運しかステータスが上げられない…
拍子抜けしたような敵キャラ。
チュートリアルであると分かってはいたが、あんだけ移動させたのだからもうちょっといい感じの敵キャラを用意しておいてもいいのではないかと思う。
現に隣にいる平岩先輩はノロノロと緊張感のないままに武器を構えているし……。
「平岩先輩は……剣士ですか?」
つまらなそうなので、そう話を振ると。
「うん。剣道やってたから出来るかなぁって」
自慢げに胸を逸らしていた。
しかし、意外だ。この人剣道とかやってたんだ。
「因みに腕前は?」
「ん? 中学の体育では剣道部以外には負けなしだった!」
それは剣道やってたじゃなくて、体育でやったことがあるが正解だろ。何この人、本気で言っているのかボケているのか定かじゃないところが腹立つ。
「それ、元剣道部の人とかに言っちゃ駄目ですよ」
「はぁ? 言うわけないじゃん。常識考えなよ」
あ、俺が悪いんだ……。
「取り敢えず相手の数が三なので、二一で分担しますか」
「おっけ! 田中は弓かぁ。あ、なら私が一で田中が二でちょうどいいじゃん!」
弓使いだから仕事量増えるとか意味分からないんですけど。
「まあ、元々先輩の手伝いなので、いいですよ」
「じゃ、よろしく」
断ったところで意味もないし、一体も二体もそう変わらない。俺は先輩が突っ込んでいくのを見送りつつ弓矢を構えた。
リアルで弓を打ったことはないが、それとなく狙いを定めてみる。……うーん、偏差とか必要なのかな?
取り敢えずそこまで距離は離れていないので、素直に頭部に標準を置いて弓を放った。
「おっ、普通に当たった」
見事に的な頭部を射抜くことに成功。しかも一撃で相手はキラキラとエフェクトを発して消えていく。
「田中ナイス!」
「はいはい。先輩もナイスです」
俺が仕留めていた間に平岩先輩も豪快な剣捌きで敵を宙に飛ばしていた。俺必要なかっただろ……。
ひとまず、先輩が敵を倒し終えるのを見届けてから残りの一体に矢を射て、チュートリアル終了。随分とあっけなかった。
「お疲れ〜」
「はい、お疲れ様です」
戦闘後、経験値やらアイテムやらを入手。
レベルも一から二になった。
「あっ、ステータスポイントっての貰ったよ。これどう使うの?」
「ああ、ステータスポイントは自分の上げたいステータスに振り分けると振り分けた分だけ能力が上がるってものです」
レベルアップによって、全体的にステータスは上がるものの、それだけだとつまらないバランス型になってしまう。そこで、キャラに個性を生み出すためにステータスポイントが存在するのだ。
「よし、筋力と敏捷に全部注ぎ込んだ!」
「脳筋じゃないすか……」
「どうせ田中も脳筋にするんでしょ」
「いや、俺は……」
できれば平岩先輩と同じようなキャラにするのも変だし、体力でも上げておこうか。
そう考えていたが……。
ん⁉︎
「あれ、あれ……?」
「どしたの?」
「ステータスが上げられない」
というか、上げられないわけじゃないけど……。
「いや。なんか、上昇させられるステータスが運しかないっていうか……」
「え、なにそれ?」
いや、なにそれ言われても。こっちが聞きたいくらいだよ。
これはバグなのか?
リリース初日から、こんな不具合があるなんて聞いてないんだが。
「どうする? 運営に連絡する?」
流石に不審に感じたのか、平岩先輩もそう聞いてくる。
運営に連絡かぁ……。もし、不具合が発覚したら緊急メンテナンスとかになるかもだし……。
そうなったらゲームが一時できなくなる可能性もある。せっかく休日に一日中ゲームに没頭できると思っていたのにそれは嫌すぎる。
「いえ、運が高いっていうのも個性があっていい気もしますし。取り敢えず運営には連絡しないってことで」
「そ、そう?」
「まあ、なんとかなりますよ」
「田中がいいなら、いいけど……」
結局運にしかステータスを振れないということに驚きつつも、運に全て振ってしまった。普通の人は直接的にキャラの強さに影響する筋力や耐久などのメジャーな振り方をするため、俺はかなり偏った性能になりそうである。
「あれ?」
「どうかしました?」
そして、次の瞬間先輩からの予想外の発言によって俺はさらに驚くことになる。
「運のステータスって……自然上昇値固定らしい。だから、ステータスポイントによる上昇は普通にできないって、解説に……」
平岩先輩から告げられた事実に俺はしばらく固まって動かなかった。