ステータスが残念だった
平岩先輩からの連絡を受けた後、俺は気が進まないもののクラウディア・オンラインのソフトを起動した。
真っ暗な視界が一気に開け、『クラウディア・オンライン』とタイトルが目の前に広がる。規約に同意して、タイトル画面を抜けると早速キャラメイクをすることとなった。
「まあ、適当でいいか」
キャラメイクは自体そこまで重要ではない。
ゲームのチュートリアルクリア後、キャラメイク変更が可能となるクエストというものが存在しているからだ。
リアルの俺は仕事のし過ぎのせいか、よく目が死んでいると言われている。……どうせゲーム。本当に目が死んでいるようなキャラにしてしまおう。
「……っと、こんなもんか」
ということで、どんよりとした目をしたキャラが完成。心なしか犯罪臭のする容姿ではあるが、個性があって中々良いのではないだろうか。うん。
比較的体型も似せることが出来たので、個人的にはなかなか良い仕上がりだと思う。
キャラメイクを確定。
次に職業選択画面に突入した。
剣士、槍士、格闘家、魔導師、治癒術師、弓使い、狙撃者などなど様々な役職が存在している。
「まあ、職業も追々選べるしなぁ……」
最初に選んだ職業以外に新ジョブ解放クエストなるものをクリアすれば別の職業に転職できることを俺は知っている。ベータ版を先行プレイしている実況者の動画とか見てたしな。
職業選択で迷うというのもゲームの醍醐味だが、先輩を待たせている手前、あまり悠長に選んでいるわけにもいかない。
取り敢えず、剣士や格闘家など近接系の職業は怖いので却下。治癒術師みたいな補助職もソロプレイ推奨の俺にとっては無縁の職である。
となれば、間接系の攻撃が可能な魔導師、弓使い、狙撃者辺りがベストかもしれない。
「取り敢えず、弓使いでいいか。上級者向けっぽいし……」
なんとなくで、俺は弓使いを選択した。
狙撃者よりも単発のダメージが大きく、魔術師より攻撃の隙も少ない。
それになんだかんだで、平岩先輩にこき使われるのなら、難しそうな弓使いで足引っ張ってやろうかという魂胆も多少含まれているのは内緒である。
職業を確定。
最後にプレイヤーネームだが……。
「田中……は、安直過ぎるな」
シンプルな名前にすれば面白味がない。かといって弾けたような個性的な名前にすれば、平岩先輩にからかわれる未来が安易に想像できる……。
俺は迷った末に。
「田中……中……センター……ゼンとかでいいか」
語呂合わせ的な雑な決め方であるが、プレイヤーネームを『ゼン』ということにした。
名前を確定させると辺り一体が真っ白になる。
体が宙に浮かぶような奇妙な感覚のまま、俺の意識は遠のいていった。
いよいよ、本番に突入である。
===
意識が戻ると、綺麗な町に立っていた。
様々な人々が行き交い、ガヤガヤと騒がしい。まるで休日のショッピングモールのような盛り上がりだ。
そう。ようやく俺はクラウディア・オンラインの世界へとやってきたのだ。
「さてと、まずはステータスの確認っと」
メニュー画面からステータスの詳細をチェックする。
実は一本のソフトから生成されるキャラには個体値なるものが存在する。
筋力が高かったり、敏捷が高かったりとキャラによって高い不得意なステータスが存在する。ソフト購入の段階から、既にゲームは始まっているのだ。
当たりソフトであれば、序盤から終盤までアドバンテージを持ってゲームをプレイできる。購入段階からゲーム内のヒエラルキーが決まっているというのは、なんだか違和感ではある。しかし、そういうのも含めて面白いということなのだろう。
基礎値を確認して、いざ自身のステータスと照らし合わせると……。
体力、平均以下。
筋力、平均以下。
敏捷、平均。
耐久、平均以下。
魔力、平均以下などなど……。
「……最悪だ。これは外れキャラだ」
残念ながら、俺のキャラは絶望的にステータスが低かった。
ほとんど平均以下、あっても平均……。いくらスクロールしても優れた点は見当たらない。
「差別するにもほどがあるだろ」
愚痴をこぼしながらも、どこか優れている点はないかと必死に目を通りしていくと、一箇所だけ平均から格段にかけ離れてよいステータスがあった。
運。
「運ってなんだよ⁉︎ 運ゲーだから、ステータスが低いのも運ですってことなのか⁉︎」
……軽く、というか本格的に絶望した。
「はぁ、もういいよ。取り敢えず先輩と合流するか……」
ゲーム開始早々から、俺のモチベはただ下がりであった。
取り敢えず平岩先輩から教えてもらったゲームIDをフレンド検索画面に入力する。
すると一人のプレイヤーネームが表示された。
『エリザベス』
「どこの国の女王だよ……。いや、平岩先輩にはぴったりか」
よくある名前。
どうせあの人のことだ。適当に決めたに違いない。
やや呆れつつも、平岩先輩のキャラであろう『エリザベス』に対してフレンド申請とゲーム内個人チャットをしつつ、チュートリアルクエストのある街の外へと繰り出すのであった。