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すとっぷばいざげえむ  作者: ジョブレスマン
7/39

狩人の村でテイマー契約

 街の外に出ると、爽やかな風が頬をなでた。

 田畑が広がり、民家が点在している。青い空と果ては雄大な山々が聳えている。ゲームの中とは思えない。

 門の左手に小屋があり、幌馬車が止まっている。

「行ってみるか」とジェイルを先頭に向かう。

 二頭の馬が、いまかいまかと出発しようとしている。


「兄ちゃんたち、のるかい?リベール行きだよ」


 麦わら帽子を被った御者のおじさんが言った。


「おう、のるのる!」


「ジェイル、狩人の村に止まるか確認してから」


「狩人の村?途中で止まるよ。1時間かからないくらいだ」


 とのことなので、馬車に後ろから乗り込む。縦に長い座席で、向かい合って座る。片側10人弱は座れるだろうか。


「これ、のれんのか?」


 先客がいて、シートの半分以上が埋まっている。


「ほら、つめてつめて」


 御者がそばに座っているマーセナリーらしきものたちに言った。マーセナリーたちは、しぶしぶつめていく。小洒落たおばさんは、子どもを膝の上に乗せるなど、慣れた様子でスペースを開けてくれた。小汚いおじさんも、自らの小汚さを気にすることなく、奥へと詰める。なんとか全員乗り込むと、「さ、出発だ」と麦わら帽子を揺らしながら、御者が手綱をひいた。

 小走りぐらいのペースで進む。道が悪いのか、そもそも馬車というものがこういうものなのか、ごとごとと揺れる。これで1時間弱か。しかも狭い。なぜか会話もない。エレベーターのなかとか、そういう感じなのだろうか。幸いにも馬車の最後方、乗り口そばに座ったので、首を少し傾ければ外が眺められる。ちなみに乗り口に扉などはない。

 近くに座っていたおばさんは、財布を取り出すと「ダーヤン、2人」と隣の太ったおばさんにコインを渡した。太ったおばさんは、バケツリレーのように、受け取ったコインを御者そばに座っているマーセナリーに向かって差し出す。マーセナリーは、戸惑いながらもそのコインを受け取る。すると、御者が振り返ることなく、右手を後ろに伸ばした。マーセナリーはというと、コインを持っておろおろしている。


「渡すんだよ、ダーヤン2人ね」


 コインの持ち主であるおばさんが、マーセナリーに言った。

「はあ」とマーセナリーはそのコインを御者の右手に置いた。

 同じように、乗客たちは行き先と人数を言い、コインリレーで御者に運賃を渡しだした。


「おいおい、狩人の村はいくらだ?」


 ジェイルが俺に尋ねた。知る訳がない。


「狩人の村なら、一人30コインだね」


 そばに座っているおばさんが言った。

 ここではコインの種類が3つある。銅貨銀貨金貨である。1コイン1銅貨で、50コインで1銀貨にあたる。100コインで1金貨、つまり1ゴールドになる。


「まとめてだすか」


 コイン袋から銀貨を3枚出す。これで150コインになる。銅貨がないので仕方がない。


「釣りってくるのかな?」


 誰に向けた訳でもなく問うと、おばさんが再度答える。


「くるよ」


「あ、ありがとうございます。じゃあ、狩人の村、4人です」


 御者に聞こえるように言い、おばさんに銀貨を手渡す。銀貨が、次々と手渡っていく。不安なので一応行き先を見ておく。御者まで届くと、とりあえず一安心。

 ゴトゴトと、馬車は進んでいく。相変わらず会話はない。子どもすら無言である。

 隣に座っているジェイルは寝ている。よく寝れるな。向かいに座っているエイロンは、涼しげな顔で外を眺めている。あんなに情緒不安定だったのに、なにを考えているのか。いや、なにも考えていないか。エイロンの隣に座っているリンと目が合う。リンも、俺と同じく不安を感じているのだろう。そう。

 釣りが帰ってこない。

 いや、まあ30コインぐらいならいいんですけどね、なんて思っていると、御者がごそごそとコインを取り出し、「狩人、4人」と言い、振り返らずに、コインを持った手を後ろにだした。

 御者のそばに座っているマーセナリーは、きょろきょろとするだけである。御者の右手が宙ぶらりんなままになる。見かねた小汚いおじさんが、手をうんと伸ばし、御者の手からコインを受け取る。

 盗られるかも、と瞬間考えた自分を恨みたい。おじさんは、御者の方へうんと伸ばした手を再びうんと俺の方へ差し出した。俺は、コインを受け取り「あ、ありがとうございます」と言った。おじさんは、にっかりと笑った。前歯がなかった。

 馬車が揺れる。慣れると心地よいような。まるでゆりかご。


「おい、起きろ!」


「は?」


「お前も結構不用心だな」


 リンが飽きれたように言った。

 エイロンは、寝ている。ジェイルはーーも寝ている。子ども連れのおばさんはもういなかった。いろいろと質問に答えてくれたおばさんも。マーセナリーたちと、小汚い格好のおじさんと、途中でのったのか、ラフな格好の若者が二人座っている。


「どこだ、ここ?」


「もうすぐだとよ。お前も起きろ!」


 リンがエイロンをゆする。


「狩人の村、狩人の村だよ」


 御者が振り返ることなく言うと、馬車がゆっくりと止まった。



 幌馬車が、ごとごとと遠のいていく。

 小川が流れている。小さな橋がかかっており、その向こうは緩やかな斜面になっている。斜面には、低木が規則的に並んでいる。木々の間に、橋から伸びる細い道が通っている。


「うーん良く寝た。で、狩人の村ってどこだジョブレス。あれ、ゲームのときってこんなんだったっけか」


 ジェイルが、伸びをしながら言った。


「いや、なんか違うな。まあ道があるんだし、橋の向こうにいってみるか」


 橋を渡り、緩やかな斜面を進んでいく。


「ぶどう園か」


 リンが呟いた。

 等間隔に並べられた木々に、いくつものぶどうがぶら下がっていた。ゲームの時にこんなものはなかったが。


「ん、誰かいるぞ」


 ジェイルが斜面の上を指差した。

 赤いずきんがひょこひょこ動いている。


「すみませーん」


 赤いずきんの方へと向かいながら、毎度のごとく、ジェイルが話しかける。


「へ?あ、はーい」


 赤いずきんが振り返る。

 そばかすが馴染んだ、素朴な女性である。


「狩人の村というのは、この辺にあるんでしょうか?」


「ああ、村に行きたいのですね。私もすぐ帰るところなので、一緒に行きましょうか」


 女の足下に棒が落ちている。女はその棒を「うんしょ」と土に突き刺す。

 棒の先には、何やら黒い物体が刺さっている。


「う、うわあ」


 エイロンが声を上げる。

 あの黒い物体は、なんだろう。鳥の死体のように見える。


「あ、大丈夫です。これはダミーですので」


 女は、おでこの汗を拭いながら、笑顔で言った。

 日差しが暖かい。黒い影が、青い空を優雅に飛んでいる。ダミーではない。本物の鳥だ。


「あれです。あれ対策です」


 俺の視線に気づいたのか、女は言った。

 農園一帯を見渡すと、等間隔に同じようなダミーが置かれている。


「驚かせてすみません。さあ、行きましょう。丘を超えて少し歩けばつきますので」


「あ、持ちましょうか?」


 ジェイルは、かごを背負おうとしている女に声をかけた。


「いえいえ、大丈夫ですよ。慣れてますから」


 女はかごを背負うと、しっかりとした足取りで歩き出した。

 斜面の頂点までやってくると、今度はなだらかに下っていく。ぶどうが栽培されているのは丘の南側だけで、反対斜面は小道の周りに雑草が茂っている。


「あ、名前ですか?メイジーと申します」


 ジェイルの問いに、メイジーが答えた。メイジーは、祖母に送る葡萄酒づくりの為に先行して収穫していたらしく、本格的な収穫時期はもう少し先らしい。


「みなさんは、どこからいらしたんですか?」


「ああ、僕たちは、ブレー」


 ジェイルのことばを切るように、羽音が劈いた。と同時に、黒い影が覆った。


「鳥だ!」


 リンとジェイルが同時に叫んだ。

 でかい。広げた羽は2メートルにもなるだろうか。狙いは、


「メイジー、危ない!」


 ジェイルが再び叫んだ。メイジーは悲鳴をあげ、しゃがみ込む。

 ジェイルがメイジーに覆い被さる。

 鳥の爪がジェイルの背中に食い込む。リンが腰に差したナイフを抜き、切り掛かる。が、突刺す直前で手が止まる。その間に鳥は暴れ、エイロンの胸元を引っ掻き、再び飛び上がった。


「大丈夫か、ジェイル」


「え、ああ、はあ、はあ、痛みはない」


 ジェイルは、少し上がった息で答えた。マントは破れているが、傷はなさそうだ。そういえば、ダメージってどうなるんだ。


「エイロン、お前は」


 俺はエイロンの方を見る。


「俺は別に、ってああ、グリモワールが!」


 上品なベストの胸元が破れている。


「あいつだ!」


 リンが上空を指差した。

 鳥が両の足でグリモワールを掴んでいる。食べられないとわかったのか、ぽとりとグリモワールを落とした。

 エイロンはそれを拾い、「はあ、大丈夫だ」と安堵のため息をついた。鳥がボタンを押したのか、グリモワールは通常のサイズに戻っている。本はよほど頑丈に作られているらしく、破れた跡はない。「ん?なんだ?」とエイロンがグリモワールを開きながら言う。

 本のページに、黒い跡がある。その下に、なにやら文字が書かれている。


「えーっと、ヤタガラス?」


 エイロンが文字を読み上げると、上空で鳥が「カアアアア」と鳴いた。

 鳴き声を聞き取ったのか、本のページに次から次へと文字が現れる。

「ここに親指を置いてください?」とエイロンが再び現れた文字を読み上げ、指示通りに親指を置く。すると、『契約が完了しました』との文字が現れた。

 再び羽音とともに黒い影が差す。


「またか!」


 ジェイルとリンがメイジーを守るようにして身構える。

 が、鳥はメイジーの方へはいかずに、エイロンの方へとゆっくりと降りてくる。

 敵意が感じられず、エイロンも俺もぼーっと見ていると、鳥はエイロンの肩に止まり、羽を休めた。


「ああ、そういうことか」


 納得がいった。

 リンもなるほど、といった顔で、頷いた。


「どういうことだ?」


 ジェイルが訊ねた。

 エイロンは、きょとんとしている。思考停止しているのか。


「エイロンはテイマーだろ?契約したんだよ、たぶん」


「なるほどね」とジェイルは頷いた。

 風が吹くと、丘が騒いだ。メイジーは、「ありがとうございます、助けていただいて」と立ち上がりながら、礼を言った。エイロンの肩に止まった鳥には警戒しているようだったが、リンの説明を聞いて、「なるほど」とにっこりと笑った。

「えええええええ!?」エイロンが、何拍もの間を置いて叫んだ。

「反応遅いなお前」とリンが呟いた。


「いや、なんで?何きっかけで契約になったのよ!?なんでだyo!」


 エイロンに、とりあえずの仮説を説明する。鳥の足跡がページについたこと、鳥の名前を読んだこと、鳥がエイロンのよんだ名前に答えたこと、エイロンが現れた文字の指示通り、親指をページのある部分に置いたこと。


「んな馬鹿な!6匹だけだぞ契約できるの!もっとドラゴンとかよ!なんだよこのわけわからんカラ、い、いてえいてえよやめろ!」


 ヤタガラスが、エイロンの頭をつついた。ことばが理解できるのか。にしても、完全な主従関係があるわけではないらしい。


「さ、と、とにかく、みなさんいきましょうかもうすぐですので」


 メイジーが、苦笑いで言った。


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