広島駅にいるよ!!』
「広島駅?」
どうやら俺たちアマチュア漫才コンビ「放課後の英雄」は神戸でライブをする予定になっていたらしい。そうだったっけ? 眠気が酷いながらも俺はさっさと支度を済ませた。髭がボーボーだけど、まぁ、いっか。アマチュアだし。
「髭剃ってきなさいよ!!」
案の定、駅に着くと玲さんからこっぴどく叱られた。
高木玲、彼女は放課後の英雄のマネージャーを務めているが、かわりに俺らもアマチュアシンガーである彼女のマネージャーを務めている。いわゆるタレント同盟ってやつだな。3人揃ってネクストイメージというチームを持っていて、ユーチューブでも活動をしている。最も3人揃って動画にでることはないものの、お互いがマネジメントに入っているが故に活動範囲はほぼほぼ同じような範囲で共有されている。今回の神戸遠征は玲さんのライブの仕事がメインだ。俺たちの漫才もとある大学のお笑いライブの前座でおこなわれる予定だが、話をよくよく聞けば大学じゃなくて、とある高校の放課後の部活で行われるものらしい。
「そりゃあ忘れるよ。むしろドタキャンしたくなるわ」
悟がPSPをしながらぼやく。
俺もそれに合わせて頷く。
「アンタらの漫才はどうでもよくても、私のライブは大事なの!!」
「そりゃそうだけど……」
「アンタら、忘れてないよね? お互いにお互いのマネージャーをしている事を」
「俺らは神戸で仕事を入れた覚えなんてないけど」
玲さんに知人でライブハウスの経営をやっている人がいるらしい。というかそれを最近になって始めた人らしい。そしてそのライブハウスで初めて開催されるイベントに彼女が招待されたという事だ。
もはや俺たちの存在意義なんてないのでは?
俺たちがこれから向かう高校も玲さんの知人の子供が通う高校らしい。
「なぁ、俺たちってどこで知り合ったのだっけ?」
「何だよ? やぶからぼうに?」
PSPで野球ゲームをやっている悟へ尋ねる。
「確かお互い独りでお笑いライブに来てさ、お互いつまんない顔をして、それでお前が話しかけてきたって出会いだったっけ?」
「そうだよ。覚えているじゃねぇか」
「だよな? 中学生の時に出会ったりしてないよな?」
「学校が違うだろ? 高校は同じだったけど、学科が違うし?」
「今日変な夢をみたんだ」
「なんの?」
「預言者になる夢」
「何それ?」
「俺が今の俺の意思のまま、20年前にいって2人に20年後の事を伝える夢」
そこで悟はPSPの操作を止めた。玲さんも俺に焦点を合わせて目を丸くした。
「そういや中2のときに変な奴がいたな」
「変な奴?」
「図書室にやってきて、事故するからバイクの運転をするなって。そいつが俺の目の前で自分のノートをやぶって、預言書みたいなのを書いたのよ」
「めちゃくちゃな話だな」
「そうだけどさ、驚くのはここからで、そこに書いてあったことが全部当たっているのだよな……野球の事ばかしだったけど」
「お前が野球好きだからじゃないか?」
「それまで会ったこともない奴だぞ?」
「そうだよな……」
そこで玲さんも待っていましたとばかり話の中に入ってきた。
「私も中3の時に生徒会室に変なコがやってきた」
「えっ!? 玲さんも!?」
「そのコは私に預言を書かせたんだけどね……当時じゃ知りえないことばかりでさ。9.11.のことなんか話してね……」
「すげぇな! コレ! 新しい都市伝説が生まれるかもよ!」
興奮して話しだした悟をしり目に俺は何だか恐くなってきた。
玲さんも困惑した顔をみせる。
結局彼と彼女のまえに現れた預言者が何者だったのかはわからないままだった。そもそも彼も彼女もノートに記された預言を半信半疑で机の奥等にしまっていたらしく、成人となる頃に見つけて驚いたと言うのだ。
「私の夫は英国人と日本人のハーフだけど……元々は白人男性に憧れみたいなのを持っていたの」
「何だ、それ、玲さんは外人フェチだったのか?」
「真面目に聞いて。彼が誰なのか分からないけど、彼が記した預言がなかったら、私は銃乱射事件に巻き込まれて死んでいた。なんとなくだけど……それだけど、私にとって彼が残した預言が皮肉も道標になった。それだけは確かよ。悟くん、悟くんもそう思っているのでなくて?」
「俺が預言の切れ端を見つけたのは確かバイクで初めて事故を起こした時だった。それがすごくタイムリーで俺はバイクを売ったよ」
俺は何故か言葉を失った。彼らが話した内容は俺がみた夢そのものだったから。
俺たちは自由席乗車で出発するというイレギュラーな事が起きたものの、それからの予定は難なくこなしていった。新幹線の中にて即興で作った「未来予知」というネタの漫才が思いのほか神戸の高校生らにウケた。玲さんのライブも成功した。フリートークの中で「中学3年生の時に未来を予言する男の子と出会った」という話をおこない、それが会場にいた観客関係者の興味を凄くそそった。
1999年、ノストラダムスじゃない神様がそこにいたようだ――
俺と悟はホテルで朝まで語り明かした。
漫才が成功したことじゃない。玲さんのライブが成功したことじゃない。
過去から今までを。そしてこれからの未来をどうしていくか。
「今年こそM1の決勝戦にいこうな!」
彼の笑顔がひとしお眩しく感じた――
1泊2日の神戸遠征があっという間に終わった。朝イチの新幹線で俺達はもの凄く眠たそうな顔をしていたらしく、ずっと生返事しかしなかったと玲さんから後日聞いた。その日の夕方から俺も悟も仕事だった。玲さんもその翌日から。
俺と悟は介護士の仕事をしている。玲さんは中学で英語の教師をしている。
神戸遠征の折、新幹線の中でワイワイした俺達はそんな大人になった自分から逸脱して中学生に戻っていたような気がする。
夜勤明けの俺はパソコンを開いて、想うがまま1つの物語を書いた。
タイトルはそうだな。こうしよう。
『1999』
1999年、誰も知らない神様が3人の男女の未来を変える話だ。
やばい。コレはうけるかもしれないな。
コーラを片手に俺はニンマリと笑って小説投稿サイトにその小説を投稿した。ウケなくてもいいさ。この瞬間に俺は酔ってみたいのだ。
そのあと俺はユーチューブでGLAYの歌を聴いて余韻に浸った。
そのなかで俺はふと書いた小説を編集することにした。
どうせならヒロインも書こうじゃないか。
長谷川美佳。
あれ? 何でこの名前が降りてきたのだろう? まぁ、いいや。採用しよう。
やがて月日が過ぎる。外が肌寒くなった――
クリスマスの夜、俺は近所のコンビニに寄った。
尽きた煙草の予備を買おうとした。ついでに弁当も買っておくか。
「999円になります!」
財布をとりだす。財布にはナナコがなかった。札もなかった。
そして998円までしかなかった。
「あの、保留して貰っていいですか?」
「はい」
そこで彼女の顔をみる。名札に「はせがわ」と書いてあった。
そこで俺はピンときたものがあった。
「あの、貴女を保留してもいいですか?」
「は?」
「いや、何でもないです……」
「一旦商品を保留しますね~」
俺は急いでATMに走る。そしてお金をおろして支払いを済ませた。なんともカッコ悪いが、こんなところで変なナンパをするのが我ながらみっともないことだと反省するに他ならなかった――
コンビニを出る。
「お客様!」
すぐ後ろから声がした。
「お忘れ物です!」
美人な店員の長谷川さんだ。彼女が手にしていたのはナナコと俺の運転免許証だった。
「あの、伊達賢一さんですか?」
「はい、いかにも」
「あの、宜しければ連絡先、交換しません?」
「えっ!?」
「その、うまく言えないけど、実は高校生の時に紹介されたかもしれなくて……」
え? 待て。待て。これはどういう展開? 高校生のときに紹介されたかも? だって? こういうときどう反応すりゃいいのか?
「僕も貴女と何か縁がありそうな気がしたのです!」
頬を赤らめる彼女をまえに俺は笑顔でそう答えた。
1999年、やっぱりあのときにノストラダムスじゃない神様がいたようだ――
∀・)最後までお付き合い頂き誠に誠にありがとうございました♪♪♪鬱病の克服からリハビリの目的で執筆に及んだ本作ですが、本作の大元になった『放課後HEROES』を凌ぐ大作になってしまった感触があります(笑)毎週毎週様々な方々から反響を頂いて本当に嬉しい気持ちでいっぱいでした。最終回を迎えて、どんな反応や反響があるかわからないけども、僕は本作を書き上げて気持ちがすごくイイです。さてここまでお付き合い頂いた皆様に羊文学の「1999」をお勧めするのと同時にお知らせすることがあります。1999シリーズの実質的な続編……
『コンビニ(仮)』製作決定!!!
∀・)詳しくはまた活動報告などでお話します!!!乞おうご期待を!!!