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すとっぷばいざげえむ  作者: ジョブレスマン
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回復薬を探して

「ここが銀行か」


 橋を渡ったところで、ジェイルが立ち止まった。

 コインの看板をぶら下げた建物が、商店区手前の角にあった。

 ジェイルは、躊躇なくドアを開ける。


「あんたにはためらいというものがないのか」


「リンよ、何をためらう必要がある?どうせ入るんだろうよ」


 とずこずことジェイルが中に入っていく。


「あいつはいつもああなのか?」


 リンの問いに「え、ああ、まあ、でもああいうのが一人いると結構頼もしかったり」と俺は答えた。

 ジェイルに続いて、中へ入っていく。いや、ちょっとまて。


「ジェイル、俺らなんで銀行に入ってんだよ」


「金おろすんじゃねえの?」


「いや、こっちきてからなんのクエストも達成してないから金ないんじゃね?」


「え?おれ、ゲームではめっちゃ金持ちだったぞ?」


 それぞれがマーセナリーウォッチを確認する。

 名前、クラン名、レベル、現在の経験値、装備、そして空欄が3つある。


「書いてないぞ?」


 エイロンがウォッチを見ながら言った。

 白ローブのお姉さんが近づいてくる。「マーセナリー様は、こちらになります」と奥の広間へと案内される。


「ああ、新規の方ですか。お金は装備やレベルとは違い、0からになります。一度コインを預けていただければ、そこの空欄に残高情報が記載されます」


 お姉さんの説明を、ウオッチを見ながら聞く。


「まじか。ってことはとりあえず部屋にあったコインのみで頑張るしかないってことか」


 コインの入った小袋をだしながら言うと、「そうなんです」と申し訳なさそうにお姉さんは答えた。


「あ、あと、クランルームの賃貸料は、クランリーダーの口座から引き落とされますので、リーダーの方はお早めに入金してください」


「え?!お金いるの!?クランルーム」


 たしか俺だよ、クランリーダー。+bloody dolls+(ブラッディドールズ)の。


「ええ、月5ゴールドとなっております。個人の部屋には賃貸料はかかりません」


 小さくため息をついて、銀行をあとにする。「しょうがねえよ」にたにた笑うジェイルが俺を慰める。くそ、なんで俺がリーダーなんだ。

 まあいいや。

 とりあえず、当初の目的であった回復薬の購入を目指すことに。



 大きなテントの下に露天が並んでいる。人ごみには、マーセナリーっぽいのが幾人か混じっている。


「しかし、日用雑貨はあるが、冒険のためのアイテムなんかは売ってないな」


 俺は、並べられた商品を眺めながら言った。


「しゃーない、とりあえず話しかけるべ」


 とジェイルが、近くを歩いていた金髪男に寄っていく。


「おい、まてよ。本当にマーセナリーか?ウォッチしてないし」


「お前は本当に心配性だなジョブレス。あんなん絶対マーセナリーだろ。あ、すみませーん」


 ジェイルの声に反応し、男が振り向く。長い金髪と赤いマント、ついでに無駄におおきなイヤリングも揺れる。なんでこんなやつに話しかけた、ジェイルよ。


「マーセナリーっすか?僕たち最近入って来たばっかで回復薬をさがしているんですが」


 ジェイルが腰低く話しかけた。


「ああ?おれもマーセナリーだけど?きみらは?クランどこよ?」


 ちゃらい。格好も表情も声も語尾もちゃらい。


「クラン?ですか?ローマ字でブラッディドールズ、最初と最後にクロスを足していただければ」


「ブラッディドールズ?なにそれ?はじめてきく」


 男は半笑いで俺たちを見た。リンが舌打ちをして男を睨んだが、男は雑踏の音で気づかなかったようだ。


「おれらさあ、他クランには情報提供するなっていわれてんだよね、サブリーダーに。ちなみに俺のクランはサムライソルジャーズ。サムライはローマ字ね」


「てめーのどこがサムライだよ」とは口に出さなかったが、さっきよりも大きな舌打ちが後ろから聞こえ、ちょっとひやひやする。


「ま、うちのクラン入りたかったらまた話しかけて来てよ。そんとき教えたげる」


 そう言い残し、雑踏のなか、金髪頭が遠のいていく。


「大手クランだな。ランキング上位の。いけすかねえ」


 リンがいつまでも金髪頭をにらみながら言った。


「ランキングにやたら詳しいな」とエイロンが呟くと「うるせえ」とリンはエイロンを小突いた。


「次だ次だ!」


 ジェイルはめげない。「あいつはなんであんなタフなんだ」とリンが褒めてるのか飽きれてるのか分からない口調で言った。


「あのー、最近きたばっかりですか?」


 角のついたヘルムを目深に被った小男が、話しかけてきた。


「え、あ、はい」


 反射的に、俺は返事をした。


「いやー、さっきの、サムライソルジャーズってクラン。大手クランが威張ってて。情報独占なんかしてたりして。うちのクラン、どうでしょうか?結構緩いですし」


 格好は見るからに怪しいが。俺は、ジェイルとリンの方を見る。二人とも何も言わない。


「いや、強制じゃないんです!クランに入ってくれなくても、協力関係、って感じでもいいし。情報共有のね」


 リンが、俺の耳元で「クラン名を聞け」とささやいた。


「えっと、失礼ですが、クラン名は?」


「勧誘しといて名乗ってませんでしたね!『アニマルプラネット』でサブリーダーをしてるバッファロー三郎です!」


 自慢の両角を少し前に突き出し、三郎は続ける。


「で、どうでしょ?悪い話じゃないと思うけど」 


 俺はジェイルの方を見た。特に意見はなさそうだ。エイロンは、露店を物色している。なんでもいいだろうこいつは。リンはーーー

 渋い顔をしている。


「あ、そうですね。ちょっと一回持ち帰って、また話し合ってみます」


「そうか、そうですよね急に。とりあえず」


 三郎は小さな紙を取り出し、俺に渡す。


「そこにクランルームの住所があるので、また訪ねてみてください!って、あれ、それ、その!」


 突如興奮し始める三郎。その原因は、リンの耳元にあった。


「ユニコーンの角を加工して作ったイヤリング!もしかしてあなたも角が大好きな角オタ」


「ち、違う!」


 リンが否定する。


「え、でも、そんな、ユニコーンの角のイヤリングなんて効果の割に高価なアイテム、オタクでないと」


 リンは顔を赤くして、「いくぞジョブレス!」と三郎に背を向ける。


「はわわわわ、すみません。つい角のこととなると熱くなってしまって、いや、本当にごめんなさい」


「ちょ、リン!え?ああ、いや、全然そんな、大丈夫ですよ。あの、それより、クランルームって住所があるんですか?」


 少しでも情報を得なければ。


「ああ、そうなんですよ。クランルーム、どこも最初、入り口が同じ場所でしょ?役場で住所変更したら、

別の場所に移設できるんですよ」


「へー、そうなんですね!」


 なんか変な人だけど、悪い人ではないっぽいぞ!


「あ、あとですね、そのマーセナリーウォッチ、ボタンを長押ししたら透明になるんですよ」


 三郎のニュー情報に、「わ、本当だ」とジェイルが早速驚いた。俺もやってみる。サイドについているボタンを長押しすると、ウォッチが透明になっただけでなく、ウォッチを巻いている感覚もなくなった。


「手首を数秒握ると、また現れます」


 おお、現れた。


「すごい!すごいよ五郎さん!」


 ジェイルが褒めると、三郎は照れながら角をなでた。三郎、だよな?


「リンさん、ですよね。すみません、気を悪くさせてしまって。本当、角のこととなると僕だめで」


 リンは振り返り、「い、いや、私も」さらに小声になり「熱くなりすぎた」と言った。リンの手首から、マーセナリーウォッチが消えている。


「三郎!」


 少し離れたところから、女の呼び声がした。声の方を向く。あれは、


「カバ?」


 とジェイルが、誰となしに訊ねる。

 カバの口の中に、女の顔が。いや、まあカバの着ぐるみっぽい装備を着ているだけなのだが。カバの上唇が目深にかぶさっており、三郎同様目元が見えない。


「早く、なにしてんの!」


 とカバ女が、三郎を急かす。


「はいはい、行きます行きます。カバなのにせっかちなんですよ彼女。カバがのんびりしてるのかどうかはしりませんが。お暇があれば、ぜひ私たちのクランルーム訪ねてください!またみなさんのことも教えてくださいね!」


「ありがとうございます!」


 礼を言うと、「では」と三郎はカバ娘の方へと向かった。


「いい五郎だったな、ジョブレス」


「悪い五郎がいるのか、ジェイル。てか三郎だぞ」


「あんたら、アニマルプラネットってクランも知らないのか?」


 リンが飽きれたように訊ねた。


「いや、知らないけど」

 

 と俺が答える。あんまり他のクランとか意識したことなかった。


「本当かどうかはしらないが、ケモナーの集まりって噂のクランだ」


「ただの動物好きだろ?」


 ジェイルのことばに、「まあ、私も噂しかしらないからなんともいえないけど」とリンには珍しく、語気弱く返した。

 とにかく、情報が少し増えた。俺は三郎さんからもらった紙を腰にかけた巾着にしまった。


「あと、肝心の回復薬の情報得てないけど」


 リンのことばに、はっとする。

 ああ、そういえば。


「いや、気づいてんなら五郎に聞けよ、リン!」


 ジェイルが言うと、「うるせえ、お前とは違うんだよ」とリンが言い返した。

 とにかく、結局なにも進んでいない。


「ん?こんな道あったっけか」


「おいおい、何処へ」


 リンの静止も聞かずに、ジェイルがテントとテントの間を抜け、細い路地に入っていく。はぐれないように付いていく。


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