シナリオ1のクリア報酬
「なんや、部屋か?あるで、地下に一室。女の子二人なら住めるわ。へ?お嬢ちゃんウィザの一族かい?そりゃ助かるわ。ええ魔法キャンディ作れるで。家賃はいらんで。ほんで、そっちの子はなんの種族の子や?は?灰の精霊?は!?」
『Little Red Riding Hood』に、赤ずきんのばあさんの声が響いた。
灰の精霊が来たとなれば、まあ驚くだろうよ。かくかくじかじかでと、ばあさんにことの経緯を説明すると
「はあ、そういうことかい。大変やったんやなあグレコちゃん」と今度は一転優しいおばあちゃんモードに。旅の疲れからか、俺は部屋で一休みさせてもらうことに。どれくらい眠ったのか、懐かしい匂いに目を覚ます。リビングへ行くと、
「なんだ、起きたのか」
とエプロン姿のリンがいた。
「カレーか?」
「ああ、商店の特別販売でルーが売ってて、婆さんやメイジーたちにも食べてもらいたくってな」
とリンは鍋をぐるぐるとかき回し始めた。
カレーか。そうか、カレーだ。
そのとき、ビーッビーッとマーセナリーウォッチが振動した。
「なんだ?」とリンともどもウォッチを確認する。
『シナリオ1クリア お暇なときに国防省へどうぞ』
と文が流れている。
「シナリオ1?ってなんかあったっけか?」
「いや、わからないけど」
とリンはカレーに蓋をして、「メイジーと婆さんがもうすぐ帰ってくる。そしたらご飯にしよう」と言った。
「エイロンとジェイルは?」
と俺が訊ねると
「あいつらは飲みにいったよ」
「ふーん」と俺は、棚からコップと皿を出した。
ーーー
翌日の昼過ぎ、国防省にて。だるそうに椅子に座っているハンバーガーが言う。
「おめでとう。シナリオ1クリアじゃ」
「なんだシナリオ1って」
とジェイルが訊ねた。エリーが答える。
「シナリオ1は、謎の壷男の撃退です」
「リン、お手柄だったんだな」
と俺はリンを見た。
「え?ああ、私が倒したっていうか、たまたまなんだけど」
とリンは頬を赤くした。そういえば、最初の頃にしていたマスクはもうしてないんだな。
「マーセナリーが消えたんだけど、それもシナリオ通りだったのか?」
俺は訊ねた。
「いえ、完全にイレギュラーですね。NPCがまさかこれほど自分で動き出すというのは予想外でして、みなさんには申し訳ないというほかありません。消えたプレイヤーも、現実世界で何か影響があるということにはなりませんので」
「で、シナリオ1クリアで、なんかもらえんの?」
そんなことどうでもいいといわんばかりのテンションで、ジェイルが訊ねた。
ハンバーガーが口を開く。
「クリア報酬というか、シナリオ1のクリアで現実に戻ることができる。というか、システムの都合上シナリオ2が始まるとまた戻れなくなってしまうので、戻りたいなら今だいうことじゃな」
ーーーーー
すれ違う街人、石畳の道路、煉瓦造りの建物、オレンジに染まる雲、ウェルズ川のながれる音。そうだ、全部、ゲームのなかなんだ。
ーーー「急で申し訳ありませんが、明日の正午よりシナリオ2が始まります。それまでに、国防省に来ていただければ現実世界へと戻ることができます」ーーー
エリーの説明を思い出す。
「戻ったとして、またゲームに入れるかはわかんねえんだよな?」
エイロンが空を見上げながら訊ねた。
「って言ってたな。シナリオ2はかなり長くなるらしいってのも肝だな。まあ居残っても現実世界での体は補償されるらしいが、今度は現実時間も進んじまうとか」
とジェイルが答えた。
商店区は未だに人で賑わっている。
リンはずっと無言で歩いている。
「俺、ちょっと買い物してくよ」
とジェイルと別れ、なんとなく重い空気のまま、俺たちは『Little Red Riding Hood』へと戻った。
その日の夜、二階の共同スペースで一人ぼおっとしていると、大きな袋を持ったジェイルが帰って来た。
「あいつはもう寝てんのか?」
「エイロンならさっき寝たよ。なんだその袋?」
「ああ、まあ、婆さんとメイジーには色々迷惑かけたしな」
「さすが、社会人はしっかりしてんな」
「お前は、どうすんだ?」
ジェイルは俺を見た。
「どうすっかなあ」
まじでどうすっかなあ。
「まあ、なんだ、あれだな」
とジェイルはぽりぽりとほっぺを掻く。ジェイルにしては珍しいな。もったいぶっている。
「何だよ」
「残るにせよ、俺の結婚式までには帰ってこいよ」
「ははは、ひひっひ、腹いてえ」
「笑うなよ!」
「いや、お前にそんな一面があったとは」
「うるせえ!寝るぜ俺は」
「おう、おやすみ」
さて、どうする。
目を瞑るが眠れない。色々考えてるようで、結局思考を堂々巡りさせているうちに朝が訪れた。




