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すとっぷばいざげえむ  作者: ジョブレスマン
23/39

カロヤ祭り

「・・・目を覚まさないな」


「大丈夫でしょうか」


「まあ、そのうち起きるとは思うが」


 床か?なんか固いな。ちょっと眩しい。


「あ、ジョブレスくん起きた。よかった。大丈夫?」


「ああ、ケイさん。一体なにが」


 オドアドの家か。クリが「くうーん」と俺の頬を舐めた。はじめてかわいいと思った。シャイディーがソファーの上で、他の三人は絨毯の上で寝ている。まあ死んではいない。


「朝方、君たちが岩戸の前で倒れているのを発見したの」


「運んでくれたんですか?」


「ケイに礼を言うんだな」


 オドアドはティーカップを机に置いた。

 一口すする。んまああい。


「私の魔法でリンとシャイディー、じいさんを運んだ。ジョブレス、お前とジェイルはケイが担いでここまできた」


 エイロンは名前覚えてもらってないのか。ケイさん、華奢に見えるが、ボアをめっちゃ吹っ飛ばしてたしな。


「ありがとう、二人とも」


 いいのいいの、とケイさんは恐縮した。


「先に礼をいわなくてはならないのは私だったな。森が晴れた。大麻茸の討伐に成功したのだろう」


「ああ、なんとかな」


「ん?ここは」


 リンがむくりと起き上がった。「今コーヒーを入れる」とオドアドはキッチンへと向かった。チクタクと、柱時計は9時30近くを差している。さて。こいつらはいつ起きるだろうか。


「イワツチ?岩戸に住むと言われている精霊だな」


 とオドアドはコーヒーを一口すすった。ちなみにモーニングコーヒーではなく、アフタヌーンティーである。アフタヌーンティーはわらわの家では紅茶であったが、とシャイディーが言うと、オドアドは顔を赤らめキッチンへと戻ったが、そもそも紅茶がなかったようで、「カロヤではこうなのだ」と開き直った。カロヤなら緑茶に和菓子がでてきそうなもんだが。


「イワツチは人前に現れることはないと言われている。私も50年以上ここに住んでいるが、数度みかけたのみだ」


 変なおどりの話をすると、「ああ、私も行きたかった!」とケイさんはくやしがった。

 暗くなる前に村へ戻ることになった。「ベッドが人数分あればな」とオドアドは申し訳なさそうに言った。「よいのだよいのだ、むふふ」シャイディーは、キャンディーの詰まった袋を持って顔をにやつかせた。

 名残惜しくも、別れの挨拶を済ませ、オドアドの家を出る。

 空気がおいしい。

 ん?なんか忘れてないか。まあいいか。


「ちょっとまてえええい!報酬は!?キャンディ以外の!」


 ジェイルがお菓子の家の扉を再び開ける。


「おお、なんだ、ああ、忘れていた」


 オドアドは、棚をごそごそと漁りだし、「これが報酬だ」とピンクの紐をそれぞれに渡した。紐にはそれぞれ、ナンバーが振ってある。


「は?なんだあこれ?」


「なんだこれとはなんだジェイル!これはめちゃくちゃ貴重なものなんだぞ!」


「これがあ?ほんとかあ?」


 ジェイルの態度に、「ジェイルくん、やめて」とケイさんがおろおろする。


「もうやらん!」


「うそだって、オドアド様、まじで嘘。魔法使い様がくれるものだろ、なんか魔法がかかってんだろ?」


「ふん。そのとおりだ」


 オドアドいわく、紐に手をかざし「プレイスサーチ」と唱え、番号を言えば、その番号の紐の場所がわかるという。


「ただし、だ。サーチできるのは一人一回のみ。サーチすると、唱えたものの紐は黒く色が変わる。黒くなれば、サーチはもう使えない」


「黒くなった紐の位置情報は残るのか?」


 リンが問うた。


「紐が黒くなっても、位置情報はのこる。だから黒くなったからといって捨ててはいけない。誰かからサーチされる可能性があるからな」


 なるほどね。探せるのは一回のみ、紐が黒くなっても位置情報は残るから、他の人がサーチする可能性を考えて捨てない方がいいと。


「ふーん」


 ジェイルはさっそく手首に紐をまく。倣ってみんなまく。まあふーんて感じ。いつか使うんだろうか。


「お、お前ら、これがどれだけ貴重なものかわかってないな!」


「わかってるわかってるって、まじで」


 ジェイルの適当な相づちに、「ったく、これだからマーセナリーは」とオドアドはぴしゃりと扉を閉めた。

「まあ、オドさまも祭りにも来られるので、そのとき仲直りしよ」

 ケイさんが苦笑で言った。そうか、村でも祭りがあるんだった。

 オレンジの日が谷に差す。

 村の外灯に火をつけていた少年も、そろそろ準備をはじめているころだろう。温泉行きたいな。

ーーーーー


「よいしょお」


 燦々とした太陽のもと、男衆のかけ声が広場に響く。10メートルはあろうかと思われる松の木を、支え木を使いながら立たせる。


「あれはなんですか、ケイさん」


 松のてっぺんが、傘を逆さにしたようになっている。


「ああ、あれはね、竹で作られた逆さ傘とよばれるものね。中には柴がぎっしりつめてあるの。あそこに火を投げ入れるのよ」


 へー、なんかオリンピックみたいだな。10メートルも上に投げられるのか。

 特にやることがないので村人たちの手伝いをする。ジェイルと俺とエイロンは麻紐の準備や広場に置く提灯の設置を、リンとケイさんとシャイディーは集会所でおにぎりやみそ汁づくりをした。

 夜が近づくにつれ、広場には人が増えてくる。こんなにいたのかこの村。

 準備を一段落終え、ハヤトに訊ねる。最初の印象と違い、とても好青年である。


「結構な人がくるんだな」


「里帰りしてきた人たちがほとんどですね。でも、どこで聞きつけたのか、遠方からわざわざ見に来てくだ

さる方もいるんです。そうだ、みなさんも麻紐投げに参加されては」


 ハヤトが村長をちらりと見た。


「おお、そうですな。是非是非みなさまも参加してくだされ、火のついた麻紐をあの逆さ傘に向かって放るのです。一番に入れた者は一番松と言って、1ゴールドもらえます」


 村長のことばに、「ほう」とジェイルが目を光らせた。


「火を投げるのは夜ね。私たちは危ないから後ろで、ね」


 ケイさんはリンとシャイディーにウインクした。


「わ、わらわは投げてはいかんのか?」シャイディーがもじもじしながら訊ねると


「シャイディーちゃん、実はね、男しか投げられないの」とヒサが申し訳なさそうに答えた。


「な、なんと、それは差別というものではないのか!?」


「神様が嫉妬しちゃうからだって。弐木日姫っていってね」


「ヒサ、つまり此たびの祭りで祀られる神様は女性であるというのか?」


「そういうことね。あ、でも、弐木日姫はすっごい不細工だったらしくてね。自分より不細工な人なら女性でも参加できるとかなんとか」


「ヒサ、時代も変わったで。男女関係なしに、参加してくだされ」


 長老が、優しく微笑みながら言った。


「いや、しかし、姫より不細工と思われてものう。うぬぬ、今回は辞退しておこう。あ、わらわは少し席を外す」


 シャイディーは、広場の奥にある小さな公園へと向かった。少年が一人立っている。村の外灯に灯をともしていた、たしかしょうちゃんだ。やるな、しょうちゃん。

 夕日がゆっくりと落ちていく。

 広場を囲うように提灯が並ぶ。一本の松が、その中央で月明かりに生える。そばには、松明が数本立てられている。

 20人ほどの男たちが広場へと入っていく。

 麻で出来た紐を渡される。先っぽが球状になっており、そこに火をともし、松のてっぺんにある逆さ傘に向かって投げるという。


「うっし、もらうぜ、一番松」


 意気込むジェイルに、俺とエイロンが続いた。


「そーれい!」


 男のかけ声をきっかけに、火の灯された麻紐が夜の空に舞いはじめる。


「いっけえええ」


 ジェイルが麻紐を投げる。真上に放られた麻紐が、俺の方へ落ちてくる。すんでのところでよける。


「おおジョブレス、すまんすまん」


「なんだ、むずかしそうだな」


 麻紐の先端部分に、松明の火をつける。紐をぐるぐると回し、その勢いで上へと放り投げる。


「あ〜れ〜」


 麻紐は、あらぬ方向へと飛んでいく。


「まだまだあるぞ」


 ジェイルは足下に置いてある麻紐をひろい、再び火をつけた。

 エイロンは、ぼおっと広場の光景を眺めている。男たちを見ているだけでも面白くはある。


「全然はいらんなあ」


 5分ほどたったところで、法被姿の村男が言った。

 提灯の外側にいる観衆も、いまかいまかと待ちわびている。誰か、早く!かくいう俺は、3回投げてこりゃ無理だなとあきらめモード。


「しょうちゃんじゃないか」


 法被姿のしょうちゃんがにこにこと笑っている。


「しょうちゃんは、何歳?」


「10歳」


「学校はこのへんなの?」


「ううん、歩いて5里のところにあるんだ」


 5里ってどんくらいだ。結構距離ありそうだな。近くの町までいってるのかな。

 麻紐がむなしく夜空に舞う。なかなか松の逆さ傘には入らない。


「将来はなにになりたいの?」


 少し考え込むしょうちゃん。

 ジェイルが「うおりゃあああ」と麻紐を投げ込む。


「うーん、まだ決まってないんだ」


「村を出たい、とかは考えないの?」


 踏み込みすぎたかな。


「ううん、ぼくはこの村にいたい」


「一番松だ!」と村男の声が広場に響く。観衆から声が上がる。


 松のてっぺんの逆さ傘が、轟々と燃えだす。


「ぼくは、この村が好きなんだ」


 しょうちゃんは、燃える松を見ながら言った。松の火が、しょうちゃんの横顔を淡く照らす。なんかすてきだわしょうちゃん。


「おーい、そこ危ないぞ!こっちだこっち」


 俺としょうちゃんは、村男に言われるがままに移動する。

 逆さ傘には柴がしきつめられていると言っていたが、他に燃料でもはいっているのだろうか。灯された火は、これでもかと燃え盛っている。


「倒れるぞおお!」


 男が声を上げた。

 さっきしょうちゃんと俺がいたところに、松がゆっくりと倒れていく。そのまま広場に落ちると、燃えた柴がぶわりと舞い、大きな火の花が広場に咲いた。

 ああ、これは、花火だ。

 誰かが恐る恐る拍手を始めると、それが一様に広がっていく。観客へ、村人へ、マーセナリーへ、いつのまにいたのか、リンの隣に立っている谷に住まう魔法使いへ。

 それぞれの役割や立場は違えど、拍手が起こるまでのわずかな余韻は、ここにいるみんながなにかを共有した証なのだろう。村長も、ハヤトも、しょうちゃんも、みんなが、笑っている。


「へへへ、1ゴールドだ」


 ジェイルが、さわやかで甘いマスクをにやつかせた。こいつだけは違うところに感情が逝っていたか。というか、お前が一番松だったのか。


「さあ、飲むぞおおお!」


 誰かが声を上げると、男たちはぞろぞろと集会場へと向かっていく。

 夜はまだ長いようだ。


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