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すとっぷばいざげえむ  作者: ジョブレスマン
16/39

カロヤの村にて tkとの出会い

「カロヤ!?」


 のろのろと揺れる馬車に、ひげ面の声が響いた。


「いや、そこそこ遠いぜカロヤは。てかマーセナリーなら他の移動手段もっとけよ!」


 御者いわく、サモナー、もといテイマーがどこのクランでも重宝されており、専用の大型獣を移動に利用しているらしい。


「お前テイマーだろ!なに契約してんだよ」


 エイロンの方を振り返り、ひげ面が言った。

 エイロンは、馬車の前方を指差す。

 中型犬ほどのオオカミが、道沿いでうんこの態勢を取っている。


「ひ、ひやっはっはあ、イヌッコロじゃねえか」と盛大に笑うひげ面に、「おい、馬車止めろ!」とリンが言った。うんこ?ってことは。

 馬車が止まると、俺とリンは急いで降りた。

 うんこ態勢のクリのもとへ向かう。


「うんこってなあ、そうか、たしかにおかしいなあ」といつのまにか背後にいたひげ面が言った。馬車は大丈夫なのか。

 クリは気張るが、なかなかものが出てこない。


「がんばれ、がんばれ!」エイロンがクリを応援する。ジェイルも「がんばれ、がんばれ!」と続く。こいつらわかってんのかな。

 二人の応援が通じたのか、ことりと丸い玉がクリのお尻から出て来た。紫色の玉である。玉というよりカプセルのような。うんこみたいなのはついていない。

「ほう、奇怪な」とシャイディーが呟いた。便行為自体にか、カプセルに対してか。

「なんだこれ」エイロンは、ためらうことなくカプセルを拾い「なんか入ってるぞ」と振った。「ん?まだでんのか?」

 ジェイルはクリを見て言った。クリはさらに気張ったが、結局それ以上なにもでなかった。まだお腹になにか残っているのかもしれない。


「おい、慎重に」


 リンの忠告を聞かず、エイロンは躊躇なくカプセルを開けた。

 中から小さな黒い玉が現れた。

「丸薬か?」とリンが玉を見ていった。

 強化系のアイテムか、モンスターに食わせるアイテムか、はたまたものほんのうんこか。答えは出ず、とりあえずデイバックに入れ、馬車へと戻った。

 のろのろと、馬車が草原を進んでいく。いろいろわからないことが多く前途も多難だが、だだっ広い草原と柔らかい日差しに思考を停止させる。またリンが起こしてくれるだろう。


「おらあ、ついたぞお前ら!」


 ひげ面の声に目を覚ます。オレンジの光が幌の隙間から差している。


「ん?ああ、私まで寝てたのか」


 隣に座っているリンが言った。


「ったく、不用心なパーティだぜ」


 ひげ面の悪態もなんのその、あくびをしながら、ジェイルがのろりと馬車から降りる。

 隣同士座るエイロンとシャイディー、お互いがお互いの頭を支え合うように眠っており、絶妙にバランスが取れている。


「このままおいとくか?」


 俺のことばに「バカ言ってんじゃねえ、早く起こせ」とひげ面が怒った。寝ぼけ眼のエイロンとシャイディーを支えながら、幌馬車を降りる。

 生い茂った草葉が、山間からの夕日に照らされている。ただ無秩序に茂っているわけではなく、区画が整理されており、なんらかの生産物のように見える。

 なだらかな傾斜のさきに、村の入り口が見える。


「和風だな」


 古びた櫓門を前にして、リンが呟いた。


「小屋に馬を止めてくるぜ。今日は俺もマーセナリー専用の宿場で泊めてもらうが、文句いうなよ」


 ひげ面はそう言うと、馬を連れて櫓門をくぐっていった。


「あいつも大変だな」 


 ジェイルが能天気に言った。俺らのせいなんだけどね。


「ゆくぞ」


 ずんずくとシャイディーが先頭を切る。櫓門を抜けると、古びた石畳が道を作っている。右手には馬車小屋があり、ひげ面が手綱を片手に、なにやら書類を見ている。


「この先にもっと大きな門がある。その少し手前に宿があるから、先に行っといてくれ」


 ひげ面は、書類から目を離さずに言った。なんやかんや親切なやつだ。

 板葺きの平屋が並んでいる。ところどころ空き家になっており、村全体に退廃的な雰囲気が広がっている。ひげ面の言う通り、さっきよりも大きな櫓門が現れた。その手前に、ひと際立派な瓦屋根の建物がある。板戸の隣に、『マーセナリー宿場』と書かれた板がかかっている。

 櫓門の向こうから男の声がした。語気が強い。


「もめ事か?どうする」


 とリンは俺の方を見た。俺の答えを待たずに、ジェイルが「なんだなんだ」と櫓門を通っていく。エイロンとシャイディーは疲れているのか、さっさと宿場に入っていった。ついでにクリも入っていく。宿は動物も可なのか。とにもかくにも、なんというまとまりのなさ。

 俺は呆れ顔のリンに苦笑いで答え、ジェイルの後を追う。

 門を抜けると広場になっており、真ん中には太い丸太が置いてある。右手には集会所らしき平屋があり、ジェイルが壁に耳をそばだてている。


「だから、なんであの魔女の言うことを、、、」


 集会所から、苛立った声が漏れでる。

 魔女?リンと目を合わせる。


「なんでだよ、あの魔女さえいなければ、あの奥にさえいけば、村も」


「まあおちつけ、あの方はのう」


 年配の男性らしき声が、青年らしき声をなだめている。

 ガラガラと板戸が開く。

 驚いたジェイルが尻餅をつく。

 出て来たのは、黄色いバンダナに赤いロングヘアーの女だった。眉間に楕円の紋章のようなものが描かれている。なんだろう、ちょっとセンスが古い感がある。村人ではないのは間違いない。「あ、どうも」

 とりあえず低姿勢で挨拶する。

 女は小声で「君たちもマーセナリー?今もめててね、ちょっとちょっと」と俺たちを集会所から離れたところへと呼び寄せる。


「はあ、もう大変。ゲームでも田舎は田舎ね。今度祭りがあるんだけど、その準備で村人の男衆が集まってたのよ。まあ田舎あるあるっての?夕方前から飲み会が始まったのよ、したらさ、村の若者が日頃の鬱憤?みたいなの吐き出しはじめてね。現実だと田舎は老人の方が強いか?まあ、この村の衰退具合から、年寄りたちにも引け目があるんだろうね。で、その原因ってのがね、、、」


 せき止めていた杭が外れたように、話が止まらない。はあ、と俺とリンが相づちのような、ため息のようなものを挟む。


「、、、てなわけよ。あ、自己紹介してなかったわね。私はTK。ケイって呼んでね。で、あなたたちは?」


 ケイさんの話。ここ、カロヤ地方に古くから伝わる祭りがあり、彼女はその準備を手伝うために村を訪れたという。今日もその準備が行われ、夜には集会所で飲み会が始まった。その席でもめ事がおきた。若者は、寂れていく村を憂い、特産である小麻草の栽培地を広げようと訴えた。しかし、村の年寄りは、それはできないという。小麻草は、谷に向かって多く植生しており、栽培も行われているのだが、ある場所を境に栽培がなされていない。その境を決めているのが


「オドアド様ね。魔法使いで、谷に住んでいるんだけどね、村の老人たちはオド様ってよんで、崇拝しているの。若者はそのオド様の住む先に、もっと質のいい小麻草があるんじゃないか、その場所を広げようって。でも、老人はオド様がやめとけっつってるからの一点張り。もうやーよわたし」


 とケイさんはわざとらしく肩をすくめた。そのとき、集会所から青年が飛び出て来た。


「こら、ハヤト!」


 続いて出て来た村娘が青年を呼び止めた。ハヤトと呼ばれた青年は、構わず門を出て行った。


「ヒサ、ええんや。すねてるだけやで」


 はげ頭に老眼鏡をかけた老人が言った。

 ヒサと呼ばれた娘は、「村長」と老人の方を見た。


「村が廃れてるんはたしかや。わしらも悪い。でもな、オド様はいつもわしらのことを考えて行動してくださってるんや。ハヤトも、そのことだけはわかってくれたらええんやが」


 村長は言い終わると、俺たちのほうに気づき「ああ、ケイさん以外にもマーセナリーの方が来られていたのですね。お見苦しいところをお見せしてしまい」と頭を下げた。ヒサも倣って頭を下げる。俺たちも、頭を下げて応じる。


「温泉へは行かれましたかな?」にこやかに村長が訊ねると「温泉?いいですねえ!」とジェイルが答えた。


「私が案内いたします」


 ヒサが申し出た。


「ゆっくりしていってくだされ。もうすぐ祭りもあります。ヒサ、頼んだよ」


 村長は再び頭を下げ、集会所へと戻っていった。丸まった背中に疲れが見える。


「行きましょう、みなさん」


 にっこりとヒサが笑った。後ろ髪にさした簪が夕日に光った。


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