くりのフンをめぐる戦い パーティクエストスタート
次の日の朝。
イースタンストリート5-5-7。紙切れに書かれている数字と、扉にかかったプレートの数字を確認する。合ってる。
「また留守かあ?あ〜あ」
ジェイルがだるそうにあくびをする。
ここは、リンいわくケモナーの集まりだと言う「アニマルプラネット」のクランルームである。交友関係の狭い俺たちは、パーティーメンバーをそろえるために、以前出会ったバッファローヘルムをしたバッファロー三郎を頼ろうと考えたのである。前にも一度訪れたこのクランルームだったが、前回同様今回も留守のようだ。
「さて、どうする」
空を見上げる。
「どうせあいつらがいてもサムライソルジャーズには勝てないだろう。他を当たろう」
「リンさんよお、俺たちに他に伝手はあんのか?」
ジェイルに言われ、リンは、「いや、まあそうだが」と語気を弱めた。
とくに行く当てもなく、川沿いを歩く。
「あ、いた、おい、お前ら!」
ジェイルが対岸に手を振る。
見覚えのある二人が川岸の縁に座っている。黒いストールをした優男風なロウと銀の降るアーマーのヴィッタである。ちょうどいい二人がいるじゃないか。きょとんとしている二人を呼び止め、急いで対岸へ向かう。
「お前ら、サムライソルジャーズに一泡吹かせてやろうぜ!」
ジェイルが溌剌と言った。
「サムライソルジャーズ?もう関わりたくねえよめんどくせえ」
とロウは雑草をちぎりながら言った。
ヴィッタはぼーっと川を眺めている。
「おいおい、ヴィッタの方はずっとこんな感じか?」
と俺はロウに小声で訊ねた。
「あんたらのせいでな。なんか思うところがあったんじゃねえか、主人公がどうたらとか言うからよ」
「ヴィッタ、君は主人公になりたいのか?」
意外にもエイロンがヴィッタに声をかけた。
「主人公?ああ、そうだな、いや、主人公じゃなくてもいいと思う。脇役でも、なんでも。ただ、そうだな。うーん」
とぶつぶつぶつぶつとヴィッタは何やら呟き始めた。
「深く考えんじゃねえ。悪がいる。それを倒しにいくパーティにお前は加わるんだ。楽しそうだろ?」
とジェイルがヴィッタの肩をポンと叩いた。
「悪を、倒す。そうか。私は、そのパーティに」
なにがそんなにヴィッタの心を打ったんだ?
「ヴィッタ、お前、まあいいけどよ」
とロウはため息をついた。
なんやかんやで、ヴィッタとロウがパーティに加わった。
ーーーー
「あっれー、見覚えのあるお二人さんじゃん」
タカがロウとヴィッタを指差した。
ロウが舌打ちする。
「やめとけ、タカ」
とラーマが声をかける。あいつ、たぶんいいやつだよな。
相変わらず貴公子っぽいカイはずっと微笑を浮かべている。出会ってからというもの、8割方あの表情である。その3人に、大柄で瓜二つなファイターが二人と、露出度の高いチャイナドレスを着たジョブのよくわからん美人なお姉さん。
「集まったか。よし、ではこの円のなかに入るんじゃ」
とハンバーグが言った。
「え、この円?」
ラーマが訊ねると、ハンバーガーの代わりにエリーが答える。
「すみません、転送の範囲を広げられなくて。少し狭いですが」
と申し訳なさそうなエリー。少しどころではないが。
書かれた円の中に、ぎゅうぎゅうになりながらも全員はいる。
「あらぼく、ごめんなさいねえ」
とチャイナドレスのお姉さんと密着する。今の今更だが、本当にもっとかっこいいアバターにしておけば良かった。
「タイムリミットとポイントはマーセナリーウォッチに出ますので、しっかりと確認を。転送したらすぐにスタートしますので、ではみなさん、お気をつけえええ」
エリーのことばが間延びしたように消えていく。
視界が暗くなった。かと思ったら、すぐに明るくなる。
ここは。ブレーメンの街の外である。街のなかからモンスターの声がする。乗っ取られたという設定だろうか。そばには、ジェイルとリンとヴィッタとロウ。少し離れた場所に、サムライソルジャーズの面々がいた。ん?一人いないぞ。
「行くぜ、お前ら」
すぐさま動き出したサムライソルジャーズを見て、ジェイルが走り出した。
走りながら、マーセナリーウォッチを見る。ポイントは、当然のように0でその下にタイマーがあった。残り1時間59分。思ってたよりも長いな。




