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リアルでは…

 うるさい……。

 けたたましいアラーム音によって、俺は目を覚ました。

 午前七時。まだ肌寒い朝である。

 平岩先輩とクラウディア・オンラインを本日の三時までやっていたからか、今朝の寝起きは最悪である。


「いったぁ……」


 ガンガン耳鳴りのする頭を抑えつつ、ひとまず目覚ましのアラームを止めてスマホに目を落とす。

 未読のコメントが一件あった。


「なんだ?」


 差出人は平岩先輩。


『田中、今日も八時からゲームするから。

というか、寝れた? 私寝不足だわ笑』


 ……実に下らない報告であった。


「寝不足に決まってるだろ……ていうか、今日もやるのか」


 ぼやきつつもベッドからもぞもぞ出て、朝食を作るために台所へと向かうのであった。

 出勤は八時半だ。



===



 出社後は朝礼に始まり、すぐに通常業務へと移る。

 ゲーム世界とは打って変わって、なんともつまらない日常が始まる。

 カタカタとパソコンと睨めっこする社員たち、勿論俺もその一人だ。また案件取りに行かないといけないのかぁ……やだなぁ、社内にずっといるのじゃ駄目なのかなぁ。今日動きたくない。


「おーい、田中。お前大丈夫か?」


 疲れた体に鞭打って、早速仕事に取り掛かろうかと思っていると、不意に肩を叩かれた。

 横には同期入社の瀬戸が心配そうにこちらを見ている。多分寝不足でクマでも出来ていたのだろう。当然眠い。が、昨日日付が変わってからも平岩先輩とゲームしていたなんてこと言えるはずがない。


「まあ、大丈夫だよ。ちょい寝れなかっただけだ」

「田中のことだから、どうせゲームでもしてたんだろ。というか、その年でゲームで寝不足って。学生じゃあるまいし」


 クスクスと笑っている瀬戸。

 しかし、彼は知らないだろう。うちの班のリーダーである平岩先輩も俺と同じ状況であるということを。

 勿論、俺と瀬戸の会話は平岩先輩にも筒抜けである。

 机が近いので当たり前だが、意外にも平岩先輩はこの話題に反応してこなかった。


「はぁ、瀬戸には関係ないだろ」

「そうだけどさぁ。お前ゲーム以外に何か趣味とかねぇの? スポーツとかさ」

「運動は嫌いだ」

「運動神経いいくせに」

「高校の運動部で萎えたわ……」


 というか、運動神経いいことをなんでこいつが知ってんだよ。会社に入ってからは、社内行事のボーリング大会に参加したくらいなんだけど……。


「というか、なんで運動神経いいとか分かんの? エスパー?」


 そんな下らない会話を繰り広げていると、平岩先輩が俺たちのデスクに近づいてくる。


「二人ともおはよう」


 うん、実にスタンダードな挨拶だ。

 俺と瀬戸は同時に平岩先輩に頭を下げる。


「「おはようございます」」


 俺たちの挨拶を聞くと満足そうな顔になる平岩先輩。俺と二人の時はこんな画面つけていない癖につくづく外面の良い人だと思う。


「早速で悪いんだけど瀬戸くん。例の企画書を明日までに完成させて欲しいんだけど……進み具合とか大丈夫?」


 こう見えて平岩先輩は仕事のできる人だ。

 瀬戸の仕事が進んでいないことを見越しての確認。なんでもお見通しすぎて怖いくらいだ。

 平岩先輩からの遠回しな圧力に瀬戸を目を泳がせる。


「えっとあの、すぐに完成させます……」

「うん、お願いね」


 どんな時も怒りを露にはしないしたたかさを持ち合わせている平岩先輩。さっきの話を聞いていたから、瀬戸に圧力掛けたんだろうなぁ。

 この人も社会人にもなってゲームして寝不足だし。俺と同じで、こいつに馬鹿にされたのが癪だったんだろう。元々俺が付き合わされる形で三時までプレイしていた訳だし、実質平岩先輩のせいでもある。

 瀬戸を怖がらせたことはたいそう満足げな様子。


「じゃあ、二人ともお仕事頑張ってね。あっ、田中くんこの後少し時間あるかしら?」


 八つ当たりをして、スッキリした顔で帰ろうとしていた癖に振り向きざまにそうこちらに顔を向けてくる。

 仕事の案件か? 

 いや、でも新規の分は一通り済ませているはず。追加ということも考えられるが、手が足りている分俺に回す意味がない。

 なんのことやらと、理解できていないものの、俺は頷いた。


「分かりました。昼休みでいいすか?」

「うん、じゃあ、また後でね」

「はい」


 平岩先輩が戻った後、瀬戸はそっと耳打ちしてくる。


「なぁ、なんか平岩先輩機嫌悪くねぇか?」


 多分お前が原因だ……とは言えないので、


「さあ、あの人も疲れてんじゃねぇの。知らんけど」


 とそれらしいことを言っておく。変なことを言ったりしたら、後々俺に被害が及ぶので、今の段階でこの返答はベスト。


「ふーん、そっか。平岩先輩でも疲れることがあるんだな」

「一応平岩先輩も人間だからな」

「それもそうか」


 納得したようだ。こいつも中々チョロい。

 しかし、この話を終わらせたことで、別のヘイトが俺に向く。


「それにしても、お前最近平岩先輩と親しげだよな? なんかあったのか?」


 うわぁ……面倒くさい。


「別にそんなことないだろ。あの人が一方的に絡んでくるだけだよ」

「うわぁ、冷てぇなお前」

「どうでもいいから、お前は仕事を進めろよ。締め切り間に合わなくなるぞ」


 慌ただしく平凡で下らない日常はこうして続く。 

 しかし、平岩先輩の用件とはなんだろう。俺は昼休みになるまで、頭の片隅でそれが何なのかということをずっと考えてしまった。

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