ぼっちのシーカー、リンとマーセナリー登録2
リンも一緒に、ルビイのいる一階へと向かう。
「登録の済んだ方はこちらへ」
ルビイと思わしき白いローブを着た女に、個室へと案内される。「どうぞどうぞ」とルビイに言われるがまま、とりあえず仲良く4人ソファーへ腰掛ける。
「マーセナリーのみなさまへ、登録ありがとうございます。まずは現状の説明をさせていただきますね。みなさまのいるこの城塞都市『ブレーメン』はポリス共同体国家の中心的役割を担っております。人間以外にも、獣人族の方たちとも仲良くさせていただいております。しかし街の外にはゴブリンやオーガなど、我々と敵対している勢力がございます。国家の安全を守るため、広範囲に兵を派遣しております。都市の私兵団だけではなかなか補えず、マーセナリーのみなさまに助力をしてもらっている、という現状になります。クエストは岡の下にあるアゴラにて、ボードがございまいすので、そちらで情報を得ることができます」
「クエスト受注した、とかは確認いらないのか?」
リンが訊ねた。
「ボードには国防省が承ったクエストのみが書かれております。もしそのクエストを受けたい場合は、一階の受付で申請する必要がございます。クエストの達成は、完遂された時点でマーセナーリーウォッチが知らせてくれます。報酬も国防省でお渡しさせていただきます。また、ボード以外にも、住人から直接クエストを受注することもできます。その場合は、国防省を通さずとも、その住人から報酬を受け取ることができます」
ウォッチの説明ですが、とルビイは一息おいて、再び話し始める。
「ウォッチのボタンを一回押せば、マーセナリー様のデータが現れます。そこに、銀行に預けているコイン情報も存在します。ウォッチのボタンを二回連続で押していただければバーコードが出ますので、そちらを使って買い物もできます。現金化には、銀行に寄っていただく必要がございます」
ふう、とルビイが息をついた。これを一日に何回してるんだろう。
「銀行なんてあったっけか」
俺の問いに、「橋を渡って、商店区の手前にございます」とルビイはさらに続ける。
「特殊なクエストもございます。パーティ専用クエスト、クラン専用クエストなど。こちらのクエストを受けたい場合は、この部屋を出て左手に進んでもらえれば、管理のものがいますので、一度行ってみてください。また、まだ実装されておりませんが、円形闘技場で行われるパーティ戦、クラン戦も、その部屋で登録することができますので」
まあこの辺はゲーム中にもあったな。俺らは人数少ないからやったことないが。
「あともう一種類。緊急召集クエストがございます。緊急にマーセナリー様を招集することがある、ということですね。その際は、ウォッチからお知らせがありますので、できるだけ多くの方に集まっていただきたいと思っております」
「強制ではないのか」
リンの問いに、「うーん。強制ではございませんが、大切なお知らせなどもあるかもしれませんので。また、経験値やゴールド、報酬アイテムはかなり良いものが用意されております。さて、なにか、質問はございますか?」
「え、ああ、まあそんなもんか」
「馬鹿かジェイル!あるある、まだまだあります!まず、アイテムバックは?使えるの?あと、モンスターのレベルとか、ダメージは表示されるの?それにそれに、ダメージ受けたらどうなるとか」
「ああ、えーっと、アイテムバックがですね。残念ながら四次元ポケットのようには使えなくてですね、まあ回復薬ぐらいは入れられるかと。まだお配りしておりませんでしたね」
ルビイが、それぞれに巾着を手渡す。
「そちら、腰に引っ掛けることができます」
にっこりと笑うルビイに、唖然とする。まじでただの巾着じゃん。
「おいおい、早くしてくれよ。いつまでまたせんだあ?」
ノックもせずに男が入ってくる。ハルバートを背負った、無精髭の男だ。
リンが睨む。男も睨み返す。
あわあわあわ。俺とエイロンはあわあわする。どうするよこれ、とジェイルの方を見た。
ジェイルは、喜々としてにらみ合う二人の様子を見ている。このままだと逆に焚き付けかねない。
「ま、まあまあまあ。お互いこの世界に来たばかりですしね」
俺は、へこへこしながら間に入る。
「新入りか?おれたちゃ装備の更新に来ただけで、今日来たばっかじゃねえぞ」
装備の更新?とルビイの方を見た。ルビイは我関せずという感じで、ぼーっと俺たちの様子を見ている。俺の視線に気がついたのか、説明を始める。
「ああ、言い忘れておりました。装備の更新。装備を変更した場合は、ウォッチのみでは更新できませんので、一度こちらへ来ていただく必要がございます」
「えらく冷静ですね、ルビイさん」
俺が訊ねると、「ええ。マーセナリー同士ではダメージが与えられないようになっておりますので、口論で終わるかと」とルビイが淡々と答えた。
リンも無精髭の男も沈黙する。なんか気まずい。
「こらルドルフ!」
白装束の男が部屋に入って来た。
「またもめ事を起こして!すみません、みなさん」
雰囲気的にクレリックかな。メガネをかけた、優しそうな人である。
「おせえんだよジース。ノアは?」
「・・・いる。ここに」
消えるような少女の声。ジースと呼ばれたクレリックの後ろに、自分の体ほどの大盾を背にかけたおさげの少女がいた。
「なんでこの子が盾職なんだよ!」
とエイロンが急に怒りだす。さっきまであわあわしてたのに。沸点がわからん。
「ノアが自分で選んだんだからいいだろうがよ」
無精髭の男、ルドルフが言い返した。
エイロンはさらにつっかかる。
「いや、あの子が盾職は違うだろ!お前がやれよ!」
「は?俺は火力重視なんだよ、うっせえな、じじい」
「・・・べつに。・・・いいじゃない」
ノアと呼ばれた少女が、小さな、しかし怒りのこもった声で言った。
「え?あ、ああ、うん。いいよ!盾職いいよね!」
とエイロンは態度を一転させ、何度も頷く。
「あのーすみませんがそろそろいいですかね?後ろも混んでくるので」
ルビイがドライに言った。なんかビジネスライクな人だ。
「ああ、またなんかあったら聞きにくるよ」
ジェイルが言うと、俺たちは出口へと向かった。エイロンはノアに手を振りながら、リンはルドルフを睨みながら、俺はなんとなくへこへこしながら。もっといろいろ質問したかったが。
「あ、最後に、この世界の住人をnpcと思わずに接してください。彼らにも生活があり、喜怒哀楽があり、意志があります。あと、リアルの話はマーセナリー間でもしないようにしてください。この世界を楽しんでいただくためにも。では、エンジョイ!」
エンジョイ、ってことばがマニュアル化されているのか?とにもかくにも、俺たちは国防省を出て、アゴラへと歩いていく。
「変なやつらだったな」
先頭を歩くジェイルが言った。
「ノアたん可愛かったなあ」
「エイロンよ、ゲーム内だからいいが」
「リアルではなんねーよ、ジョブレス。それが紳士のたしなみさ」
エイロンは胸を張って返した。
「しかし、あいつら有名なプレイヤーだぜ。クランランキングはそんなにだが、あいつらのパーティーはランカーだ」
リンが、険しい表情で言った。
「パーティーランキング?ってなんだっけ」
ジェイルが訊ねた。
「なんだ、あんたら知らないのか?ゲームではパーティ戦、クラン戦が2ヶ月前ぐらいに実装されてただろ?そのランキングが毎週でてたんだよ」
「へー、ランキングまででんのか。パーティ戦って4人必要じゃなかったっけ?俺らじゃ足んねえからでてなかったんだよ。てか、ソロマーセナリーなのによく知ってんな」
ジェイルが言うと、リンは「ま、まあね」とぎこちなく答えた。
「で、とにかく、どうするよ」
とシェイルは俺を見た。
「うーん、わからないことが多すぎる。情報がほしいな。回復薬、商店の方に売ってんのかな。とりあえずそっちに向かって、そこらへんでマーセナリーっぽいやつから情報もらうか」
「ま、妥当な行動指針だな。さ、いくぞ」とリンが言うと、俺たちは歩きはじめた。
ん?まてよ。
「って、お前はいつまでついてくんだよ!」
ジェイルがリンに言った。俺と同じことを考えてたらしい。
「え?」
リンは、驚いた顔で俺たちをみると、マスクに半分かくれた頬を赤くして「いいよ!なんだよ!」と走り出した。
「ま、まて、リン!」
俺は、リンを呼び止めた。
意外にもあっさりと、リンは立ち止まった。
「ジェイルよ、リンのレベルを考えると俺たちに有益だ。今後何があるかわからない」
ジェイルはちいさくため息をつき、「俺も冗談でいったんだよ」と小声で言った。
黙って立っているリンに、俺が声をかける。
「リンよ、仲間になってくれ」
「しょ、しょうがないね、なってやるよ」
リンは、少し震えた声で、振り返らずに言った。もしかして泣いてる?めんどくさいやつだとは思ってたけど、かなり面倒なやつなのかもしれない。
「ついてこい!」
リンが振り向いた。マスクごしにもわかるほど口をにんまりさせている。
あ、馬鹿っぽいからいいや。
「お前口にやつきすぎい!」
ジェイルの余計な一言に、「うるさい!」とリンは再び背を向けた。やっぱめんどくさいな。