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すとっぷばいざげえむ  作者: ジョブレスマン
17/39

カロヤ岩戸

 夜の帳がおりる。少年が、等間隔に置かれた外灯に火をつけていく。


「いつもありがとうね、しょうちゃん」


 ヒサに声をかけられ、しょうちゃんと呼ばれた少年は、照れくさそうに笑った。

 宿場へシャイディーとエイロンを呼びにいくと、ビールを飲んでいた御者のおっさんも「温泉、いいじゃねえか!いくいく!」と付いて来た。ちなみにこのおっさん、徳川って名前らしい。あだ名は将軍だとか。御者なのに。酔っているのか、よくしゃべる。


「気をつけてくださいね。もうずっと修繕してなくて」


 前を行くヒサが、石階段を昇りながら言った。ところどころ崩れている。

 階段を登りきる。大きく「ゆ」と書かれたのれんが二つ、提灯の淡い光に揺れている。


「こちらが男湯で、こちらが女湯です。村のものは早い時間に入りますので、すいているとは思うのですが」


 のれんの前で、ヒサが言った。ありがとうとお礼を言い、女性陣とはそこで別れた。

 と思ったら、すぐにまた会った。カウンター越しだが。男湯と女湯の狭間に小さなカウンターがあり、男女ともにそこでお会計をすます。細身の、少し影のあるキレイなおばさんが「10コインです」と落ち着いた声で言った。ひげ面の将軍様は払うそぶりを見せないので、とりあえず男分の40コイン支払う。将軍を見ると「いいじゃねえか、ええ?若人よ!」とがはがは笑った。将軍さまよ。まあ、ブレーメンから結構無理言って送ってもらったし。大きな棚がロッカーのように仕切られており、そこに衣服を置く。装備品用にカゴも置いてある。鍵などはないが、まあ誰も盗みはしないだろう。


「こりゃ貸し切りじゃねえか!」


 ジェイルが声を上げ、真っ先に浴場に入った。


「うるさいぞ!」


 リンが壁の向こうで言った。

 天井が吹き抜けになっており、女湯との壁は途中までの高さしかない。ジェイルが俺の方を見て、にやりと笑った。


「中学生かよ」


「ったく、年取ったもんだな、ジョブレスよ」とジェイルは風呂に浸かり、「はあ〜」と息をもらした。


「おっさんじゃねえかお前も」


 湯につかる。

 自然と声が漏れる。もうおっさんなんだな。


 湯上がりの夜風はどうしてこうも気持ちよいのか。温泉のある丘から、小さな町を見渡す。しょうちゃんの点けた外灯が、ぽつぽつと光っている。


「谷はあちらですね。ずっと奥へ行くと、オド様の家が見えてきます。それより先は行ってはいけないことになっているんです。あ、オド様の家へ行くまでに、小さな鳥居が見えてくると思います。そこに岩戸があるんです。カロヤ岩戸と言って、神様がそこに住んでおられる、と言い伝えられています。是非行ってみてください」


 ここまで来た経緯を説明すると、ヒサが魔法使いの場所を教えてくれた。ヒサは、オド様は月に一度どこかへでかける、という噂を聞いたことがあるという。やはりキャンディを買っていったのはそのオド様だろう。

 ヒサにお礼を言って、俺たちは宿場へと向かった。宿場はいわゆるゲストハウスのような感じで、部屋は基本相部屋、そして、無駄に広々とした交流ルームがあった。受付に婆さんがおり、「男女別ね」と愛想なく部屋番をつげられた。交流ルームにはご丁寧にビール、おつまみ等、飲み会セットが置いてあり、ジェイルと将軍が飛びつく。「わいものむでえ」と慣れない関西弁でエイロンも続く。「私たちも、のもっか」とケイさんに誘われ、「え?そ、そうですね」とリンも席に加わる。


「ジュースもあるぞ」


 そわそわしているシャイディーに、俺は声をかけた。


「ぬぬぬ、お酒を飲まなくても、よいのか?」


「ここの法律わからないけど、まあお酒じゃなくても参加していいだろ、たぶん」


 シャイディーは笑顔になり、「うむ、飲むぞ!」と小走りでいく。最近知ったのだが、マーセナリーウォッチにはアラーム機能がある。時間をセットし、俺はグラスを手に取った。


 小川の音が耳に優しい。川沿いには、小麻草が無秩序に生えている。

 小麻草。医薬品や衣服など、用途広く使われている植物で、ここカロヤ地方が名産である。もともと自生していたものを栽培するようになったらしい。谷の入り口を境に小麻草の畑はなくなり、奥に向かうに連れて、自生しているそれが増えていく。


「あれがヒサさんの言っていたカロヤ岩戸です。オドアド様には、これより先には近づくな、と言われているようです」


 先日も来たというケイさんが指を指して言った。

 苔の生した石の鳥居があった。小さな賽銭箱と白いとっくり、そのすぐ後ろに縦長の大きな岩がある。白いとっくりは比較的新しく感じる。


「ふーん」


 エイロンは、岩を見て無感情に言った。彼の琴線には触れなかったようだ。真似をするように、「ふーん」とシャイディが言った。鳥居をぺたぺたとさわっているが、あまりそういうことはするべきでないと教えてあげるべきか。


「いくぞ、お前ら」


 ジェイルの食指も全く動かなかったようだ。リンは谷の向こうを凝視しているが、幽霊でもいるのか。

 なんだ、情緒というのがないんだ、こいつらには。といっても、この岩大きいな、という感想しか俺にもわかないが。外国人なら苔のむした鳥居や賽銭箱とかに異国情緒を感じるんだろうか。ん?岩戸の左下に、膝丈ほどの隙間がある。隙間があっておかしいというわけではないが。


「おーい、ジョブレス、はよはよ」


 急かすジェイルに「はいよ」と返事をし、岩戸に背を向ける。


ーーーッテンテンテン


 テンテン?微かに音が聞こえる。


ーーーロヤーードでスッテンテンテン


 スッテン?なんだ、歌か?岩戸のほうから


「なにしてる。珍しいな、お前が。どうした?」


 とリンが、駆け寄ってくる。

 音をかき消すほどの風が谷からふく。

 谷の奥を見る。険しく聳える崖が光を遮断している。


「わん、わんわん!」


 急かすように、クリがないた。


「ああ、いや、いくか」


 空耳だろう。小麻草をふみながら、奥へと進んでいく

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