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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第三章 碧玉の森
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第八十九話

 

「「今日はありがとうございました」」


「いえいえ、こっちこそ助かったよ」


 僕とネグロスが礼を言うとディキシューが手を振って止める。

 レネットとバイプルも両手を振って否定している。


 午後から碧玉の森(ジャスパーウッズ)で木の実や茸を採取して見分け方を教えてもらった。

 合間に僕とネグロスは杏子兎(アプリコットラビット)三匹、香梅猪(プラムボア)二頭、鳥兜黄蛇アコナイトイエロースネーク一匹を追加で仕留めたので、夕食代ぐらいは稼いだはずだ。


「僕たちはギルドに行きますけど、ディキシューさんたちはどうされますか?

 もし良ければお礼を兼ねて食事を一緒にいかがですか?」


「え〜っ、それはご馳走してくれるってことかなぁ?」


「えぇ、もちろんそのつもりですけど?」


「仕方ないなぁ。それじゃ、美味しいお店を教えてあげようじゃないか」

「肉にしよう、肉に」

「……じゅるり」


 最後に余計な音が聞こえた。

 普段無口な癖にこんなときだけ表現力がある。


 ディキシューたちが了承してくれたので、先にギルドに行って買取をしてもらってからお店に向かう。


 ちなみに碧玉の村(ジャスパーヴィレ)で初めての買取は金貨三枚と銀貨五十枚になった。

 図体の大きな香梅猪(プラムボア)腰鞄(ポーチ)を使って簡単に運んだけど、普通だとかなり苦労するみたいでいい値段がついた。


 夕食は香草をふんだんに使う肉焼きのお店を教えてもらって五人でテーブルを囲むことになった。

 丸テーブルに五人が並ぶ。


 僕の右にネグロスが座りその右にディキシュー、バイプル、レネットと並ぶと皆んなバラバラに好きなものを注文する。

 鳥肉、兎肉、猪肉。

 塩焼き、香草焼き、タレ焼き。

 三人姉妹は見かけによらず大食いだ。


「二人はどうして碧玉の森(ジャスパーウッズ)に来たの?」

「どうして? 不思議?」


 ディキシューが言うとレネットが短い言葉で言い換える。……バイプルは肉を食べ続ける。


「俺たち二人とも辺境出身だから大公都の近くの狩場を知らないんですよ」


「辺境って?」

「何で大公都?」


 今度はディキシューとレネットが違う問いを返す。こんなパターンもあるのか。


「西の辺境です。子爵様の領地なので獣人も少ない田舎です。強い冒険者になりたくて上級学院に入ったんです」


「へぇ、何も冒険者にならなくていいと思うけど……」

「冒険者、大変」


「そうですね。冒険者にはこだわってません。

 ただ強くなって皆を守りたいっていうか……」


「そういうのは分かる」

「うん」


「田舎だから、強い魔物(モンスター)が出たら倒せる獣人がいなくて、皆で囲むけど、それでも全然倒せなくて……」


「……私たち三人は薬師なんだよね」

「そう」


「昔は生活のために薬を作ってって感じだったんだけど、何年か前にこの森で瀕死の冒険者を助けたことがあってさ。

 ……凄く感謝されたよね」

「感謝された」


 バイプルでさえ、食事を止めてコクコクと頷いている。

 よほど印象に残ったんだろう。


「それから本気で薬師になろうと思った。

 元々薬師の家系でさ、小さな頃は何でこんなことさせられるんだろう? って思ってたんだ」

「嫌だった」


 ……バイプルが再び肉焼きを食べ始めた。

 兎の腿肉に香草をまぶして串焼きにしてあるので、ワイルドに齧りついてる。


「何で森に入ってたの?」


「最近、素材が値上がりしててさ。

 三人で修行しようと思うと足りないことが増えてきたんだ。

 だから、冒険者ギルドに隠れて素材を採ってる」

「内緒」


「ええっ?」


「売るつもりは無いし、私たちが必要なものしか採らないから……」

「問題ない」


「危ないんじゃ?」


「たまに危ないときもあるから、そのときはすぐに逃げる」

「逃走」


「だから、最初に会ったとき警戒したの」

「危険、危険」


「でも、俺たちを助けようとして……」


「それはさ、やっぱ襲われてたら心配じゃん」

「心配」


「それで走って行ったのに二人とも強いんだもん。

 びっくりしちゃった」

「想定外」


「そうなんだ」


「だって、君たち子供だよ。

 強いなんて思わないじゃない」

「予想外」


「だってよ。ハク、俺たち強いみたい」


 ネグロスが顔をニヤけさせながらこっちを見るので、仕方なく合わせとく。


「まぁ、ネグロスの動きは静かで速いから」


「ハク君の方が異常だからね」

「別格」


「そうなんだよな。

 ハクは得体が知れないんだよ」


「そんなこと言われてもなぁ……」


「私も強かったらなぁ」

「憧れ」


「薬師の修行をしてるってことは、魔力を使って薬効抽出とかするんじゃないんですか?」


「よく知ってるね」

「もの知り」


「少し聞いたことがあるんだ」


「一応、薬師見習いだからね。

 少しはできるけどまだまだだよ」

「未熟」


「それなら少しは強くなれそうだけど……」


「そうなのかな?」

「疑問」


「僕たちも訓練してるところだから詳しくは分からないけどね」


「ふ〜ん。そうなったら素材集めも簡単なんだよね」

「理想」


「今日の採取で素材は揃ったんですか?」


 僕とディキシューが薬師のスキルについて話してると、ネグロスが少し心配そうに聞いてきた。


「う〜ん。ちょっと足りないかな。

 白胡桃の実が見つけられなかったから」

「不足気味」


「もし良かったら明日も碧玉の森(ジャスパーウッズ)のことを教えてもらえませんか?

 今日と同じようにしてもう少し素材のこととか知りたいんです。

 もちろん今日と同じように護衛をしながらです」


「えっと、もしできるならお願いしたいけど、君たち帰らなくていいの?」


「元から今日と明日は狩りの予定なんです。

 場合によっては今晩、森で野営することも考えてましたし」


「えっ? 碧玉の森(ジャスパーウッズ)で野営?」

「真っ暗闇」


「そうです。なっ、ハク」


「えぇ、今日は案内してもらって素材も教えてもらったので助かりました。

 皆さんに会ってなかったら、そのまま適当に野営して調べてました」


「えぇ〜?」

「意味不明」


「あれ? そんなに変ですか?」

「僕もネグロスも普通にそのつもりでいましたよ」


「だって、危険なのよ。

 火を焚いてても寄って来る魔物(モンスター)だっているし」

「理解不能」


「強くなりたくて、経験積むために来たんで普通です」


「地元の森だとそれぐらい普通です」


「そんな風にして男の子は強くなってくのね」

「ヤンチャ」


「どうですか?

 明日も護衛に雇いませんか?」


「それなら、せっかくだしお願いしようかな。

 でも、無理しないでね」

「承諾」


「やった。

 それじゃ、朝食済ませて日の出から一刻後に西門で待ち合わせしましょう」


「本当に変な二人ね」

「珍しい」

「……」


 バイプルは鳥肉の骨を握り締めて前に突き出した。

 薬師をしてるだけあって三人、……いや、ディキシューの説明は分かりやすいし実物を見て確認もできるのでありがたい。


 ネグロスのお節介も大変だけど、こんなお節介なら巻き込まれてもいいだろう。






 肉焼き屋での食事を済ませると、三人姉妹と別れて安宿に向かう。

 まだ夜の早い時間帯で多くの獣人が街の通りを歩いている。


「俺さ、こんな風に夜の街を歩くの初めてだよ」


「僕も何回かある程度だね」


「ハクはどこで薬師の調薬を知ったんだ?」


「半年ほど前に知り合いに薬師を紹介してもらったときかな」


「そうか〜。

 ハクとディキシューさんが話してるのを見て、俺、何も知らないんだって実感したよ」


「そんなことないだろう」


「いや、知らないんだよ。

 強さに関しても金銭感覚にしても田舎にいて色んな物差しを知らないから、まずは知ることが必要だって思った」


「あぁ、そういうのは僕もある。

 自領のこともよく知らないし、自分の強さもよく分からない」


「確かにハクの強さはよく分かんないな。

 大人の強い獣人がどれくらいなのか見ることもないし、まだ分かんないよな」


「美味しい肉料理の店とかもね」


「そうだな。今日のお店は美味しかった。

 初めて食べた味付けもあったぞ」


「そうだね。

 クロムウェルも来たかっただろうね」


「今度来るときに声かけようぜ。

 アイツがギルドライセンス持って無くても大丈夫そうだし」


 クシシ、とネグロスが意地悪な笑みを浮かべる。


「多分、僕たちと違ってもう持ってると思うけどね?」


「登録試験に落ちてて持ってない可能性もあるけど?」


「そのときは特訓してもらって、早めにライセンスを取らせよう」


 そんな風に軽口を叩き、明日の素材採取の成功を確信して宿に戻った。




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