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眠れる森の悪魔  作者: 鹿条シキ
第十章 戦

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12.【1日目】アリシアの捜索【遊撃戦】


「いや、私は知らないが?」

「そんな…… アリシア様は確かにこちらに向かったはずで……」

「来たには来たが。社交を優先しろとすぐに帰したぞ」

「ではいまはどちらにいらっしゃるのでしょう」

「通信は繋がらないのか」

「はい。先ほどからご連絡差し上げているのですがお返事がなく」

「おかしいな。あのアリシアが侍女見習いに連絡もなく姿を消すなどあり得ない」

「申し訳ありません。社交を優先するよう仰ってくださったアリシア様に甘えてしまいました」

「いや、良い。主を守るのは護衛の役目だ。護衛を付けなかった私の責任だろう」


 アリシアの護衛騎士見習いはふたりいるが、どちらも学院戦の真っ只中。

 侍女見習いは常に主人と行動を共にするわけでもないので、アリシアはエミリアたちに社交に専念するよう言ってひとりでルイスのもとを訪れていた。

 これだけ人目があれば不埒な輩に害されることもないだろうと。


「まさか…… 誘拐……」

「馬鹿を言うな。士団も父兄も集まるなかでそのようなことあるわけがないだろう」

「お言葉ですがアリシア様は多くの出来事に関わっていらっしゃいます。 ディディエ様に恨みを持つ大人が紛れ込んでいてもおかしくないのでは」

「ッチ。そんなこと、言われなくとも分かっている」

「差し出がましいことを申しました」


 ルイスとてそのくらいのことは考えている。

 が、それを差し引いても士団の集結するこの学院で、事を起こすほど短慮な人間がいるとは思えなかった。

 良くも悪くも育ちが良く、窮地に追い込まれ失うものが無い人間の思考を想像し切れていないのだ。

 けれど今このときになってやっとそこに思考が追いつき、ひやひやと汗をかきはじめる。


「待機中の者を捜索にあてる。其方は社交に戻れ。侍女見習いならば派閥を掌握してこそだ」

「承知致しました」


 エミリアは頭を下げ唇を噛んだ。

 ルイスの言う通り、侍女はただの召使いではない。流行を左右する人脈や社交力をもって、やっと侍女として認められる。

 そうでなければメイドで事足りるだろう。補佐官を兼任するベリアルドの侍女見習いは例外として、ほとんどの侍女見習いにとって学院戦は一番の勝負どころと言っても良いくらいだ。

 だからこそ主を探しに行くことができない。

 どこかで具合が悪くなって倒れていたらどうしよう。

 不埒な輩に襲われでもしていたら。

 嫌な想像が胸を締め付け、その不安はルイスにも伝染した。

 不死鳥の溜息本部は不穏な空気が漂いはじめたのだ。



 エミリアが退室したあと、ルイスは上着を羽織ると補佐官に「少し出てくる」と言い残して指揮を離れた。

 ルイスにはひとつ、思い当たることがあった。

 その足で真っ直ぐ藤の雫の作戦本部へと向かう。


「困ります! 部外者は立ち入り禁止です!」

「分かっている。だから早く取り次いでくれと頼んでいるんだ」

「アロン様もディディエ様もいまはお忙しく」

「本当に居るのだろうな?」

「え? はい」


 ルイスはベリアルドの会議室の前で扉を睨み付けていた。

 例の作戦が上手くいき過ぎた。

 ベリアルドは狙撃班の撃破数が目立つものの、本隊が遊撃に出るという不可解な行動に出ている。

 狙撃班により他陣営を削る作戦ならば、本隊は戦闘を避けて真っ直ぐ学院を目指すべきだ。

 そうすれば撃破数と着順による団体得点が手に入るから。

 ベリアルドの面々もほとほと困った様子で、雰囲気が悪いことは中継でも明らかだった。

 もしそれがルイスとアリシアの謀略であるとディディエが気付いていれば……

 と、そのとき。


「ルイス様、どうされました?」


 薄く開いた扉からひょこっとアロンが顔をだした。


「先触れもなく失礼した。ディディエ様はいらっしゃるだろうか」

「あ…… ええと」

「どうした〜? 僕に用?」


 後ろから間延びした声がして、アロンの頭の上にディディエがちょこんと顎を乗せる。

 ふたつ縦に並んだ顔にルイスは困惑した。

 中を見せたくないとは言え、こんな馬鹿な出迎えがあるか。

 いや、それよりもだ。ここにディディエがいると言うことはアリシアはどこに……


「つかぬことをお伺いしますが、アリシアがどこにいるがご存知ありませんか」

「えー、知らないなぁ? 少し前に不死鳥の会議室の近くで見かけたけど」

「ディディエ様がなぜそのようなところに?」

「ほら、父がジェームズ様に付き纏って苦情が来たから回収に。聞いてない?」

「たしかに……」


 そのような話は聞いていた。毎年のことなので特に気にも留めていなかったが、時間的にも不自然なことは無いように思える。


「どうしたの? まさかアリシアが行方不明に?」

「いえ、お気になさらず」

「そうはいかない。アリシアはシェリエルの大事な友人で僕にとっても…… 手伝うよ。一緒に探そう。アロン、良いよね?」

「はい。こちらはお任せください。何かあってからでは遅いので」

「いえ、本当に。そこまでしていただくようなことでは」

「ルイス殿、失礼を承知で言わせてもらうが、君は少し危機感が足りないのではないか? ここのところ王都を騒がせた事件の裏に誰がいるのか、君も承知しているだろう?」


 ディディエは廊下に出て射るようにルイスを見つめた。

 急に貴族らしくかしこまったディディエにルイスもハクハクと息を浅くする。

 彼の上位の作法を取り払った軽薄な態度に思うところはあったが、それすら消えたいま、大変な事態になっているのではと緊張感が増したのだ。


「申し訳ない」

「謝ることはない。こういうのはお互い様だ」

「いえ、ディディエ様には助けていただいてばかりで……」

「硬いこと言うなよ、兄弟」


 そう言ってディディエはフッと緊張を解くようにルイスの肩を叩いた。

 ふたつの陣営で総指揮をとるこのふたりが捜索に乗り出せば、見つかるのも時間の問題と思われたのだが……

 




 その少し前。

 当のアリシアはと言うと。

 


「僕はさぁ、アリシアのこと信じてたんだよ? 裏切られた気分だ」

「……なんのことでしょう」

「は…… 今日は社交に出られないと思えー……」


 耳元で響いたのは愉悦と狂気を孕んだ低い声だった。

 背後にあった微かな体温が遠のき、ディディエの靴音だけが響く。


 ここは学院とは思えない簡素な部屋。

 部屋というより物置きとか倉庫に近いかもしれない。

 埃っぽくはないが家具や物は一切置かれておらず、豪勢で座り心地の良い一人がけの椅子だけがある。

 アリシアはぽつんと中央に置かれた椅子に座らされ、なにもない壁を見ていた。

 他に視線を置く場所もなく、縛られているわけでもないのに振り向くことすらできない。


「ンー……」


 鼻で鳴らすような軽薄な熟慮だ。

 それが自身の運命を定める音だと思うと、さっき少しだけ過った桃色の予感は消し飛んでいた。

 どう前向きに考えても、ここから甘い空気になるなど到底思えない。それでもアリシアは精一杯気丈に振る舞った。


「今日はわたくしと一日過ごしてくださるおつもりです?」

「それも良いけどね。それだとご褒美になっちゃうでしょ」

「そんなこと——」

「アリシアは一番大事なものある?」


 苦しい強がりを遮って、ディディエはお気に入りの茶葉を聞くみたいに言った。

 アリシアは「え」と短く発したが、言葉が聞き取れなかったのではない。女性の好みを知りたいというより、“脅迫”が始まったのだとはっきり分かったから。


「一番って決められないよね。でも、これだけは失いたくないってもの考えてみて。逆に言えば、何を失ってもこれさえ残れば生きていける、みたいな」

「……それは」


 そんなこと考えたこともなくて、咄嗟に頭に浮かんだのはこの声の主だった。

 けれどそう言えばアリシアの計画はまったくの無駄になる。アリシアこそ彼の気持ちをはっきりさせたかったのだから。

 他には……

 家族。家門の名誉。友人。侍女見習いとして側に居てくれるみんな。

 思い浮かぶたびにそれを振り払った。考えを読まれるとその大事なものを奪われてしまいそうだ。


「僕はさぁ、知ってると思うけどシェリエルが一番大事なの。両親も大事だけど、あの人たちは無条件で僕を愛してくれるし先に死ぬ人たちだから。でもシェリエルは僕より長く生きなきゃいけないし、気をつけてないと嫌われる」

「あ……」

「十年以上ずっと気をつけて来たんだ。それをこんな形で壊されるなんてね」

「ちが……」


 アリシアはグッと胸が詰まって目元に熱を集めていた。

 ふたりがあれからずっと険悪な状態であることは知っていた。

 この不和を狙ったアリシアでさえ、シェリエルがここまで怒ると思っていなかったので、最近では申し訳なさの方が優っていた。

 これも派閥のため。ハッキリしないディディエ様がいけないのよ。

 と、言い聞かせてきたが、いまこの瞬間にアリシアの良心は粉々に砕けてしまった。

 ベリアルドにとって——ディディエにとって唯一であるシェリエルとの関係に亀裂を入れてしまった。

 自身の浅はかな欲のために彼を傷付けた。

 嫌われてしまったという悲しさよりも、彼の幸せの邪魔になってしまったことが悲しかった。

 自分では彼の幸福にはなり得ないのだという実感が余計に胸を締め上げていく。


「アリシア」


 フッ、と甘い香りのする体温がアリシアを後ろから包んだ。大切なものを閉じ込めるみたいに。

 ディディエは交差した手でアリシアの髪をさらりと撫でて耳にかける。

 露出した耳元に吐息がかかって。


「好きだよ」


 とびきり甘くて暗い声が響いた。


「申し訳…… ありませんでした……」


 ほろほろ涙が溢れて、声はうわずっていた。

 あれだけ欲した言葉なのに、どんな叱責よりも痛くて重い。


「ごめんね。アリシアにこんなことまでさせて。僕が悪かったよ」

「ッ……」

「でも嬉しかった。アリシアは“正義”とか“良心”とか“倫理”を一番大事にしてると思ったから。僕のためならアリシアはそれすら捨てられるんだね。あ、“倫理”はもう捨ててるか。ありがとう。嬉しいよ。そういうところが好き」

「ごめんなさい……」

「ハハ…… 謝るなよ〜、僕が悪いことしてるみたいじゃない」

「ひ」


 許してほしい。

 嫌われたくない。

 償わせてほしい。

 見放さないでほしい。

 なぜこんな男を好きになってしまったのか。

 けれど好きなものは仕方ない。

 これが罪悪感なのか愛なのか分からない。

 でも、きっと、好きでもない男にこんな感情抱かないはずだ。好きだからこそやってしまったことが取り返しがつかないことのように思えて、苦しみと執着が混同する。

 こんな形で彼の気持ちを確かめようとするんじゃなかった。

 いまは後悔するばかりである。


「アリシア、少しだけここで良い子にしてて?」

「……なにを」

「なにもしなくていいよ。ひとりでお留守番できる?」

「……それで許してくださいますか?」

「考えとく。すぐ戻ってくるからね。ジッとしてるんだよ」

「はい」


 サラサラと髪を撫でていた手はスッとアリシアの涙を拭って離れていった。

 彼がどんな顔をしていたのかも分からないけれど、言われた通りにするしかないと思った。

 これ以上、悪い子になりたくなかったから。

 嫌われたくなかったから。

 甘い脅迫がアリシアを縛りつけて、とうとう彼女は最後までディディエの顔を見ることもなく、その椅子に座ったまま扉が閉まる音を聴いた。

 こうしてアリシアは合意のうえで監禁されたのである。

 学院戦において戦力にならない自分が失うものは、社交の機会だけだから。

 自身のお茶会は最終日だ。エミリアたちには心配をかけるが、兄は大して気にもしないだろう。

 それに、良い子にしていればすぐに彼は戻ってきてくれると信じて。



 そんなことを百も承知のディディエはいまもルイスの不安を煽りながら見当違いの場所を捜索していた。

 アリシアが見つかるわけがない。

 なにせ犯人が捜索の主導権を握っているのだから。


 ディディエはこれでも学院戦を謳歌していた。

 あの優等生アリシアの思い切った行動に、シェリエルとの初めての喧嘩。ユリウスも楽しんでいるようだし、何より隣で不安に駆られているルイスは面白い。

 シェリエルにしこたま叱られたディディエはこれくらい軽い意趣返しだと思ってやっている。

 それくらいシェリエルが怖かったし、一歩間違えば死ぬところだったから。


「やあ、ご両人。こんなところで何をしている?」

「あ、ユリウスじゃん! 噂をすれば」

「していません! 殿下のお噂など一度もしていません!」

「あ、僕の頭の中だけだった。で、何してるの?」

「いや、聞いているのは私なんだけど。ちなみに私は散歩しているだけだよ」

「へぇ、じゃあユリウスも手伝ってよ。いまアリシアを探してるんだ」

「ほう。遠慮する、私は忙しいから」

「いま散歩してるだけって言っただろ」

「はは、いま用を思い出した」


 ユリウスは目をクシャッとさせて肩で笑うと、「あまり彼を虐めるなよ」と念話で話しかけてきた。


「(あれ? なんで分かったの?)」

「(君が楽しそうだったから)」

「(合わせてよ? そっちにも悪い話じゃないだろ)」


 ユリウスは「了承した」と言うように笑みを整えると念話切った。


「それはそうと。君たち酷いじゃないか」

「なに。心当たりが多すぎる」

「あのシェリエルの一撃、アルフォンスなら死んでたよ」

「ンハハ、本気でいけって言ったからね」

「ディディエ様ッ、もし本当にアルフォンス殿下ならどうするのですか! アロン殿はなにも言わなかったのです!?」

「いや、怒られたけど。まあ結果的に違ったわけだし。そもそもあんな格好で参戦させたユリウスが悪いでしょ」

「アルフォンスを想ってのことだよ。オウェンスの下手な芝居も見られて私は満足している」


 捜索ごっこの誘いを断ったユリウスもなんとなくふたりに加わって歩いていた。

 ルイスは気が気ではないが、ふたりに割って入ることもできない。ルイスはユリウスがまだ苦手なのだ。


「あ。なんか動きあったみたいだね。ルイスはまだ戻らなくて平気?」

「……しかし」


 解説のふたりが戦況の変化を逐一知らせてくれた。

 すでに不死鳥の本隊が学院の正門前に到着したと言う。

 ルイスにとってはここからが本番だが、この様子なら自身が抜けても問題なさそうな気もしていた。

 それよりもアリシアだ。

 おおごとにすればアリシアの瑕疵になる。誘拐というのは結果がどうであれ良くない想像が付きまとい、貴族の令嬢にとってそれくらい最悪の事案だから。


「まあ、初日は不死鳥に勝ちを譲るよ。それよりアリシアに何かあったら取り返しがつかない」

「何か……」

「もし誘拐だったら犯人を処分したあと外向けの説明を準備しないといけないし、最悪の場合は父上を使って戦争だ」

「ディディエ様はそこまでアリシアのことを」

「うん。大事に想ってるよ」


 ユリウスは声を出して笑ってしまう前に退散することにした。

 ディディエも「じゃあ、見かけたら教えて」と言って廊下を曲がる彼を見送る。食えない奴だなと思いながら。





 学院がそんなことになっているなど露ほども知らないアルフォンスは、ヘトヘトになって山中を歩いていた。

 一度だけ交戦はあったが彼は何もしていない。

 周囲をがっちりと騎士学科の教官に囲まれていて、本当に襲撃から逃げる王太子の気持ちになっている。


「殿下、来ます」

「なんだ!」

「あれは……」

「あの小娘め!」


 アルフォンスは何が起こっているのか分からないまま、緊張を高めた教官たちの背にジッと隠れた。

 前を行くオウェンスたちが最低限の罠を解除してくれているが、少しでも獣道から逸れると何があるか分からない。

 行く手を阻む倒木や怪しい土の盛り上がりを避けたところに罠を仕掛けるのだと彼らが教えてくれた。

 ほどなくして、ぶわりと風が舞うと、ひとりの教官が飛び出した。

 鋭い金属音が鳴ると同時に真っ白な髪が視界の端で揺れる。


「お命頂戴致します!」

「えッ! は?」


 あ、昔彼女の髪を引っ掴んで、切って寄越させたから。ずっと根に持っていて、その復讐に来たんだ……

 アルフォンスはシェリエルのあまりの気迫に、一瞬本気で殺意を信じた。が、すぐに「シェリエル様、違いますよ!」と焦った声が飛んでいた。


「殿下、身を低くして私から離れないでください」

「心得ている」

「必ず、無事に学院にお届けします」


 壮年の教官は山のなかで現役時代を思い出したのか、はたまたシェリエルの殺意にあてられたのか、完全にシェリエルを排除すべき敵として迎え討っていた。


 対するシェリエルもここぞとばかりに日頃の成果を発揮する。

 普段、剣の訓練はユリウスかリヒトくらいであまり教官と手合わせすることがない。

 それに、王族を襲っても怒られない機会など今日くらいしかないので、少々気分が乗っている。

 誰だって期間限定には弱いのだ。特に欲しくもないのに「今日限り50%OFF」と書かれているとつい買ってしまうみたいなアレである。


「ライアン、左」

「ッと!」


 ギリギリのところでライアンが剣を避け。

 避けた先にいたシェリエルは彼と入れ替わるように剣を振り抜いた教官に刃を向ける。

 ライアンはシェリエルに向かっていた剣を止め。

 クレマンがそこに攻撃を仕掛ける。

 この半日で三人の息はぴったり合うようになっていた。


「三人とは…… 作戦立案者は襲撃になれているな」

「お褒めにあずかり光栄です」

「褒めとらんわ」


 教官たちは必死だった。

 学生とは言え、シェリエルはあのセルジオから剣を教わり、毎日ユリウスと化け物みたいな訓練をしている。

 まだリヒトは可愛かった。謙虚で教えれば教えるほど吸収するので育て甲斐があったのだ。

 彼女が教わりたいのは戦術や陣形というだけあって、剣術自体はもうほぼ完成している。

 嫌な生徒であり、厄介な襲撃者。

 三人での襲撃というのもいやらしい。この場で処理し切れそうでいて、反撃に出れば少しずつ削られる。

 足止め要員を残して殿下を退避させるか。

 もう少し粘ってここで処理するか。

 その判断の迷いが隙となり、シェリエルの剣が教官に届いた。


「ひとりクリア」

「こんのッ……まだだ。まだ倒れてはおらん」

「——、了解」


 シェリエルは繋ぎっぱなししている通信に返答して、負傷した教官にトドメを刺した。

 死んではいないが昏睡。教官は即座に監視員に転移させられ、シェリエルは五人分の撃破数を稼いだ。

 教官や教師は撃破数が生徒の五倍ある。

 これは戦闘に加わった教職員に限るが、シェリエルにとっては割の良い獲物であった。


「大丈夫なのか! 俺はここで死ぬのか!?」

「我々が命に変えてもお守りします!」

「学院戦だよな!? おい、兄上は何をしている! さっきから返答がないぞ!」


 アルフォンスは今日突然作戦を知らされたので、ユリウスが何をしているのかまったく知らなかった。

 まさか呑気に散歩でもしているのではないだろうな、と嫌な予感がして取り乱している。


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