あの日の約束とロックとプレゼント
「ありがとう。でもこういう日のプレゼントはもっと…」
付き合いはじめてから初めての彼女の誕生日。
プレゼントに僕が渡したのは、当時すでに社会人だった彼女にがっかりされないように頑張ってバイトしてためたお金で買ったネックレス。
思いがけないその言葉に息をのんだ。
嫌いなブランドとかあったっけ?もしかしてすでに持ってるものだった?
「初めからわかっていたことだけど、あなたはあと2年間大学生で、その間もずっとこうやって頑張って稼いだお金を私のために沢山使わせちゃうのは申し訳ないよ」
彼女はこれまでお付き合いしたことはないと、僕が告白したときに言った。
そして、人から何かをもらったり優しくされたりすることになれてないから、あなたを退屈させるかもしれないと、そう続けていたことを思い出した。
ずっと彼女を見ていて、「ごめんね」の一言は二人の距離を離すきっかけになると学習した僕はなんて気持ちを伝えようかと大きく息を吸って彼女の目を見た。
「僕が…大好きな人の特別な日を…2人で幸せに過ごすためにはどうしたらいい?」
彼女は何も言わずに微笑んで僕を見る。そして少し俯いて顔をあげてこう言った。
「その言葉が一番うれしい」
僕はわかる。彼女が本当にうれしい時の顔だ。
少し安心した。
わかった!と彼女は話始める。
「記念日には二人で使えるものをプレゼントとすること。今日みたいな、一人でしか使えないものは何でもないお出かけの日に一緒に買う。これでどう?」
二人で使うものって何だろう?とその時は思っていた。
次の記念日は僕の誕生日。
彼女が見せたのは僕がいつも聴いているバンドのコンサートチケットだった。
「一緒に聞いてたら私もハマっちゃった」
と彼女は照れ隠しにまた微笑んだ。
あれから5年。
あの時の約束のおかげで僕たちの周りにはプレゼントがあふれている。
北欧のブランドのペア食器、コーヒーメーカー、おしゃれなレールライト。
一緒に住み始めてからずっと使っていたベッドもこの間の彼女の誕生日に新しくなった。
休日はいつもお昼過ぎまで寝ている僕が起こされる側だけど、今日は彼女よりも早く目が覚めた。
「今日は早いじゃん」
「まぁね」
今日は二人で出かける約束をしている。
いつも通り二人分のコーヒーを淹れる。
「今日はどこ行くの?」
いたずらにこう返した。
「ん~…。東京?」
「広いわ(笑)。…ってかここも東京だし」
「楽しみはギリギリまで秘密にしたほうがいいものだよ」
「えー。怖(笑)。とりあえず着替えてくる」
2人とも着替えを終えてコーヒーを飲んで家を出る。
ランチを食べて、映画館に行って、時々それぞれが目に入った洋服屋さんに立ち入る。
お店に入るたび「ここ?」と秘密の正体を探ってくる彼女が可愛かった。
空が少しだけ暗くなった。
「ちょっと、最後に行きたいところあるんだよね~」
数日前からイメトレをしていたはずなのに、そのセリフはたどたどしかった。
「ようやくか(笑)!……待って。」
彼女はふと立ち止まった。
「今日って何かの記念日じゃないよね?」
しまった、ばれたか…?
なんて返そう…。今はまだ…。そうだ、
「今はまだ…」
彼女は驚いたように口に手を当て、そして何もなかったかのようにこう言った。
「…そうよね」
小走りで僕に追いついた彼女はまた手をつなぐ。
二人並んでショーケースがまぶしい大通りを歩く。
なんだかあまり話がうまくできずに、イヤホンを片方彼女に付けて音楽を聴きながら歩く。
目的地の前で僕が立ち止まると、彼女は立ち止まってお店を見てそして僕を見た。
イヤホンからは流れていた、5年前二人でライブ会場で聴いたあの曲が、今…終わった。
自分のイヤホンと彼女のイヤホンを外して、僕は大きく息を吸った。
「僕と結婚しませんか?」
マフラーと前髪の間から見える彼女の目は、本当にうれしい時のあの目をしていた。
街の喧騒の中ちゃんと僕に聞こえるように彼女は僕の肩に手を置いて、背伸びをして、耳元でこういった。
「来年から今日のこの日をプロポーズ記念日にしよう」
2人、目を合わせたその瞬間。僕はその愛おしさに彼女を抱きしめた。