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すとっぷばいざげえむ  作者: ジョブレスマン
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魔法使いノ依頼


「あれだろうな、確実に」


 ジェイルは立ち止まった。

 薄い太陽光が、お菓子でできたような一軒家を照らしている。異様な谷の中で、異様な存在感がある。


「なんと、かわいらしい家であることか」


 言葉遣いとは反対に、子どものようなはじけた声でシャイディが言った。まあ子どもなんだけど。


「洋風なんだな」


 リンが呟いた。村が和風だっただけに、そこも異様だな。

 小麻草が足に絡まる。もはや小さいとは思えない草だが、谷深くなるにつれ、それこそ異様に伸びていっているような感じがする。


「変なきのこだな」


 とエイロンが、足下にある濃い緑色のきのこに手を伸ばした。


「おい、ちょっと」


 俺が止めようとすると、「匂いをかぐな!」と女の声がおかしの家のほうから響いた。びくりとエイロンが手を引っ込める。

 ウェーブのかかった黒髪が風に翻る。切れ長で涼しげな目がこちらの様子を伺っている。


「マーセナリーか。珍しいな。ともかくこちらへくるといい」


 低くも良く通る声で女は言うと、黒いネイルをきらりと光らせ、俺たちを手招きした。そのクールビューティーな印象からかけはなれた、かわいらしいお菓子の家へ。



「ゆっくりしてくれ」


 マントを脱ぎながら、女は言った。

 赤いソファーに女性陣が腰掛ける。


「すまんな、こんなにも客が来ることがなくてな」と女は絨毯の上にハートのクッションを3つ置いた。天井からはハートの装飾品がぶら下がっている。天井には、透明な星がいくつも貼付けてある。夜光るやつだ。


「さて」


 いつのまにいれたのか、女は紅茶の入ったピンクのティーカップを人数分机の上に置く。


「これもどうだ」


 続いて、ハート型のクッキーの入った皿を置き、再びキッチンのほうへと戻っていった。かと思うと、


「こんなのもあるぞ!」


 三段に重ねられた小さなスタンドをもってくる。一番下にスコーン、二段目にサンドウィッチ、三段目にクッキーが乗っている。


「まあおしゃれですこと、ってちょいちょいちょい!こんなことしてる場合じゃ」


 ジェイルが大げさに言うと、「な、なにか不都合があったか?」女の真っ黒な瞳が、心配そうにジェイルを見た。


「う、いや、本当にありがたいご歓待なんだけども」


 さすがのジェイルも、その瞳に見つめられてたじろいだ。


「ん?一段目にスコーンがあるな。我が家では、一段目にサンドウィッチだぞ。スコーンは二段目だ」


 シャイディのことばに、女は顔を赤らめる。

 女を除く全員が、シャイディをじろりと見る。


「ん?これがこの家のしきたりか?普通と違うものなのだな。まあ食べられればどちらでもよいか、ははは」


 悪気なく高らかに笑うプリンセス。プリンセスの家が間違っているわけがない。

 女は、三段スタンドを持ってそそくさとキッチンへ去っていった。寸分も経たないうちに戻ってくると、いわゆる正式な順番に並べ替えた三段スタンドを再びテーブルに置いた。


「そそうをした、すまなかった。久しぶりの客人でな」


「いや、わらわもなにか間違えたらしい。それにしてもおいしいスコーンだ。主の手作りか?」


 シャイディのことばに、「ああ、そうだ!おいしいだろう!」と女は喜々としてスコーンの作り方の説明を始める。


「ってちょいちょいちょい!」


 がんばれジェイル!流れを変えろ!


「なんだ、どうした?」


 女はジェイルを見た。


「こんな悠長なことしてる場合じゃないの!」


 なぜかおかま口調になりながら、ジェイルが言った。


「ええっとですね、色々とありまして」


 と俺はこれまでの事情を説明した。


「ふむ。諸事情理解。確かに、Little Red Riding Hoodの珍妙なキャンディは家にあり」


 ここまでの経緯を知り、女が言った。

 シャイディが、「それはいずこにある!?」と目を輝かせる。


「こちらだ」女はキッチンの奥にある扉を開ける。物置になっており、キャンディの入った透明なケースが何段にも重ねられている。


「おおお!」シャイディが小走りで向かう。すると、女は「待ってくれ」と物置の前でとおせんぼする。


「くれぬというのか?」


 シャイディが涙目で女を見る。


「う、いや、そういうわけではない。もちろん全くあげないわけではないが。そこのマーセナリーたちよ、

キャンディをあげるかわりに、仕事を依頼したい」


 はて、魔法使いの依頼とは。


「オドアド様よ、話を聞こうじゃないか」


 ジェイルは、にやりと笑った。


「様はいらん、オドアドでいい」


 とオドアドは話しはじめた。

 カロヤ地方に植生している小麻草は医薬品や衣服などに使われており、特産品とし栽培されているのだが、使い方を間違えれば人に害をもたらすものになる。特に、谷の奥深くに自生している”麻草”は、その匂いをかぐだけでモンスターを凶暴にすることもある。その特性を知っているオドアドは、谷の途中に家を作り、村の者がそれよりも奥へ行くことを禁止した。


「してだな、ここ数年で凶暴なモンスターを見かけることが増えた。そこで、私が慎重に谷の奥へと調査を行っ。結果、大きな茸が見つかった」


「茸?」


 エイロンが反応する。


「そうだ、君がさっき匂いをかごうとしていた”麻茸”を、この家よりも大きくしたものだ。大麻茸、とでも命名しよう」


 家よりも大きい茸とは。なんとでかいことか。ちょっと見てみたい。


「あんな大きな茸、20年ほどまえに谷の奥地へといったときにはなかった。ここ最近で大きくなり、周囲へと害のある胞子をまき散らしているのだろう、と考えられる」


 オドアドの年齢も気になるとこだが、しかし、大麻茸は近々の問題のようだ。


「その大麻茸によって狂ったモンスターに特徴はあるのか?例えば、茶色い蒸気のようなものを体から発するとか」


 リンが訊ねると、オドアドが「その通りだ。どこかで見たのか!?」と身を乗り出した。

 リンがフライングワームとの戦闘、その体から発せられていた蒸気について説明すると


「間違いない、大麻茸によって狂ったモンスターだ。空からか。そこまでも大麻茸の匂いが届いているのか」とオドアドは拳を強く握った。

 オドアドいわく、地上にはモンスター用の結界をしき、モンスターの行き来ができないようになっているのだが、空まではカバーしきれていないとのこと。匂いに誘われたフライングワームが谷に迷いこみ、大麻茸によって狂い、ふらふらと俺たちのところへと降りていったのではないか、と推測した。


「こうしてはおれぬ。ただちに私とともに出発して、大麻茸の消滅を手伝ってくれ。大麻茸の周囲には狂ったモンスターがうろうろしている。キャンディ以外の報酬も弾もう」


「報酬なんてなくても、さすがに今回は参加させてもらうぜ。まあもらえるもんはもらうけどな」 


 とジェイルは立ち上がった。

 村の危機でもある。行かないわけには行かないだろう。


「先にこれを渡しておく」


 オドアドは、小さな巾着をそれぞれに渡した。


「こ、これは!きゃあんでぃ!不思議キャンディ!」


 中身を見て、シャイディーが声を上げた。


「馬鹿、もったいない、今舐めるな!」


 キャンディを口にいれようとしたシャイディーに、オドアドが言った。


「な、なんでじゃ、あんなに一杯あるのに」


 とシャイディーが物置の方を指差した。


「ライトニングキャンディを舐めていれば、大麻茸の匂いをかいでいても正気を保てるんだ。ライトニングキャンディは個数が限られていてな」


「あの物置にある大量のキャンディが全部ライトニングキャンディってわけでもないだろ?そんなになんで買ったんだ?」


 俺は、素朴な疑問を投げかけた。


「ああ、フローズンキャンディにファイアキャンディ、エクスプロージョンキャンディと、いやはや、一度舐めると癖になってね、大量購入してしまったのだよ。つまりは私がただ舐めたいから」


 エクスプロージョンはやばくない?


「ならライトニングキャンディ以外は舐めてもいいのか!?」


 シャイディが喜々として訊ねた。


「ああ、いいぞ。これがファイアーで、こっちがエクスプロージョン、こんなのもあるぞ、ポイズンキャンディ!」


 ただの毒じゃねえか。

 シャイディが、オドアドからもらったキャンディを一つ口に入れる。


「ああ〜ふぁいああああああ口の中があああすごい、すごいぞおおこれが夢にまでみた不思議いいキャンディいいああああふぁいああああ」


 大麻茸よりも、このキャンディの方がやばいんじゃないか。


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