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1999  作者: いでっち51号
7/8

~第6幕~

 目を覚ます。俺はまだ1999年の世界の自分の部屋の中にいる。



 今はゴールデンウィークのまっただなか。そして俺は明日、高木玲さん曰く最後のミッションに臨む事となる。



「島根?」



 母親は急にどうしたのか? という顏で俺をみていた。当時の俺に友達などいる筈もなく、いまの世であるようにSNSで知り合うなんて事も考えられないご時世だ。そんななかで「島根にいる友達に会いにいく」というのはとても良い交渉の材料にならなかった。しかし何とか交渉に交渉を重ね島根行きを決めた。



 母親とこの為に中間テストで高得点をとる約束を結んだ。スマホ越し高木玲氏からの協力もあって、何とか約束を果たした。まさか34歳になって、こんなに勉強を頑張る事になるなんて思ってもみなかった。



 俺はリュックのなかにある物を最後に確かめた。この時に自分の意思で広島を離れる旅に出るなんてありえない事だ。そんな事を呟きながら家をでた――



 この1週間近く色んな事を思って、今生きている空間を生きてきた。



 これから俺がバスに乗って、向かう島根の松江。そこにいるのは死ぬまえの俺の彼女になる筈だった女性。なんて馬鹿げた話だろう。それでもカセットテープに録音したGLAYの楽曲を聴き、俺は奇妙な運命のロマンスに適度な期待を寄せる事にした。「BE WITH YOU」のサビが俺のハートを湧かせる――




 俺はこのミッションを果たす事に何の躊躇いもなかった――




 しかし島根県松江市の目標の場所に到着して俺の心は動じた――




 夕暮れに染まる町の片隅、そこで俺が目撃したのは俺が出会って話をしていく予定だった長谷川美佳が当時の彼氏と抱擁し愛し合っている光景であった――



 俺はすぐに離れようとした。



 そこでスマホが鳴る。



 俺は躊躇したが、少し考えたのちに、電話に出ることにした。



『何やっているの! 会って話さないと駄目でしょ!』

「何やっているのって!? 俺にキスしてハグをし合っている高校生カップルの邪魔をしろよっていうのかよ!?」

『違う! 何故そこで逃げるのかと聞いているの! 今違う恋人が彼女にいても、貴方が将来のパートナーになると預言を残せばいい! ほんの瞬間でもいいから! やりなさい! 逃げるな!!!』

「俺は!!!」



 そこで俺はそれまで愛し合っていた高校生カップルと目を合わせる事となった。そこで「あの、すいません。このへんでホテルってありますか?」と尋ねてみた。



「駅の方ならいくつかあるよ。どこから来た人?」

「広島です」

「広島!? 随分遠くから来たのね……」

「はい、好きな人に会いに……」

「そう、彼女とは出会ったの?」

「はい、出会えました。でも、彼女には好きな人がいたみたいで……」



 そこで美佳の彼氏がでてきた。顔を見るかぎり、美佳よりも優しそうな顔をした高校男児のようだ。彼は明るく俺に接してくれた。



「随分しんどい思いをしたな。駅まで送ろうか?」

「頼むよ、健ちゃん。今日はもうここでバイバイをしていいから」



 何だか彼と彼女が俺の緊急的な保護者のようにみえた。




 俺は健ちゃんの誘導に従って、松江駅まで戻った。



 その帰路で彼から美佳の事を色々と聞いた。ごく普通の家庭で生まれて育った女子校生だ。彼と彼女は同じ学校のクラスで意気投合して、交際する事になったらしい――



 とても勇気がいった。しかしイチかバチかで俺は彼との別れ際にバスで事前に書いた預言のメモを手渡した。



「これは?」

「最近みた予知夢でみたものです」

「予知夢?」

「はい、みた夢がそのまま現実になることが続いて……」

「ははは、それ凄いなぁ。まぁ~受け取るだけ受け取っておくよ」

「その、そのメモ、美佳さんに渡して貰ってもいいですか?」

「美佳に? いいけども?」

「実は僕の夢で大人になった彼女がでてきた可能性があるのです。もしかしたら健一さん、あなたの将来に関わる事になるかもしれない。僕の名前も賢一です。そこに書いてある事が当らなければ、そのメモは捨てて貰ってもいい」

「う~ん、変な話だと思うけどね、大切にはとっておくよ。美佳とも共有しとく」



 こうして俺は松江駅近くのホテルに入った。




 そもそもこんなタイムスリップをする前に長谷川美佳なんていう女と出会う機会などなかった。最後のミッションとはいえど、そこに励む動機が俺には弱かったように思う。



『今回はなかなか難しかったようね』

「今回だけじゃないよ。ずっとずっと難しかった」

『あら? そう? 随分善戦したように思うけど』

「玲さん、これからどうなる? このまま1999年から2019年までを今の俺のまま生きていく事になるのか?」

『ううん、今から寝て起きたときには2019年になっている』

「そうなのか?」

『そう、そして今の私も私でなくなっているよ』

「ははは、じゃあ、本当に最後のミッションだったワケだな。酒でも飲みたいよ」

『乾杯しますか?』

「それがいいな!」



 俺はホテルの自販機で購入したコーラを開けて「乾杯!」とスマホ越しに彼女と俺を労った。ホテルで呑むボトル瓶のコーラはどこか贅沢だった。



『ねぇ、あのメモには何を書いたの?』

「映画についてさ。来年には『バトルロワイヤル』『グラディエーター』がヒットする。ビートたけしが出演する事やラッセル・クロウが主演張る事も。再来年の千と千尋とハーレイ・ジョエル・オスメントくんのAIのことも書いたよ。最後は伊達賢一という男が現れたら信じるようにと……」



 俺はそこで美佳の顔を思いだした。大きな瞳が俺を包むかのように俺の事を案じてくれた彼女。この時代は俺でない相手がいて、こんな事を思っていいのかどうか分からないが、どうにも彼女の顔が思い浮かんで離れそうになかった。



『伊達賢一の預言! 映画編だね!』



 そんな玲さんの冗談めいた返事に対して生返事で返すほどの眠気が襲ってきた。



 もうだいぶ疲れたのだろう……。



 そこでやっとハッキリ心の中で唱える事が出来た。



 美佳さんって美人だったな。可愛いかったな。



 亡くすには絶対に惜しい人だなって。



 そして俺の意識は夢のなかに堕ちていった――



∀・)賢一、将来の彼女に会いにいくの巻でした(笑)最後のミッション、もっとも難関なミッションだったのではないでしょうか(笑)男で賢一の立場ならその気持ちがよく分かると思うぜ。来週、いよいよこの物語もラストを迎えます!みんなをちょっとでも感動させれるよう、ぼく、がんばるぞ!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 過去での仕事を終えたのですね◎ ミッションおつかれさまでした! 2019でどう変化しているのでしょうか(*^^*)
[一言]  今回はとても厳しいミッションでしたね。恋人がいるのに、実は自分が未来の恋人と言われても頭おかしいと思われるのが落ちです。  もっともメモに書かれた映画の内容が事実と分かれば見方も変わると…
[良い点] これは滅茶苦茶気持ちが分かりますね! というか自分とカミさんに置き換えて考えてみたら無理ゲーでした(笑) それどころか賢一の主観だと知り合いですらないから、確証や実感もないままに、カップ…
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