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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第三章 碧玉の森
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第八十四話

 

 学院に通い始めて五日。

 始めての休み。

 日本にいたときと同じ。五日学校、二日休みのカレンダーで急に休みになったので、一人で西大公都バスティタにやって来た。


 西大公都バスティタは三重の城郭からはみ出すようにして今も街が大きくなっている。


 一番内側が大公都城の塔と城郭で、そのすぐ外側には濠があり橋を渡らないと城、という名の要塞の中央には入れない。

 大公都の外から見ると高く厚い城郭の奥に高い塔が四本だけ見える。


 その外側には貴族街があり、一段低い城郭に囲まれた内側は限られた貴族が住む貴族街になっている。

 貴族街には貴族院があり、貴族たちによってバスティタ自治領が運営されている。

 貴族と一部の限られた兵士、商人しか入れないようなエリアは城郭にある大きな門を通らないと入れない。


 その外側にあるのが旧市街。

 真っ直ぐな大通りから小道が複雑に入り組み、石畳の通路の上に大小の石造りの建物が連なっている。

 各種のギルドがあり、歴史ある宿屋、商家に各種工房が並んでいる。


 そして城郭の外に新市街。

 城郭の四方にあるの門から伸びる大通りは幅三十メートルもあり、旧市街への物流を支えている。

 雑多な街並みの中には飲食店なども多く、あちこちでいい匂いがしてる。


 ハク・メイクーンの身分証明証とバスティタ学院の身分証を持って旧市街に入ると冒険者ギルドを探した。


 ……体力トレーニング、魔法トレーニング、剣術トレーニング。

 トレーニングもいいけど、鍛えるには戦いも必要だろう。

 大公都の近くに狩場があればそこで狩りをしたい。






 しばらく歩き回って見つけた冒険者ギルドはレドリオンの冒険者ギルドよりも縦も横も一回り大きかった。


 入口を入ると当然のように子供を軽んじる態度を感じる。


 ニヤニヤとした端の方のテーブルに座ったオヤジ冒険者たちの視線を無視して、カウンターに向かう。


 パッと見、五人の受付嬢がいるけどどうしようか?


 そんなに頻度は多くないかも知れないけど、これから長く付き合うことになるだろうギルドだ。

 レドリオンのリナのことを思い出しながら、ちょっと離れたところから観察してると、端の受付嬢が立ち上がって声をかけてきた。


「お客様、ご用件があればお伺い致しますが……」


 丸い顔、低い鼻、長毛で少し縮れた毛。

 中央に寄った青い目で白い毛の中に鼻を中心にしてグレーが広がっている。

 黒い耳はツンとしてピクピクと動いてる。

 若いヒマラヤン種の女性のようだ。


「はい。冒険者登録をお願いしたいです」


「分かりました。どうぞ、こちらへお座りください」


 そう言って受付カウンターの座席へ案内してくれる。

 受付嬢はずんぐりむっくりとした体型だけど姿勢が良くて動きがしなやかだ。


「では、受付をさせて頂きます。

 私は冒険者ギルドで受付を担当しているケイトレンジです」


「僕はハク・メイクーンです。

 バスティタ学院に入学したので、大公都の近くで狩りができたらありがたいんですけど」


「あ、バスティタ上級学院ですか?」


「はい。そうです」


「それでしたらバスティタ学院の身分証を見せて頂けますか?」


「これです」


 バスティタ学院の身分証を差し出すとケイトレンジが内容を確認する。


「今年の入学生で魔術師コースですね。

 既に何名かの方が登録試験を受けておられます。

 これからすぐに登録試験を受けられますか?」


「はい。お願いします」


 既に何名も来てるとは驚きだ。

 ケイトレンジに案内されて裏の訓練場に行くと確かに二十名近くの子供が並んでる。


 訓練場はレドリオンよりも小さくて、中央に一人試験官らしき獣人がいる。

 その獣人はベージュとグレーが混ざったような毛色に、骨太な骨と太い尻尾。

 山猫(リンクス)のようだが、かなり大型だ。


 一人で順番に相手してるのか?

 並んでる列を見ていくとネグロスがいる。


「列の最後に並んでお待ちください。

 これから後は列の先頭にいるギルド職員の指示に従ってください」


 そう言ってケイトレンジが去って行った。

 確かに列の先頭には男性のギルド職員がいるようだ。

 僕は列の後尾に向かって歩きながら、ネグロスに声をかける。


「おはよう。ネグロスもいたんだ?」


「ハクも来たのか。

 あの試験官強いぞ」


「へぇ、始まったばかり?」


「あぁ、ある程度溜まってから試験するみたいだ」


 軽く言葉をかわして列の後ろに並ぶと、生徒が一人前に出て試験官の方に歩いた。

 一言挨拶をかわすと自分の剣を抜き構える。


 へぇ、自分の剣でいいんだ。


 生徒が構えて剣を打ち込むと試験官の木刀で軽くいなされ、そのまま懐に入られる。

 一気に腕を取られてクルリと投げ飛ばされた。


 一瞬の出来事だ。


「不合格。

 もう少し鍛えて来な」


 試験官は起き上がった生徒に声をかけると、列の先頭にいるギルド職員に手を上げて合図する。


「次の方、前に進んでください」


 ギルド職員が声をかけると次の生徒が緊張しながら前に進む。


 剣を抜いて構え、剣を振るとアッサリと木刀で流されて体勢が崩れたところを懐に入られて、腕を取られて投げられる。先ほどの生徒の試験と同じ光景だった。


「不合格。

 もう少し踏み込みから斬るところを速くした方がいいな」


 転がされた生徒が土埃を払って立つと、ギルド職員が新しい生徒に声をかける。

 淡々と試験が進んで行く。


 上級学院の生徒とはいえ、八歳で冒険者証を手に入れるのはなかなか大変なようだ。


 レドリオンの試験官ジェシーよりも厳しい試験だと落ちるかも知れないのでしっかりと観察していると、十数人が落ちてネグロスの番になった。


「次の方、前に進んでください」


「はい」


 ネグロスが中央に進み、剣を抜く。

 今日は二刀流だ。

 両手に細剣を握り、左手の剣先を胸の高さ、右手の剣先が膝の高さになるように構えてる。

 左手で突きながら、右手で相手の下半身を牽制するのだろうか?


 ネグロスが半身に構えたところから突きを放ち、すかさずそれが試験官の木刀で流された。


 が、ネグロスの体勢は崩れずに伸ばした左手の細剣と新しく振った右手の細剣で試験官を挟むように攻撃する。


 懐に入れなかった試験官が一歩後ろに下がって右の剣を避けると、そこから木刀を振り上げ真っ直ぐに剣を振り下ろしてくる。


 ネグロスは両手の細剣を交差させて木刀を受けると、左手で左に流し、右手でガラ空きの胴を狙う。


 試験官が更に一歩下がってネグロスの細剣をかわすと距離が空いた。


「合格。Fランク」


 おぉ! 初の合格だ。


「ありがとうございます」


 ネグロスは細剣を仕舞うと列の方に戻って来た。


「おめでとうございます。

 この紙を持って受付に行ってください。

 ライセンス証を発行します」


 ギルド職員が丁寧に告げると、ネグロスは意気揚々と冒険者ギルドの建物に入って行く。


 ネグロスが合格した。

 とりあえず勝たないと合格できない、なんてルールじゃなくて良かった。


「次の方、前に進んでください」


 次の生徒の試験を見ながら、試験官は何を見てるのかを考える。


 ネグロスがしたことを振り返ると、攻撃が流された後も試験官を懐に入れず攻撃して試験官を下がらせた。

 試験官から攻撃されたときもそれを受けて攻撃で切り返した。


 ……まぁ、そんなに考えなくてもいいか。

 負けない、じゃなくて勝てばいいんだ。

 ジェシーのつもりで戦えばいいだろう。






 その後もバスティタ上級学院の生徒たちは負け続けて僕の番になった。

 僕の後ろには五人ほど増えたけど、大体は初撃で投げ倒されるので試験の進みが早い。


「次の方、前へ進んでください」


「はい」


 ギルド職員に言われて前に進むと、試験官と目が合う。

 ……あぁ、試験官だ。

 こちらを確認するように用心深く見ている。


 僕の装備を見て経験を予測して、身のこなしから武術の練度を確認している。

 僕が日本刀を抜くとその刀身を睨み、身体全体の隙を探ってくる。


 僕は日本刀を正眼に構える。


 試験官は僕の日本刀をじっと見てる。


 予め魔力を流して警戒させるか?

 それともいきなり斬るときに魔力を流して、一気に勝負をつけるか?


 わざわざ力を隠すような戦い方をしても面白くないな。

 レドリオンのジェシーとどれぐらい違うか僕が試してやろう。


 鉄の日本刀。

 微かに蒼光銀(ミスリル)が混ざっている鉄でできている。

 その剣の魔力を流すと淡く光って、日本刀が仄かに光り続ける。


 さぁ防げるかな?


 日本刀を振り上げると同時に一気に飛び込む!


 最短距離で日本刀を振り下ろす。


 おいっ!


 試験官の木刀が遅い。


 ヤバイ!


 斬ってしまう!




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― 新着の感想 ―
[一言] 二重登録って普通ありえないと思うけどね。地域ごとに新しく作るとかシルバーがコイツでなければ別だが
2022/01/24 16:50 退会済み
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