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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第三章 碧玉の森
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第九十五話

 

 冒険者ギルドに着くと、結構長い取り調べを受けた。


 魔法鞄(マジックバッグ)は前回も香梅猪(プラムボア)藍背熊(インディゴバック)を出してたので、またか、という感じだったけど流石に狂暴犀(バーサクライノ)は珍しかったみたいだ。


 僕だけでなくネグロスやクロムウェルもこれまでの経歴や今回遭遇したときの状況を詳しく聞かれたらしい。


 今回倒した銀角犀(シルバーライノ)狂暴犀(バーサクライノ)は買取りしてくれて、銀角犀(シルバーライノ)は金貨五十枚、狂暴犀(バーサクライノ)は金貨二百枚になった。


 正直、高いのか安いのかよく分からない。


 二匹とも素材としての使い道が分からないからだろう。


 金貨は後で三等分で分けることにしてとりあえず僕が預かった。……金貨ってかなり重いんだよ。




 冒険者ギルドで買取りが終わってから、狐人(ワーフォックス)三人姉妹の親が営んでいる翡翠(ジェイド)工房に立ち寄った。


 工房で両親を手伝う三人はどこか凛としてカッコ良かった。


 裏白桔梗の根の他にも白胡桃の実を六個、小さなヒノキカグラの葉を五枚渡すと、とても喜んでくれてネグロスが照れていた。


 せっかく薬師の工房に寄ったので魔水薬(ポーション)を買おうと思ったけど、体力回復用の緑の魔水薬(ポーション)しか無かった。


 それを三人で二本ずつ買って腰鞄(ポーチ)に入れた。

 クロムウェルが自分用に腰鞄(ポーチ)背嚢(バックパック)を買いたいって言ってたので、今度探しに行こうと思う。


 狐の三人姉妹に森のことを教えてもらうという名目で夕食のお店を教えてもらい、……当然三人にはご馳走するという条件で、スープとブロック肉の美味しいお店に行った。


 魔水薬(ポーション)の素材は大公都の方で高く買い取ってくれるようで、最近は素材の持ち込みが少し減ってるらしいという話しを聞いた。






 そんな訳で今日も素材採取をメインにして碧玉の森(ジャスパーウッズ)に入る。


「さて、今日はどうする?」


「まずは昨日狂暴犀(バーサクライノ)に会った辺りを確認しようか?」


「うん。

 別に構わないが、一応理由を教えてもらえるか?

 あの辺りは昨日採取したから、素材がそんなに残ってないだろ?」


「そうだね。理由は二つ。

 一つ目はどうせ森の奥に入らないと素材が手に入らない。

 二つ目は昨日の反応だと狂暴犀(バーサクライノ)はかなり珍しいし、倒せる冒険者も少なそうだから」


「あぁ、ハクもお人好しだな」


「うん? どういうことだ?」


「ハクは素材探しと言いながら森の見回りをするつもりみたいだよ」


「いや、そこまでは考えてないよ」


「ふふっ。それならハクの提案に従おう。

 まだまだ森の歩き方や冒険者の考え方が分からないからなぁ。ハクやネグロスのように危険に対して鈍感みたいだ」


「クロムウェルの考え方もすごくよく分かるよ。

 できるできない、じゃなくてどうしなければならないか? だよね。

 貴族としてしっかりしてると思うよ」


「まぁ、今は冒険者だから、冒険者の考え方で行動できるようになりたい」


「クロムウェルも色々考えてるねぇ」


「ネグロス、これでも色々考えてるんだよ」


 茶化しながらも三人とも貴族なのでクロムウェルの気持ちがよく分かる。

 領民を守るための考え方と、魔法(モンスター)を倒すための力。

 正しい考え方で正しく力を使えるようにならなければならない。






 途中で魔物(モンスター)に会うことも無く狂暴犀(バーサクライノ)を倒した落とし穴に着いた。


「何の変化もないな」


 ネグロスが軽く辺りを見回しながら言い、僕とクロムウェルは落とし穴の縁を確認してる。


 一メートルほどの段差があるけれど、狂暴犀(バーサクライノ)以外に落ちた魔物(モンスター)はいないようだ。

 作ったときのまま綺麗に残ってる。


 僕たちが必死に掘り返した裏白桔梗の方は抉ったような跡があるので、杏子兎(アプリコットラビット)香梅猪(プラムボア)が根を齧りに来たんだろう。


 心配し過ぎだったか?


 一通り確認すると、足跡を辿って狂暴犀(バーサクライノ)が現れた方向に歩き出す。


 どこから来たのか?

 足跡を追ったところでそれほどは追えないだろう。

 それでも、気持ちの問題で足跡を追っていく。


 紫の花が茎に連なって溢れるように咲いている一帯があった。

 真ん中には掘り起こしたような跡もあったので、近づいてみると鈴蘭大蒜(リリーガーリック)だった。


 とても栄養価が高くて、癖のある味だけど高価な食材だ。

 森の奥にある群生地なので、取り過ぎないようにして一部を採取した。


 ネグロスが『もう少しぐらいいいんじゃない?』と言ってたけど、欲を出し過ぎるのは良くないからね、と諦めてもらった。


 ……それにしても妙に静かだ。


 今日はまだ一匹も魔物(モンスター)に会ってない。




 狂暴犀(バーサクライノ)の足跡はまだ続いてる。


 一度、静けさが気になるとなかなか頭から離れてくれない。次第にその理由も気になり始める。


 静かなのは狂暴犀(バーサクライノ)の足跡のあるところだけなのか? 森全体なのか?


 森の生き物はどこへ行ったのか?

 隠れてるだけなのか?


「気持ち悪いくらい静かだな」


 ネグロスが言うとクロムウェルがキョロキョロと見回す。


「そう言えばそうだな。

 歩くのに集中してて気付かなかった」


「この方向に冒険者がいないのはいいんだけど、魔物(モンスター)も全然いないよね」


「うん? どういう意味だ?」


「あぁ、昨日ギルドに報告してるから狂暴犀(バーサクライノ)が出現したこっちの方向は冒険者が減っててもおかしくないんだけど、何で魔物(モンスター)までいなくなってるのか分からないんだ」


「なるほど」


「普通は冒険者が減れば、その分魔物(モンスター)が増えるから」


「確かにそうだな。

 昨日の狂暴犀(バーサクライノ)が縄張りを荒らして皆引っ込んじまったか?」


「それもあるか……。

 もう少し足跡を追ってもいいかな?」


「いいぜ。どうせ乗り掛かった船だしな」

「分かった」


 二人が賛成してくれたので、再び足跡を追いかける。

 狂暴犀(バーサクライノ)の足跡は特徴があるし、体が重いのでまだしっかりと跡が残ってる。




 こうやって狂暴犀(バーサクライノ)の足跡を追ってると、その足跡が比較的真っ直ぐに続いてることに気づいた。


 森の奥から僕たちと出会ったところまで、森を出るようにして進んでる。


 途中で右往左往してない。

 たまに木を押し倒したり、土を掘り起こして暴れたような跡があるけど、僕とクロムウェルを追いかけたような派手な戦闘跡は無い。


 木の実や木の根を食い荒らした訳でも無い。


 結構歩いて来て、徐々に斜面になっていたようだ。

 クロムウェルの息が少し荒い。


「悪い。知らないうちにかなり森の奥まで来てしまったかも知れない」


「いや、いいさ。逆に少し森の中を歩く自信がついたよ」


「言うねぇ。でもこの森でこれだけ歩ければ学院の森も大丈夫だな」


 休憩がてら、鉄の器を出して水を入れ二人に渡す。


「こんなこともできるって、ハクの魔法は便利だな」


 ネグロスが舐めるようにして水を飲み器を返してくる。


「クロムウェルが水魔法を使えるようになったらすぐに負けるよ」


「水しぶきを浴びせられてもなぁ」


「そのうち、ちゃんとコントロールして水を出して見せるさ」


 クロムウェルも水を飲み干して器を返そうとしたとき、ザワッと樹々が震える。


 ビクッとしたクロムウェルが器を落とした。


「何だ?」

「どうした?」

「すまない」


 三人して視線を彷徨わせてキョロキョロする。


 落とした器を拾って腰鞄(ポーチ)に仕舞うと、ババババッと上空を鳥が羽ばたいて行く。


 前の方から来て、後ろの方へ。

 森の奥から現れて、碧玉の村(ジャスパーヴィレ)の方へと飛んで行った。


「何かヤバそうだ」


 ネグロスとクロムウェルが僕の近くに寄ってくる。


 三人で背中合わせになり警戒してると、森の奥から地響きが聞こえて来る。


「何だ?」


 鼠や栗鼠のような小動物が走って来る。


 剣を構えて警戒してると、僕たちをかわして駆け抜けて行く。


 森の奥を睨むようにして見ていると徐々に大きな動物が走って来る。


 これは、……集団暴走(スタンピード)のときと同じだ。

 森から魔物(モンスター)が溢れ出す。


「ネグロスとクロムはすぐに村に戻って!

 冒険者ギルドに行って、防衛線を作るように連絡を!」


「ハクは?」


「僕は殿(しんがり)で時間を稼ぐ!

 急いで!

 集団暴走(スタンピード)の可能性がある!」




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