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すとっぷばいざげえむ  作者: ジョブレスマン
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赤ずきんのオオカミ

 メイジーいわく、狩人の村周辺で赤ずきんを被ったオオカミの目撃情報があるとのこと。やはり、婆さんの言っていたように、森に帰っているのか。

 狩人の村から東へ向かう。木々が増えていく。木漏れ日が優しい。


「おいおい、これ見つかる気がしねえぞ」


 ジェイルは立ち止まると、辺りを見渡しながら言った。

 そのとき、森の陰でがさりと音がした。


「ボアだ」


 リンが、指差す。


「ちょっと試しとくか」


 ジェイルが剣を構え、ボアの方へ向かっていく。


「お、おい、どうするんだ」


 リンがジェイルに問うと、「え、いや、切り掛かるけど」とジェイルが答えた。

 そのとき、ボアがリンに向かって突進してきた。

 リンは、華麗によけると、ロープを放りボアに巻き付けた。そのままボアの背後に移動し、抜いた小刀を背中に突きつける。が、突き刺す直前で手が止まる。

 再び動き出した猪にひっぱられ、リンは地面に打ち付けられる。リンの小さな悲鳴が響く。


「大丈夫か!」


 リンに駆け寄り、上体を起こす。


「なにしてんだよ、させよ馬鹿」


 ジェイルがリンに言った。

 そもそも、ロープにはもともと鍵縄がついていたのだが、律儀にも鍵縄を取り外している。


「す、すまん」


 言い返すこともなく、リンが俯いた。ジェイルは「おいおい、大丈夫かよ」と頭を掻いた。


「俺が試すよ。ってかまだ魔法使ってないし」


 と俺は狂言師の杖をボアに向け、『アイスロック』と小さく唱えた。

 小さな氷のつぶてがボアに向かっていく。

 こつんと、ボアに当たる。


「ぶ、ぶひいいいいいい」


 怒ったボアが、俺に向かって突進してくる。豚みたいな鳴き声だな!


「じょぶれすうううなんだそのうんこみたいなまほうわあああ」


 とジェイルが剣と盾を構え、俺の前に立つ。


「あああ、すみませんんん」


 情けなや。

 ジェイルは、左腕につけた盾でボアを受け止め、右手に持ったロングソードで叩き切った。 

 ボアは、小さく悲鳴を上げ、消滅した。


「消えるのか。よかった」


 リンは、ほっと息をついた。


「おいおい、お前らなあ」


「いや、まじですまん」


 とりあえずジェイルに謝る。実験役を買ってでておいて、結局ジェイルに任せてしまった。


「にしても、アイスロックって、あんな弱かったか?」


 ジェイルは、首を傾げた。

 たしかに、ボアぐらいは倒せると思ったんだが。


「もう一度出してみるよ」と杖を木に向け、気を集中させ『アイスロック』と唱えた。

 先ほどよりも大きな氷のつぶてが現れた。


「だせるじゃねえかジョブレス。さっきはセーブしちまったんじゃねえの?」


 まあ、ボアに悪いなと思いながら放ったが、こっちのさじ加減で魔法の大きさが変わるのか。


「火はだせるのか?」


 リンが俺に訊ねた。

 炎系の技名を思い出す。いや、待てよ、技名いるのか。

 炎を出そうと杖を振ってみる。しかし、何も出ない。

 気を集中させ『ヘルファイア』と唱え、再び杖を振る。

 激しい炎が杖から吹き出す。おかしいな。もっと弱い炎だそうとしたんだが。


「やはり、マーセナリーが触っても熱さを感じないようになってるんだな」


 リンは、炎に触れながら言った。


「いま弱い炎だそうとしたんだが、今度は調整できなかったな」


「ヘルファイアって高火力呪文だろ」


 ジェイルが言った。

 魔法によって調整できる範囲が決まっているのか。アイスロックは弱魔法だから、ある程度まで弱くできた感じか。


「ヘルファイア!」


 さきほどよりも大きな炎が、杖から出る。


「なるほど」と一人頷く。あくびが出る。微かな眠気が襲う。


「ん、どうした?」


 ジェイルが、俺の小さな異変に気づいた。


「いや、なんでもない」


 今朝は早く起きたからそれだろう。あと、そういえば。


「エイロン、カラスはどうやってだすんだ?」


 小川のそばでぼーっとしているエイロンに訊ねた。


「あ?ああどうするんだろう」エイロンはグリモワールを取り出し、ヤタガラスのページを開く。「ってジョブ、カラスじゃねえよ、ヤタ!」


 エイロンがヤタと言った次の瞬間、ヤタガラスがどこからともなく現れた。「カー!」と鳴き声を上げる。


「おお、ヤタ!」


「名前呼んだらくるんだ」


 エイロンのグリモワールを覗き込む。以前とは違う文字が現れている。


「『命名』ヤタ?」


「そうなんだよジョブ。昨日の夜、命名、って字がグリモワールにでたから、ヤタって書いたの」


 へー、渾名つけられるんだ。


「そろそろいくか。日が暮れちまう」


 とジェイルは、前を向いた。


 日が傾きはじめたころ、森の中で小屋を見つけた。ジェイルが先頭を切って入っていく。


「お、おお、なんだ今日は、珍しい。またか」


 体躯のいいおっさんが、コーヒーを飲んでくつろいでいる。


「失礼します。マーセナリーの方ですか?」


 俺の問いに、おっさんは「いんや、狩人の村に住んでる村人さ。名をドリーという」とセリフっぽく自己紹介し「で、今日はどうした?なんでまたここに」と問うた。


 ジェイルが答える。


「ええ、赤いずきんを被ったオオカミを探しに」


「赤いずきん?なんだいなんだい、またかよ」


「またかよ、とは?」と俺が訊ねると、「ああ、昼すぎぐらいか、2人組のマーセナリーが、って、あれ、こ

れ言っていいんだっけ」とおっさんは頭を掻いた。怪しい。


「2人組のマーセナリー?」


 村にいたあの二人しか考えられない。


「いんや、まあ、そこは忘れてくれ。赤いずきんのオオカミなら、今朝も見かけたぜ。こっから南に20分くらい歩いていくと竹やぶがあるんだが、その辺にいたな」


 礼を言って、外へ出ようと扉をあけると「あ、あと、ここいらは迷いやすいから、日が暮れるまでに村に戻った方がいいぞ!」とおっさんが言った。


「ありがとうございます」と返し、小屋を出た。


「なんか違和感のある態度だったなあのおっさん。マーセナリーでもないって言ってたし」


 とリンは、不審の目を小屋に向けた。


「NPCって言うより、システム側の人って感じだったな。一応NPCを装ってたけど」


 俺の推測に、ジェイルがなるほど、と頷いた。遭難者対策に配置しているんだろうか。


 おっさんからの情報を頼りに、南へ向かう。道中、オオカミの群れと相対した。どのオオカミも、気が立っているように見えた。こちらを警戒しながら、しかし戦おうという様子はなく、そのままやりすごした。赤ずきんを被っているオオカミは見当たらなかった。


「なんだ、様子がおかしかったな」


 剣をさやに納めながら、ジェイルが言った。

 ざわりと森全体が騒いだ。日が高木に隠れて、光が少ない。

 木々を縫うようにして、進んでいく。少し開けた場所に出ると、その先に竹やぶがあった。


「いないな」


 リンは、辺りを見渡しながら言った。


「カア、カア」とヤタがエイロンに鳴いている。


「ん?なになに」


「カア、カアカアカア」


「頼める?」


「カア!」


 一人と一匹の奇妙なやりとりが終わると、一匹が空へと羽ばたいた。

 どうしたエイロン頭を打ったか、と訊ねると、「打ってねえよ!いやさ、ヤタが上から見てみるって」とエイロンが答えた。


「しゃべれるの?」リンが問うと「私レベルのテイマーになると、なんとなくわかるんだよ、リンくん」腕を組み、何度も頷きながらエイロンは答えた。なんやかんやテイマーという職業に満足しているようだ。とにかくここは任せよう。

 カアカアと、ヤタが戻ってくる。くちばしを一方向に向かって何度もつつき、アピールする。


「こっちだ」


 エイロンの先導で、竹やぶのなかをどんどん進んでいく。

 なにか、うっすらと白い光を感じる。その光が、進むごとに強くなっていく。

 歩を緩め、慎重に歩く。

 竹と雑木が乱立している。というより、竹が雑木を浸食しているように見える。その先に、光のもとがある。

 声が微かに聞こえる。

 エイロンは立ち止まり、しゃがみ込んだ。倣って、しゃがみ込み、耳をそばだてる。


「こいつで・・・るのか。はらを・ればい・・のか」


 この声は、狩人の村にいた全身銀アーマーの女ファイターだ。声が小さくて聞きづらい


「赤いずきしてるからこいつだろうよ。ヒールしてるあいだに腹をかっさばいてくれ」


 もう一人のヒーラー男の声だ。こっちは聞きやすい。赤いずきん。腹をかっ捌く。不穏な会話だ。さて、

どうするか。と考える間もなく


「まてまてまてい!」


 ジェイルが竹やぶを叩っ切り、二人の前に飛び出した。

 俺とリンは顔を見合わせる。こうなったら腹をくくるしかない。


「であえい!であえい!」と俺も飛び出す。つづいて、リンも出てくる。


「お前ら、なにしてんだ!」


 竹やぶの向こうの光景を見たリンが、叫んだ。


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