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私と一番星

作者: 上戸二十八

本栖湖のパーキングエリアは西日に暮れ、富士山の肩にかかる夕闇に私は息子と天体望遠鏡を向ける。つみ笠雲が少し邪魔をしているが、一番星は目で確認できた。今日は息子に肩を落とさせることはなさそうだ。

「あの星はなんて星?」

息子が望遠鏡を覗きもせずに目視で見える一番星を私に問う。

「なんだろうな、覗いてごらん。何色か教えてくれるかい。」

彼は三脚の前に膝をつき、前のめりにレンズに目を押し付ける。その背中は小さく、懐かしい妻の面影を投影していた。あれは22年前、私も彼女も17歳。


3年生が受験のため引退する7月、最後の課外活動として私は天体観察を提案した。

「準備は五十嵐さんと次期部長でお願いね。」

顧問の長嶋先生は「車を出すから」と私と五十嵐さんに準備する物をメモした紙を渡し、車まで持ってくるように指示をする。五十嵐さんは「は~い」と間の悪い返事をした。五十嵐さんは俗にいう内申族で内申書の内容を充実させるために理科部に入っている幽霊部員であった。彼女はクラスでもあまりまじめな生徒ではなく。私は同じ部活の唯一の同学年ながら、彼女を少し敬遠していた。

「五十嵐さん、俺が三脚と望遠鏡運ぶから、シートを運んでくれないかな?」

「え?あたしに荷物もたせんの、男としてどうなん?」

私が少し困惑すると

「嘘だよ~。あたしもシートくらい持つよ、てか用務員室から手押し車借りてきたら早く終わるくない?」

当時はあまり社交的ではなく、彼女の機微を感じることができなかった私を手玉に取るように八重歯を見せて笑う。


荷を積み終え高尾山のふもとのパーキングエリアに向け車に乗り込む。私と五十嵐さんは副顧問の星野先生の車へ乗ることに。星野先生の車はおしゃれなミニクーパーで、社内には車に似合わないブルーハーツのカセットが流れていた。

「五十嵐が課外活動に参加するなんて初めてじゃないか?」

「私も3年生になるんだよ。私も思い出残したいもん。」

「うちの活動は普段は地味だもんな。」

「あたし、数学とか化学の実験とかは嫌いだけどこういうのは好きなんだよね、みんなでどこか行ったりするのもっと増やしてよ部長。」

助手席に座る彼女が私に話しかけてきたが、私はたどたどしく「うん」とうなづくことしかできなかった。


パーキングエリアについた私は三脚を準備していた。あたりは西日で赤く染まり、高尾山の肩にかかる夕闇は刻々と夜を運んでくる。

「ねえ、あの星ってなんて星?」

五十嵐さんは私の肩に手を置き、目視できる一番星を指さしながら前のめりに尋ねる。

「知らないよ、一番星だから金星じゃない?」

「へえ、詳しいね。」

ミニクーパーから漏れるブルーハーツ。先輩たちと先生方の声が耳から遠のくのを感じ、気づくと私は赤面していた。


「あの星なんか赤く光ってる。ビー玉みたいできれい。」

息子が私に星の特徴を報告する。

「きれいか、そうか、もしかしたらお母さんが見つけてほしくてほかの星を押しのけて手を振っているのかもね。」

私は彼の肩にそっと手をおき、金星を指さした。

車内での会話に違和感を感じるかもしれませんが、脳みそを使わない会話ってこんな感じですよね。私は五十嵐さんと同様、高校時代はあまりまじめな生徒じゃなったので、教員との会話がこんな感じでした。間を持たせるために教員は適当な話を振り私はそれにしっかり答えても流されてしまうような。。。「会話の千本ノック」みたいで大人との交流が嫌になりました( ´∀` )

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― 新着の感想 ―
[良い点] 切なさと温かさが混じり合って素晴らしい作品に仕上がっている気がしました。
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