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すとっぷばいざげえむ  作者: ジョブレスマン
32/39

消えたマーセナリー

「ひゃっぽう、最高だぜ!」


 幾ばくか歩いたところで、ジェイルの声が聞こえた。

 足早に向かうと、戦闘中のジェイルとノアがいた。

 ノアの盾が青く光っており、そこに数体の灰ゾンビが集まっている。その横から、ジェイルが剣を振り下ろす。


「おう、お前ら、無事だったか」


 もう一体の灰ゾンビを切りながら、ジェイルが言った。


「あれ、死なねえな」


 ジェイルは再度灰ゾンビに切りかかる。が、再び復活する。


「へそだよ、へそがコア、弱点だ」


 俺が言うと、「あ、そうなの」とジェイルはへそを突刺した。灰ゾンビが崩れさる。


「どうやって倒してたんだよ」


「いや、一刀両断してたら死んでったからさ。10体はやったぜ。なあ、ノア」


「うん」


 ノアはこくりと頷いた。

 なんかいいコンビになってる。


「ははは、ルドルフが嫉妬しそうだな。とにかく無事合流できてよかった。さて」


 ジースは、地面に埋まった大きな建物を見た。

 町のシンボルだっただけあって、相当な敷地面積を有していたことが伺える。塔部分は地面からせり出したように一等高くなっており、その最上階には古びた鐘が見えた。下半分が地面に埋まった、半楕円の空洞がいくつかに地上に浮き出ている。当時は美しいステンドグラスでもはめ込んであったのだろうか。覗き込めば中の様子がわかるか?頑張れば入れそうである。

 しゃがんで中をのぞこうとしたとき、光が射した。

 光?上空を見る。


「晴れたな」


 空を覆っていた灰が消えていた。辺りに灰が舞っている様子もない。 

 地面に埋まった大きな教会、村の背後に佇む雄大なパナラボ山。観光地だったというのも頷ける。

 久しぶりに澄んだ空気を吸い込む。清々しい。


「ルドルフたちはどこだろうか」


 ジースは誰に言うでもなく言った。

 全く見当がつかない。ワープ系の魔法か。そんな遠くまでは飛ばせないとは思うのだが。オドアドの紐でリンの居場所を調べるか。しかし一回きりだしもったいないような。


「おいおい、そんな悠長なこと言ってる場合でもなさそうだぜ」


 とジェイルは剣を抜いた。

 ジェイルの視線の先、教会の上空を見る。

 灰色の巨大な塊が教会の背後に蠢いている。段々と、一つの形に象られていく。

 枝のように伸びた二つの腕、パンパンにふくれあがった大きな顔。

 ゆっくりと口を開くと、辺りに灰をまき散らす。

 慌てて口を覆う。視界が悪くなる。


「灰の精霊だ!」


 ジースが声を上げた。精霊?って悪いやつなの?

 俺の心の質問に答えるように、ジースが言う。


「精霊はよっぽどのことがない限り敵対しない。なにかがおかしい!」


「んなこと言ってる場合か!」


 ジェイルが灰の精霊に切り掛かる。

 どさりと砂を切ったような音がする。斬りつけた部分は、すぐに灰で修復される。


「だめだ、精霊にはコアがない!灰そのものなんだ!」


「じゃあどうすりゃ」


 ジェイルは態勢を立て直す。

 灰の精霊は、おもむろに両手を上げた。地面がちりちりと音を立て始める。大気中に舞っていた灰が集まり、灰ゾンビに象られていく。精霊がゾンビを作り出す、とは。やはり何かがおかしい。が、思考している暇はない。

 灰ゾンビが襲ってくる。ジェイルは俺を守るように盾を構える。


「ジェイル、俺はいい。ジースのホーリーライトの時間を稼ぐんだ」


「ジョブレス、そりゃノアに失礼ってもんだぜ」


 ジースの前で、ノアが盾を構えている。ノアの盾が青白く光ると、吸い寄せられるように灰ゾンビが3体寄ってくる。


『フォルムチェンジα』


 ノアが唱えると、盾は細長くなり、先端部分が尖っていく。その尖った部分を灰ゾンビに突刺す。


「おお、すげえ」


 観戦気分で感嘆の声が漏れた。大盾ってあんなんできたの?なんで大盾人気なかったんだ!


『ホーリーライト!』


 ジースは唱えながら、ロッドを突き出した。白い球状の光が辺りを覆う。

 灰ゾンビが消えていく。

 灰の精霊は、再びおもむろに両手を上げる。再び灰ゾンビが現れる。


「きりがねえ、どうする、ジョブレス」


 ジェイルは俺を見た。

 灰ゾンビが10体以上はいる。一旦引くのが懸命か。

 大きく何かを吸い込む音。

 なんだ。

 灰の精霊の方を見る。ぱんぱんの顔が、さらに大きく膨らんでいる。


「逃げろ!」


 ジースが叫んだ。


「ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 と灰の精霊が、そのぱんぱんに膨らんだ中身をぶちまけた。

 山鳴り?地鳴り?体の芯から揺さぶられるような、大きな波動にさらされる。一瞬遅れて、突風がくる。さらに一拍置いて、灰の雨が鞭のように打ち付ける。

 どっと疲れが押し寄せる。

 風が止まない。辺り一帯に灰が舞っていて、一寸先も見えない。口も開けられない。

 ジースは、ノアは、ジェイルはーー。確認できるほどの余地はない。

 疲労がたまっていく。

 風に押され、右へふらつく。足がずるりと滑る。足下を見る。教会の空洞ーーー入れるか。体をねじ込み、なんとか入り込む。外の様子を伺うが、灰の竜巻はやみそうにない。塔の部分へ行ければ、上から様子が確認できるかもしれない。四つん這いのままに、薄暗い教会内を進んでいく。

 前方から薄く光が漏れている。塔の方だろうか。いくらか進んだ先で、こつりと、右ひざに固い物があたった。ここだけ土の地面ではなく、格子に組まれた鉄の枠になっている。格子の下に目を凝らす。土の凹凸ができており、階段のようになっている。地下があるのは明白だ。気にはなるが、外の状況は一刻を争う。そのまま進もう。


「ーけて」


 遠い声が聞こえた。弱々しくも、しかししっかりと残響している。

 地下からだ。

 辺りを見渡す。敵らしき影はない。声の主がマーセナリーなら仲間が増えていいが、しかしこの感じだと手負いの可能性が高いな。


「たすけて」


 今度はしっかりと聞こえた。

 ええい、ままよ。

 格子を持ち上げる。結構重い。頼りない土の凹凸を足場に、急な斜面を降りていく。螺旋状になっており、傾斜が段々と緩やかになっていく。

 オレンジの明かりが怪しく光っている。


「ああ、助けてくれ!」


 壁にかけられたオレンジのランプ。その向こうに、木の格子があった。中にはマーセナリーらしきものたちが、10人はいるだろうか。奥までは光が届いていないので、もう少しいるかもしれない。


「助けてくれ」


 わらわらと格子の方へマーセナリーたちが寄ってくる。憔悴しきったような顔、しかし俺が来たからか、どこか表情に明るさも見える。

 これぐらいの木なら壊せそうだが、と格子に触れようとすると、何かに触れて反発を受けた。格子以外に、透明ななにかが魔法で張られているのかもしれない。


「ジョ、ジョブレスさん」


 聞き覚えのある声だった。あの変な角の付いた頭は。

 五郎だ。


「バッファロー三郎です」


「三郎さん、こんなところで」


 最初の頃に商店区で会って以来か。相変わらずバッファローのヘルムをしているが、あのときよりも精気が感じられないというか、やつれたというか。


「消えて、消えてしまったんです」 


 消えた?他のマーセナリーたちも、口々に話しだす。

「そうだ、消えちまったんだ」「早く、早くたすけて、私たちも消えてしまう」


「えっと、何が消えてしまったんですか?」


 三郎が、悲壮感露に言う。


「マーセナリーがです、一緒に捕まっていたマーセナリーが、消えてしまったんです」


 オレンジの光が揺れると、風が小さく吹いた。

 大気に何かが舞っている。

 灰か。

 土を踏む音が、地上から近づいてくる。

 目を瞑り、大きく息を吸う。

 まだ、消えたくない。

 もう少し。もう少しだけでもいいから、この世界に。

 狂言師の杖を構える。

 大きく息を吐き、目を開く。

 人影が、螺旋の終わりに怪しく揺れている。

 土を踏む音が大きくなる。

 影が揺れる。

 ごくりとつばを飲み込む。

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