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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第三章 碧玉の森
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第八十三話

 

 昼食を済ませると、午後からの魔法練習だ。


 魔法の練習といっても何をすればいいのか?


 午前中のランニングのように、今の能力に負荷をかけて伸ばす方法もあるけど……。


「クロムウェル、お前どうやって魔法の練習するんだよ?」


「どう? って言われてもなぁ」


「ハクはどうすんだ?」


 僕と同じように何をするか考えて、いい案が出なかったんだろう。ネグロスがクロムウェルと僕に聞いてきた。


「う〜ん。とりあえず魔法を使える人が何するか見る」


「そんなんで魔法が使えるようになるのか?」


「いや、いいな、それ。

 まずはお手本になりそうなクラスメイトを探そう」


「えっ? それでいいのか?」


「あぁ、私たちはまだ新人だから師匠になりそうなヤツの真似をするのがいい。

 昨日、魔法を使ってたヤツもいるしソイツの分析からだ」


 三人で訓練場の端から周りを見て探す。


 一番分かりやすいのは中央で火魔法と土魔法を使ってるお嬢様三人組。

 真っ白セラドブランとペルシャ種のパスリムが女騎士のノアスポットの左右に並んで魔法を唱えてる。


「……あれはダメだな。

 凄すぎて真似できない。

 もっと地道な練習してるヤツを探そう」


 僕がそう言って地面に座り込むと、ネグロスとクロムウェルも並んで座った。


「魔法が使えない連中は声出したり、両手を前に突き出したりしてるが、あれは、何をやってるんだ?」


「クロムウェル、ついさっきまで俺たちもアレになりかけてたんだからな……」


「それよりも、そもそも僕たちと同じ属性っていたかな?」


「私が水」


「俺が木」


「僕が金。

 今、魔法使ってるのは火魔法の人ばっかりだよね。

 お嬢様もだし、パスリムは土魔法かな。

 あ、あそこで水出してる」


 僕が指差すと二人も端の方で座ってる三毛猫の少女を見る。


 彼女はじっと正座して手を突き出し、その手の間、胸の前に水の玉を作ってる。

 彼女の作った小さな水の玉が徐々に大きくなって彼女の頭ほどの大きさになると手を下ろして、水の玉も地面に落ちる。


 そうするとまた同じ動作で水の玉を作り始めた。


「あれ、何やってるんだ?」


 自分も水属性のクロムウェルが疑問の声をあげる。

 掌の上じゃなくて、手と手の間、か。


「何って、集中して練習してるんじゃない?」

「恐らく集中して魔力を水に変えてるんだろう」


「魔力を水に変える?」


 クロムウェルが僕の言葉に反応する。

 僕が日本刀を作ったときは地中から日本刀を呼び出すイメージだったけど、魔力で作ってたのか?


 五行の相生では、金属は土の中にあって土を掘ることで得られる。


 ……土を鉄に変えてた?


 でも、彼女は空中に水の玉を作っている。


 ……。


 ……。


 いきなりは難しいか。

 腰鞄(ポーチ)から原生樫(プリミヴァルオーク)の杖を三本出すとネグロスとクロムウェルにも渡す。


「この杖は魔力の通りがいいはずだから、この杖の先端に魔力を集中してみるよ」


 胡座をかいて座禅のような姿勢のまま、杖を両手で握り真っ直ぐに構える。

 杖の先端が胸の前にくるように構えると、ゆっくりと魔力を流した。


 この状態から、魔力を鉄に変える。

 鉄と言っても色々あるので以前銀の黄金虫(アルゲントゥ・ミネラ)に作ってもらった鉄礫(てつつぶて)をイメージして魔力を杖の先端で丸く凝縮すると、小さな鉄の玉が出た。


「出た」

「「おおっ!」」


 日本刀が作れるんだから鉄の玉ぐらい作れるよな。っていう当たり前の感覚と、こうやって作ってたのかという納得感が湧き上がる。


「これでいいのか?」


 しかし違和感もある。

 皆んなと何か違うような……。


「ハクさん、貴方、鉄の剣をくっつけていましたわよね?」


 突然、セラドブランお嬢様から声がかかる。


「あ、あぁ。

 そうです」


 驚きで狼狽えながら答えると、更に一歩踏み込まれた。


「朝の続きをして頂けますか?」


 セラドブランお嬢様の後ろに控えてる二人も含めて圧迫感が凄い。

 ネグロスとクロムウェルも軽口を叩ける雰囲気じゃない。


「はい。

 その代わり魔法について教えてもらってもいいですか?」


「えっ?

 いいですわ。それぐらいのことクラスメイトでしたら当然ですわ。

 貴方の魔法の秘密を暴くのに比べたら簡単なことです」


 ……僕の魔法の秘密?

 よく分からないことを気にしてるな。


「では、これからお見せするので終わったら、魔法の訓練でどのようなことをするといいか教えてください」


 胡座から立ち上がると、言いながら腰鞄(ポーチ)から二つに折れた鉄剣を出す。

 今朝、教室で斬って見せた鉄剣だ。


 柄を右手で握り、左手は親指と四本の指で刀身を挟むようにして持った。

 目の前で鉄剣の折れ目が合わさるように左右から鉄剣をくっつけると、魔力を流して接合面を溶かして癒着させる。


 軽く振って鉄剣がくっついたことを確認して見せる。


「こんな感じ」


 くっついた剣の持ち手を渡して確認してもらう。


「えっ?

 今、詠唱がなかったように思いますが……?」


「でも、セラドブラン様、一本にくっついています」

「一瞬、魔力が一つに繋がったように感じました」


 ノアスポットとパスリムも剣の様子を見て慌てたように説明している。


「金属性でも、このような魔法は聞いたことがありません。

 一体、何なのですか?」


 若干咎め立てするようなニュアンスを感じるのは僕だけか?


「何? と言われても……」


 逃げ場を探してネグロスたちを見るけど、彼らも困惑してる。

 セラドブランの後ろにいるノアスポットとパスリムを見ると、何故かこっちを睨んでるし。


「このような魔法は聞いたことがありません。

 金属性は土の中に含まれているので取り出すのが難しく、習熟した魔術師でも何段階かの工程を踏まないと鉄を取り出すことができないはずです」


 いかにも私が正しいとセラドブランが言うけど、できたんだから受け入れて欲しいものだ。

 あまりにも真剣なのでちょっと悪戯したくなる。


「くっつけるだけじゃなくて、もう少し派手なこともできるよ」


 三対三で向かい合ってる中で、右膝をついて右手を地面についた。


 五人の視線が僕に集中するのを感じてから、日本刀を念じる。


 ……来い。


 ……来い。


 ……オレの日本刀。


 ……とびきり冴え渡る蒼身の日本刀。


 ……来い!


 掌に硬さを感じると、しっかりと握って土の中から日本刀を抜いた。


「「「「「あっ」」」」」


 いい出来だ。

 少しだけ反りの入った日本刀。

 いつもより蒼味が強く感じる。

 蒼い刃文が互の目(ぐのめ)に浮き上がり、丸い紋様が波打つように刀身に出ている。


「こんなこともできます」


「いえっ、あ、あり得ないわ」


「そう言われても……。

 僕は剣が欲しいって願って、この技ができるようになった。

 セラドブランさんはどんな風にして魔法の訓練をしたの?」


「仕方ありません。

 謎を解くのは後回しです。

 まずは約束を果たしましょう」


 そういうとセラドブランは木の杖を魔法鞄(マジックバッグ)から取り出した。

 永精木(エタニティウッド)だと思うけど、何の木かまでは分からない。


「私が習ったのは、この杖を使って詠唱を唱え続ける方法です。

 自分の得意な属性が分かれば比較的簡単です。

 どの魔法属性にも基本的な魔法の詠唱があるので、それを唱え続けるのです。

 見本を見せましょう」


 そう言うとセラドブランは右手で杖を持ち姿勢良く立った。


「火の神ヴェスタリアム、我が言霊に応えよ。

 我が差し出すは我が力。

 我が願うは汝の力。

 汝の力で敵を燃やせ。

 我が力を重ねて燃やせ。

 火炎槍(ファイアランス)


 ゆっくりと詠唱すると右手の杖を突き出し、その動作に合わせて空中に火炎槍(ファイアランス)が現れ、彼女の指し示した方向に飛んで地面を焼いた。


「「「おぉ〜」」」


 男性陣が感嘆の声を上げてる。


 シルヴィア姉さんの詠唱と違った気がするけど、まぁいいか。

 問題は火魔法は誰も使えないんだよな。

 火魔法の詠唱を知ったところで活かせない。


「ありがとう。凄いね。

 ただ、僕らは火魔法が得意じゃないんだ。

 どうやったら、他の属性の基本詠唱が分かるかな?」


「そう。火魔法は綺麗なのに残念ね。

 基本詠唱なら学院の図書館にあるんじゃないかしら?」


「分かったよ。本当にありがとう。

 これが糸口になるといいんだけど、とにかく調べてみるよ」


「これくらいどうってことないわ。

 また分からないことがあったら声をかけて頂戴」


 そう言ってセラドブランはノアスポットとパスリムを連れて訓練場の中央の方へと戻って行った。


「助かるよ」


 その背中に声をかけながら、詠唱と杖について考える。

 セラドブランとの会話を振り返ると、ネグロスとクロムウェルは全然話さなかったことに気づく。


「二人も何か聞けば良かったのに」


「いや、お嬢様の身分によっては変なことを喋れないだろ。だから、様子見でいいんだ」


「それに魔法のことは何も分からないから、質問しようがないんだよ」


 ネグロスとクロムウェルはそんな風に言い訳して誤魔化した。




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