ビトカの依頼 いざ、アンヘーレへ
にっこりと笑ったエリーが、言う。
「終了でーす。いかがでしたか?一応来週には実装を考えているのですが、改善点や見つけたバグなど、意見をいただけたら」
サムライソルジャーズの双子らしきファイターの肩割れが、一歩前に出る。
「なかなか楽しかったよ。普段の街で戦闘できるのはいいね。サタンが後半上空を飛んでくるのもいい演出だったな。バグとしては、橋前にいたゴブリンで、なぜか2点になるやつがいたな。改善点は、ゴーレムは固い分時間がかかる。もう少しポイントを上げてもいいと思うな。サタンの強さだが、今のままでは我々のような上位クラスだとあっさり倒せてしまうのではないかな。ポイントの比重もサタンにより過ぎている感があるね。また、2時間というのは少し長過ぎるような気もする。今回は2パーティ同時スタートだったが、そこのご老人のように、戦闘ダメージは与えられなくても、片方のパーティに縛られたり、動きを完全に止められることもある。それはこのゲームの方向性としてあまり良くないと思ったね。ああ、それと、このご老人は最初転送位置がひとりだけ違って、そこは指摘しておかないといけないね」
こいつ、プロか?
エリーは、「なるほど、なるほど」とメモを取っている。
「えっと、まあ、そうですね。結構楽しかったです。ちなみに、ポイントの結果は?」
と俺は恐る恐る訊ねた。
「ああ、すみません。そちらが先でしたね。1ポイント差でブラッディドールズさんの勝ちです」
おお、やった。
「ふふ、やるわね。楽しかったわ。最後の精霊さんの召還、驚いたわねえ」
とチャイナドレスのお姉さんが言った。
つまらなそうなタカをリンがにんまり顔で見ている。しかし、そこまで爽快感がないのは、タカ以外のサムライゾルジャーズが思ったよりも普通のベテランゲーマーっぽいからか。
「ふふふ、やられたね。仕方がない。君たちにその鍵は託そう」
とカイは俺の肩をポンと叩いた。
「あのお、この鍵って一体なんなんですか?」
と再び恐る恐る、俺は訊ねた。
「知らなかったのかい?もう一つのカプセル、黒い玉が入ってただろう?その二つをあるダンジョンにある宝箱に埋め込むとなんと」
とカイは喜々として言う。
「サムライ装備一式が手に入るのだよ!」
「あ、そうなんですか」
と俺はエイロンの背負うデイバックからカプセルを二つ取り出すと「どうぞ」とカイに渡した。
「ええ、いいのかい!?」
「いいよな、みんな」
俺は他のメンバーを見る。誰も反対しようとするものはいない。
「よかったわねん、カイ。あなた、あんなにほしがってたものね」
チャイナの姉さんがカイの頭をなでる。
「うん、うん、本当によかったよ、姉さん」
とカイは涙する。
「なんじゃこりゃ」
ハンバーグが大きくあくびをした。珍しく同意である。
ーーー
「とんだ茶番だったぜ」
ロウは悪態をついた。
「でも、楽しかったな」
とヴィッタは口を綻ばせた。
「まあ、な。またなんかあったら呼べよ」
と二人は去っていった。
消化不良感がないとはいえないが、まあ楽しかったからいいか。
「意外と嫌なやつらでもなかったな、サムライソルジャーズ」
リンがぽつりと言った
「確かに、最初のイメージよりは随分いいな」
と俺は同意した。
にやにや笑いながら、ジェイルは言う。
「すぐに壁作るからいけねえんだよ。付き合ってみたら意外といいやつだった、なんてよくある話だぜ」
「タカは終始嫌なやつだったけどな」
とリンが反論すると「まあ、時にはそういうやつもいるが」とジェイルはぽりぽりと頬を掻いた。
「でも、ちゃんと関わらないと分かんねえよな、確かに」
と俺はふと振り返った。サムライソルジャーズの面々も、ロウもヴィッタも、すでにアゴラから去っていた。
だらだらと『Little Red Riding Hood』に向かっていると
「あ、あなたたち」
と声をかけられた。
道ばたにカバがいた。いや、あのカバ少女は、三郎といた。
「あなたたち、助けて、お願い」
悲壮感が漂っている。
「どうしましたか?」
ジェイルが口調を改め訊ねた。
「三郎が、クランのみんなが、いなくなってしまったの」
いなくなってしまったとは、これいかに。
ーーーー
「とりあえず、かけつけ一杯」
「やめとけジェイル」
たしなめると、「へいへい」とジェイルは適当な飲み物を頼んだ。
「で、ビトカさん、なにがあったんですか?」
俺は、しおらしくしているカバ少女ことビトカに訊ねた。
ビトカは、カバの頭装備をゆっくりと取る。肩口の髪の毛がふわりと舞う。じと目がさまになりそうなやや吊った大きな目である。
「うん、、、、実は」
ビトカは、重い口を開いた。
三日前のこと、炎竜の目撃情報を得たアニマルプラネットのメンバーは総出で、といっても全員で6人らしいが、パナラボ山付近にあるサントンという廃村に向かったという。そこでクランメンバーが大きな灰の竜巻に飲まれ、ビトカだけがなんとか逃げ出せたという。
「その後、私は近くの街に戻って、もう一度サントンへ向かったわ。でも、サントンには灰のゾンビがたくさんいて、私じゃ太刀打ちできなくて、三郎も、メンバーも帰ってこなくて、もう、どうしたらいいかわからなくて、」
泣き始めるビトカ。
リンと顔を見合わせる。まあこういうときは色男に任せよう。
「ビトカちゃん、大丈夫。僕らが助けて上げるよ」
ジェイルがビトカの肩を抱いた。
「あ、やめてください」
びくりとビトカがジェイルから身を引く。「あ、ごめん」とジェイルが瞬時に手を引く。
「何笑ってんだリン」
ジェイルが目を細める。
「すまんすまん、ふふふ、引かれてんじゃん」
とリンは笑いを堪えながら言った。
「すみません」
とビトカは頭を下げた。なんとなくジェイルに対する視線が冷たいような。
「い、いや、ぼくこそごめんね」
とジェイルはぎこちなく謝った。
「で、どうするんだ」
リンが俺を見る。
「パナラボ山ならアンヘーレが一番近い街かな」
アンヘーレは結構大きな街で、とりあえず行っておきたいしね。
「いいね、アンヘーレ!」
ジェイルが意気揚々と言った。カジノとかもあったから遊ぶ気満々だな。そんなジェイルにビトカが冷たい視線を送っている。
「い、いや、もちろんアニマルプラネット救出が最優先よ!」
たじろぐジェイルに「ありがとうございます」とやや冷たく、ビトカが言った。どっちが依頼してんだか。いや、依頼でもなくただのお願いか。報酬ないし。
「お詫びに、というか、助けてくださったあかつきには、ゴールドなりアイテムなりをお渡しします」
お願いから依頼にランクアップした。
「うむ」
ジェイルは、冷静さを保とうとするも、顔のにやつきを隠せずに返事をした。
またもビトカがジェイルに冷たい視線を送る。
「いや、ははは、報酬なんて関係ないよ、ほんと」
ジェイルにも苦手な女の子がいるんだな。




