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すとっぷばいざげえむ  作者: ジョブレスマン
13/39

カイとラーマ

 商店区を過ぎ、橋の手前を左に曲がり、上流へと進んでいく。川沿いに並ぶ居住区を抜けると、その先にひと際大きな建物があった。扉のそばには古びた木の看板がかかっており、『シティホール』と書かれている。田舎の公民館みたいだな。

 ジェイルが、ずこずこと扉をあけて入っていく。


ーーー「ときにあんたら、部屋はさがしとらんかね」


 ばあさんが唐突に言ったことばである。話を聞くと、店の二階が開いているということで、一ヶ月6ゴールドで借りないか、という提案であった。キッチン用品も自由に使っていいとのこと。二階を下見すると、階段上がってすぐ、共同スペースがあった。結構広い。その奥に、個室が3つ。


「俺ら4人だが」とジェイルが言うと、「大丈夫じゃ!メイジーとわしが同じ部屋で寝れば、下は一室空く!それで個室4つになる!」


「みなさん、是非一緒に住みましょう!」


 メイジーまでも、目を輝かせている。ばあさんのように打算は混じっていないが。

 商売上手?なばあさんいわく、この条件で6ゴールドは格安らしい。たしか今のクランルームの賃貸が10ゴールドなので、結構安くなる。個人で住むかは置いておいて、クランルームにするにはいいかなと考えた。バッファロー三郎の情報を思い出す。クランルームの住所変更は、市役所、もといシティホールで、だ。


「あ、マーセナリー様はこちらです」


 入って早々、白いローブを着た職員に奥へと導かれる。『オンリーマーセナリー』と書かれたドアが開く。

 用件を伝えると、窓口の一つに案内される。


「クランルームの住所変更ですね」


「ええ」


 俺が代表して答える。


「クラン名と、変更先の住所をこちらに記載してください」


 指示通りに、渡された紙に書く。職員は、タッチパッドを出してなにやら調べ始めた。


「ジョブレスマン様、ジェイル様、エイロン様の三名のクランですね」


「あ、お前まだソロだっけか?」とジェイルが意地悪く笑うと、リンがジェイルの尻を蹴る。


「いてえ!」「いたみねないだろ!」「なんとなくだよ、なんとなく!」


 五月蝿い。てかエイロンはどこいった。


「あのー、クランの加入、変更でしたら、あちらの住民登録の窓口で行えますけど」


 職員に言われ、リンは無言で住民登録の窓口へと向かった。

 役所での手続きは、どこの世界でも時間がかかるようで。

 諸々を終え、市役所を出る。シティホールか。どっちでもいいや。


「どうするよ」


 ジェイルが誰にでもなく訊ねた。


「一回個人の部屋もどる?」


 俺の提案に、「ああ、なんかもってくるか」とジェイルが賛同すると「なんかあったか、あの部屋?」とリンが問うた。

 たしかに。アイテムボックスは全く使えなさそうだったし、服も今来ている装備品しかなかった。他に使えそうなものもなかったな。


「うむ。戻っても時間の無駄になるか。商店区で夜飯とか、とりあえず必要なものを買っていくか。あ、そういえば」


 俺は、腰につけた巾着からしわくちゃになった紙を取り出した。


「なんだっけ、あのクラン」


「アニマルプラネットだ、ジョブレス」


 リンが答えた。

 ウォッチを見る。日が沈むにはまだ時間がありそうだ。


「訪ねてみるか」


 イースタンストリート 5-5-7。ここから近いのだろうか。三郎、いるかな。



「こっちか?いや、違うか」


 ジェイルが商店区で買った地図を見ながら先導する、もとい、さまよう。


「ん?たぶん違うくね?これが橋だろ、あれ?なんか違うな」


 俺も一緒に地図を見るが、わからない。俺らめっちゃ方向音痴なんだよね。


「ああ、もう、地図をかせ!」


 とリンは、ジェイルから地図を奪い取った。


「橋は3つあるんだよ!てかアニマルプラネットの住所はテール橋付近じゃねえか、なんでタウンゲート橋まできてんだよ!商店区にもどりゃあいいだけなのにいいい」


「いや、地図には商店区って表記ないからさ、ははは」


 とジェイルが笑った。とりあえず俺も笑った。

 市役所はテール橋を北へ向かうとあるのだが、俺たちは間違ってさらに北に向かってしまい、タウンゲート橋というところまで来ていた。いやあ、面目ない。リンを先頭に、来た道を戻っていく。


「って、お前も迷ってんじゃねえか!」


 ジェイルが言うと、「はい?」とリンがとぼけた。商店区まできたはいいが、路地をいくつか歩いてはメインストリートに戻ってくる、というのを数度続け、遂にテール橋まで戻ってくると、とうとうリンは白旗を上げた。おいおい、このクランやべえぞ。

 はあ、とため息をついたのは、エイロンである。


「ちみたちねえ、ちょっと地図を見せなさい」


 ふむふむと、エイロンが意味深に頷く。モノクルがやたらと頼もしい。

 エイロンは、ふ、と笑うと、ゆっくりとグリモワールを開き、「ヤタアアア!」と叫んだ。

 どこからともなく現れたヤタが、カーっと鳴いた。

 カラス頼みとは。

 エイロンはヤタに地図を見せながらなにやら説明している。

 ヤタは、カーっと鳴くと、飛び上がった。

 再び戻ってくると、エイロンの肩に止まり、羽で方向を指し示す。カラスの指示のままに、進んでいく。

 商店区を抜けたところで、右に曲がる。道が広くなり、居住区に出る。


「ああ、なんだ、商店区の外にこんなところあるのか」とリンが言うと、俺とジェイルはじろじろとリンを見た。「な、なんだよ!」とリンはマスク越しにもわかるほど頬を赤らめる。

 ヤタは、ここだといわんばかりにカーっと鳴いた。エイロンがヤタに、ありがとう、と伝えると、ヤタは飛び去った。普段なにしてるんだあのカラスは。


「よくやったぞ、エイロン」


 ジェイルはエイロンの肩をぽんと叩いた。「当然よ」とエイロンは、ふふんと鼻をならした。

 3階建ての建物である。まあまあの所帯なのだろうか。扉にプレートが貼ってあり、5−5−7と表記してある。

 ジェイルがノックをする。

 反応がない。

 もう一度、ノックをする。

 やはり誰もでてこない。


「おいおい、留守かよ」


 ジェイルは頭を掻いた。

 徒労とはこのことである。

 日が暮れはじめている。


「気分変えてよ、とりあえず打ち上げいこうぜ、クエストクリアの!」


 ジェイルはもうビールのことを考えている。

 まあ夕飯つくるのも面倒だしな。


「ワン、ワンワン!」


 夕日の影に、イヌがいる。ずきんをかぶった。


「クリ!なんだ、一人で散歩か!?」


 エイロンが、クリに駆け寄っていく。お前にとってクリは人なのか。

 クリの影に、さらに大きな影が覆い被さる。

 その大きな影が、エイロンと肩がぶつかる。


「っとっと」と情けなくも尻餅をつくエイロンとは反対に、「あっと、すみません、大丈夫ですか」と影の主は爽やかにエイロンに手を伸ばした。キレイな白髪に、筋の通った鼻、切れ長の目、さらに白いマントがいかにも王子様といった感じを際立たせている。


「お、おお、ありがとうございます」


 モノクルをくいっとかけなおし、エイロンが立ち上がった。


「赤ずきんを被ったオオカミとは、珍しいですね」


 と男は優しく微笑んだ。歯が俳優のように白い。見覚えのある、大きなイヤリングが光る。


「おい、いくぞ」


 王子様風な白髪の男の背後にいた、黒いフードを被った男がクールに言った。腰にロッドを差している。メイジか。鋭い目つき。目の下には、黒い線がペイントのように書かれている。

「寝不足か?」とエイロンが呟くと、「野球選手じゃね?」とジェイルが返した。


「ちげえよ!いや、野球選手も黒いのしてるけど!」


 黒いフードの男は、フードを振り払うくらい頭を振って怒った。はげ頭が露になり、夕日に映える。こいつも同じようなイヤリングをしているな。


「うわ、眩しいぞ!」


「光線だ!」


 ジェイルとエイロンが、はげ頭に向けて手をかざす。


「はげじゃねえ、坊主だ!なんだこいつら!ってカイ、お前もわらってんじゃねえ!」


「ははは、ああ、愉快だ。ははは、ラーマ、君がそんなにもからかわれるなんてね、ははは」


 カイと呼ばれた白髪の貴公子が、お腹を抱えて笑っている。


「いや、失礼、ははは、かわいいオオカミちゃん、さようなら」


 マントを翻し、夕日に向かって二人は歩いていく。ラーマと呼ばれた坊主は、フードを被り直した。坊主に設定したのお前だろうよ。


「あいつら、誰だ?」


 と俺はリンを見た。リンは、険しい顔をして言う。


「あいつらはな、サムライソルジャーズの幹部だ」


 え、まじで?


「サムライソルジャーズってクランのやつらも、思ったよりいいやつなんじゃね?たぶん」


 ジェイルが、ビールに向かって歩き出しながら言った。リンはそれ以上なにも言わなかったが、彼らがクリのそばに偶然現れたというのは、出来すぎている気がする。

 クリを送るためにキャンディ屋に寄ると、ばあさんとマージーが大きな鍋を出して何かを煮込んでいた。なんでも、今度やってくる常連客のためにキャンディの仕込みをしているらしい。常連がいるんだなこんな店に。まあ魔法キャンディって知る人ぞ知るオカルト店なのかも。

 クリを送り届けると、俺たちは酒場へと向かった。テール橋に足をかけたところで、ジェイルが歩みを止め


「おーい、お前、なにしてんだ」


 と河原のほうへ声をかけた。

 欄干からそちらを覗く。見覚えのある銀のフルアーマーの女が、川沿いにいた。ヘルムを脇に抱えている。こちらを振り返ると、長い銀髪が、さらりと風に揺れた。


「なんだ、お前たちか」


 相変わらず感情のない声で、ヴィッタは言った。


「なにしてんだよ」


 ジェイルがずこずこと訊ねる。ヴィッタは、「ちょっとな」と答え、再び川の方を見た。


「飲みにいかねえか?」


「いや、今日はやめておくよ」


「そうか。また今度な」


 とジェイルは、歩き出した。

 日が沈む。外灯ノ光が、眩しく感じる。


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