いざ、夜の街、アンヘーレへ
「で、ウィズはどうする?村に戻る?」
ジースは、ウィズに訊ねた。
日が傾きはじめている。アンヘーレまではまだ距離がある。
「わたしは、この馬鹿を村に返して旅に出ます」
とウィズは気を取り戻したザックをこつりと殴った。
「いって、やめろよねえちゃん」
ザックいわく、本当に何も覚えていないとのこと。壷を持った男に魔法をかけられたらしいのだが、色々と情報が曖昧でなんとも言えなかった。
「その子はどうするんだ?」
ジェイルは、ウィズの袖を持って歩く灰色の少女を見た。
「グレコは」
「グレコ?!」ジェイルが間髪入れずに反応する。
「え?ええ、私が勝手につけた名前です」
ウィズが恥ずかしそうに答えた。
「ぐ、グレコってまた、ははは、グレーの女の子だからか?ひひひ」
ジェイルの周囲に灰が舞い始める。グレコがジェイルを睨んでいる。
「いや、すまん、冗談。グッドネームよ、グッドネーム、なあジョブレス」
「は?ああ、いや、いい名前だよ!」
絶対怒らしちゃダメだぞ!
「と、とにかくグレコは、私と行くといっているので。それに、壷の男に少し力を奪われたと言っているので、それを取り返さないと」
グレコに視線が集まる。視線に気づいたグレコは、頬を黒くしながらも何度も頷いた。
「で、でも、また、操られるかも」
ノアがぼそりと言った。
「あれは、騙されたのです。次は大丈夫です!」
かくかくじかじかと、ウィズはあらましを話しはじめた。
ウィザの一族がサントンから地図にない集落に移って間もない頃。サントンへ行くことは固く禁じられていたが、ウィズはこっそり集落を抜け、サントンの自宅に置いてきた服を取りに帰ったという。その時出会ったのがグレコであった。それからというもの、時折集落を抜け出してはグレコと森で遊んだり湖で泳いだり、パナラボ山へ行ったりと
「それはそれは楽しいものでした」
遠い目をするウィズとグレコ。村の長老たちよ、お母さんよ、結構好き勝手やってるぞこの子。
しかし、事件が起きる。弟、ザックの失踪である。失踪後、監視の目が厳しくなり、ウィズは村を抜け出せなくなる。グレコにも会いたいし、弟も放ってはおけない。そこで、村を出る決意をしたという。
「サントンは、灰で覆われていて、明らかにいつもとは違いました。それだけでなく、なんとなくですが、グレコの怒りのようなものを感じたのです」
しかし、肝心のグレコがいない。そこにひょっこりザックが現れる。連れて帰ろうとしたウィズであったが、意外にもにこやかなザックに「こっちへきて姉さん、おいしいスイカがあるんだ」と言われ、スイカに目のないウィズは、のうのうとついていく。すると、地面に描かれていた円陣が光り、黒いもやに包まれたという。
「そんときにはもう俺、操られてたんだって」
「うるさい、この馬鹿。とにかく、私が騙されたせいなのです。そこで強力な暗示をかけられた私は、グレコに村を訪れるマーセナリーを襲うよう指示していたのです。本当にすみません」
申し訳なさそうに、ウィズが俺たちを見た。いや、その状況でスイカについていくって。
「いや、君のせいじゃないよ」
ジースが優しく微笑んだ。聖人ってのはいるんだな本当。
「ウィズよ、知ってたか?スイカって実は野菜なんだぜ」
ジェイルが言うと、「え、本当ですか!?果物だと思ってました!」とウィズが驚く。
「うそだよ、うそ、ははは、これじゃあまた騙されるぞ」
「ジェ、ジェイル、ス、スイカは本当に野菜に分類されるよ」
ノアがぼそりと言った。
「え?」
前途多難。
あれ、なんか忘れているような。
ーーーー
ジェイルの腕に巻かれていたピンクの紐が、黒くなる。
「あっちだな。思ったより遠くない」
とジェイルが歩き出す。
「なんでわかるんだ?」
「なんか頭に入ってくんだよ、ジョブレス。魔法だろ、魔法」
一行は、ジェイルの先導で、アンヘーレとサントンの間にある森を進む。
「あ、いたいた」
木々の開けた場所をジェイルが指差した。
マスクをした女シーカーとハルバードを担いだ男のファイター。
装備がぼろぼろになっている。しかも、明らかに二人の間に流れている空気が悪い。
「ルドルフ、大丈夫だったか?」
ジースが歩み寄る。
「あ?ああ、って、ノア、お前どこほっつき歩いてたんだ?」
「いや、本当、今回ばかりはごめん」
ノアが舌を出す。ルドルフは頭を掻いて「しょうがねえな」と顔を赤らめた。
ん?あやすい。
さて、リンに話しかけたいところだが、ぶつくさ言いながらこちらへ向かってくる彼女は、なんとも不機嫌そうで。
「リンさんよお、ずだぼろじゃねえか」
空気を読まずにジェイルが話しかける。
「五月蝿い、こいつのせいだ!」
リンがルドルフを指差すと「ああ!?」とルドルフがキレ返す。「まあまあ」とジースは苦笑いを浮かべる。
ワープ魔法で飛ばされた二人は、その先で大型モンスターに相対したらしい。しかし
「こいつ、攻撃のことしか考えてねえし、チームプレイのかけらもなくて、私が何度フォローしてやったと」
「ダメージソースほぼ俺だったろうが!シーカーの攻撃力じゃ、倍の時間はかかってたぜ」
「はあ!?なにを」
リンのことばを「カアー!」とヤタガラスが遮った。そして、なぜか俺の肩に止まる。
「てかお前はどこいってたんだ?」
問うと「カアー、カアー!」と鳴いた。何言ってるかわかんねえが、このカラス、にたにた笑って誤摩化している感じはある。
「そうだ、あと変な壷のやつが逃げるように走って来てよ」
「壷の男!?そいつをどうしたんだルドルフ!?」
とジースが興奮気味に訊ねた。
「こいつの小型爆弾が暴発して、壷の男も吹っ飛んだ」
「いや、なんか落としちゃって、やばかったかな?」
とリンは顔を赤らめ俺を見た。
「いや、まあ、お手柄、なのか?」
と俺は答えた。
「ははは、本当、君たちは面白いね。そうだ、ジョブレス、僕たちは地図にない集落へ一度寄るよ。ウィズの家族にことのいきさつを話さないといけないしね。ザックくんも僕たちが送り届けよう」
「ああ、なら俺たちもいくよ」
「いや、君たちはエイロンくんが待っているだろうし、それにーー」
ジースは、横目でリンとルドルフを見た。まあそろそろ別れた方が懸命だな。
「そうだな。そうさせてもらうよ」
クランルームの住所を交換し、ジース一行と別れのときがきた。
「君たちと組めてとても良かったよ。こんな優秀なパーティ、なかなかいなんじゃないかな」
「ジース、お世辞言い慣れ過ぎだって」
と俺は照れながらに言った。
「い、いや、そんなこと、ない。ジェイルも、ジョブレスも、頼もしかった。また、組もう」
ノアが言うと、シゼイも続く。
「塔からウィズを救う作戦、あの短時間であれだけのことができたんだ。本当に楽しかったし、ジョブレスとジェイルには感心しちゃったよ」
いや、俺なんて、たまたま炎竜が使う炎系の魔法がつかえただけなんだが。
「いや、俺はそんなに」
「素直に喜んどけ、ジョブ」
とジェイルが言った。
自虐はほどほどがいいよな。
「そうだな。ありがとう、俺たちも楽しかった」
「っけ、俺がいたら一発だったっての」
「ル、ルドルフ、嫉妬?」
とノアが言うと
「そんなんじゃねーよ!」
ルドルフは拗ねた。
ジースたちと別れ、アニマルプラネット、老魔法使いと戦士、旅に出たいからついていくと聞かないウィズとグレコを引き連れ、我らブラッディドールズは森を行く。
森を抜けると、平野に出た。空が大きい。一本道の先に、ぽつりと街が見える。
「こっからが本番よ!」
ジェイルは、にたりと笑った。
眠らない街、アンヘーレ。リアルじゃおしゃれすぎる場所には行けないが、今はジョブレスマンだしね。カジノでナイスバディのディーラーとポーカーして、薄暗いバーのカウンターでカクテルを頼んで。いや、やっぱ恥ずかしいな。一人でルーレットでもしよ。




