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すとっぷばいざげえむ  作者: ジョブレスマン
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ヴィッタとロウ

「すぐにつきますので」


 とメイジーは言ったが、はたして。すぐ、の感覚が違うのだろうか。20分ほどあるいたところで、ようやくぽつりぽつりと民家が現れだした。


「ジェイル、大丈夫か?」


 やや肩で息をしているような。ジェイルは、「あ?ああ、なんかちょっと疲れが、まあ、全然大丈夫だ」と答えた。

 さらに10分ほど歩き、斜面を少し登ると、丘を囲む木の柵が見えた。中に民家が集中しており、ちらほらと人が歩いている。弓の練習場が一角にあり、子どもたちが弓を射っている。大人の見守りもなく、おもちゃの弓でもないのだが、狩人の村では見慣れた光景なのだろうと思わせる自然さがある。


「狩人の村です。マーセナリー様の宿屋はあちらにあります」


 メイジーが、ひと際大きな建物を指した。他のマーセナリーの姿は見当たらない。


「ゲームとは違うな」


 リンが独り言のように呟いた。そもそも馬車なんてなかったしな、ゲームでは。


「とりあえず宿で休憩するか」


 ジェイルのことばに、「いえ、そんな、みなさん是非家にいらしてください!マントも縫いますので!是非是非!」とメイジーが言った。

 そのとき、宿からマーセナリーらしき2人組が出てきた。黒いガウンに白いストールを首からかけたクレリックらしき優男と、全身銀のアーマーにヘルムを被った恰幅のいいファイターらしき男だ。いや、ヘルムから露出する顔。体格から男だと思ったが、銀のアーマーの方は、あれは女だ。涼しげな目元が少し怖い。


「、、、ほうがもれたか?」


「いや、たまたまだろう」


 二人の会話が微かに聞こえてきた。こちらの様子を伺っているようだ。

 仲良くしようという気はなさそうに見えたが、一転、優男がにっこりと笑いながら話しかけてきた。


「こんにちは。狩人の村にマーセナリーのかたたちが来られるのは珍しいですね」


「ええ、まあ」


 俺は、曖昧に返事をした。


「僕ら、サムライソルジャーズというクランに入っておりまして、マップの確認をしてましてね。みなさんは、どういったご用件でこちらへ?」


 サムライソルジャーズ?どっかできいたな。


「ん?ぼくたち?ぼくたちはオオおおお」


 言いかけたジェイルがリンを睨んだ。ジェイルの足をリンが踏んでいる。


「ん?オオ?」


 ヘルムの影から、鋭い眼光がジェイルを睨んだ。

 リンが俺を見ている。なんかごまかさねば。


「おおお、セリヌンティウス!」


 なんだ、よくわからんけどごまかせるか。リンが俺を睨んでいる。いや、確かに苦しいけど、俺も苦しいよ。


「セリヌンティウス?あなたはメロスか?」


 とヘルムを被った女が反応した。


「ええ、そうなんです。メロスごっこをしていたのです」


「そうか、そういう理由か。歩みを止めてしまって悪かったな」


 そう言うと、女は俺たちに興味を失ったのか、背を向けた。ん、ごまかせたのか。


「いや、まてまてヴィッタ。なんだメロスごっこって」


 と優男が、ヘルム女、ヴィッタを呼び止めた。そりゃそうだ。


「ロウよ。あの醜男がそういう遊びがあると言っているのだ。なにがおかしい?」とヴィッタが真顔で言うと、「お前、いや、そんな遊びあるわけないじゃん」とロウと呼ばれた優男は頭を掻いた。ヴィッタは、特に返事をすることなく、すたすたと歩いていく。ロウは「お前は、ちょっとあれだぞ、ほんと小さいときから、野球以外に、っておい、ああ、もう」といいながら、ヴィッタの背中に従った。二人の後ろ姿が小さくなっていく。

 野球?まあいいや、いや、まてまて、なぜかごまかせたのはいいが、醜男って。


「醜男、ナイス」


 リンのマスク内の口がにやついている。


「お前、なんで俺の足!」


 とジェイルがリンにつっかかる。


「ああ、すまん。でも、あれはなんか裏があると思う。あいつら、サムライソルジャーズだ」


 商店区で会った、いけすかないチャラ男と同じクランか。


「だからなんだよ」


 ジェイルが訊ねた。


「あんまり評判がよくないんだよ、あのクランは。クラン戦のランキング上げるために他クランにスパイ潜入させたり、数量限定アイテムを独占したり。マップの確認でここに来るようなやつらじゃないね、私の見立てでは。オオカミの件も隠しておいた方がいい」


 まあ、明らかにこちらの動向を伺っている感じはあった。なにか裏があるのだろう。果たしてそれが、今回の俺たちの目的と関係があるのかはわからないが。

 一陣の風に、狩人の村がざわつく。大きな雲が丘全体に影を作っている。


「あ、あの、大丈夫でしょうか」


 一人置いてけぼりにされていたメイジーが、声をかけた。


「ええ、すみませんね、マーセナリーにもいろいろありまして」


 ジェイルが態度を一変し、紳士的に対応する。


「私のうちはすぐですので。もしよろしければ、今日はこちらで泊まってください」


 メイジーの素朴な笑顔にほっとする。願ってもない提案だ。あの二人と同じ宿で泊まるのはなんかいやだ。


「ヤタ、とりあえずどっか飛んどいてくれ」エイロンがそう指示すると、ヤタガラス、エイロン命名、ヤタは、カーっと一鳴きし、大空へと羽ばたいた。

 メイジーの家は、両親と三人暮らしにしては大きな家だった。五年ほどまえには祖父母も住んでいたらしく、祖父母が使っていた部屋を俺たちが使っていいとのことだった。「あ、これ、父の部屋着なんですけど、すみません、2枚しかなくて。あ、でもエイロンさんはサイズ的に母のでいいかな」などと、メイジーに服を渡される。エイロンは、渡された服を見て困った顔をしているが、メイジーの笑顔になにも言えないようだった。


「あ、リンさんは私の部屋で。あと、みなさん、破れた衣服を持ってリビングに来てください。ブドウジュースもお出ししますね!」


 とメイジーはリンを連れて隣の部屋へと入っていった。

 元祖父母の部屋には、ツインベッドとソファーがあった。まあ3人寝るには充分だろう。渡されたままに部屋着に着替える俺たち。茶色いローブに白い帯がついている。いや、ちょっと待てよ。


「あれ、俺らもう今日は外に出ない感じ?」


 とジェイルとエイロンの方を見る。

 ジェイルは紺色のローブに、エイロンは


「ひひ、ひひひ」


 笑いを堪えきれない。ジェイルも腹を抱えて笑っている。渡されたときから思っていたが。


「しゃーないだろ!着なきゃ失礼だし!」


 真っ赤なネグリジェを着た老人が声を荒げる。いやはや、なんとも気持ち悪い。

 もう今日はゆっくりするか。


 リビングへ向かうと、リンとメイジーがすでにいた。


「ひひ、ひひひ」


 駄目だ、いや、かわいいんだけども。


「お、お前、キャラと全然、ははははは」


 ジェイルが笑い声を上げると、顔を真っ赤にしたリンが「う、うるさい!」と言った。マスクを取ったリンがそもそも初めてだが、さらにピンクのひらひらのついたネグリジェを着ている。「めちゃくちゃかわいいですよリンさん!」とメイジーは、異様に目を輝かせている。ちょっとこの子もおかしいな。


「い、いや、ひひゃはははは、」


「なんでお前にまで笑われなきゃならないんだ!」


 明らかに変態に見えるエイロンに、リンが言った。


「ブドウジュースがあるんです!待っててくださいね!」


 メイジーはマイペースに言うと、キッチンへと向かった。

 ちなみに両親はでかけているらしい。

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