第八十二話
翌日、学院に登校するとあちこちでグループができて話をしている。
昨日の各自のアピールでお互いの共通の話題もできて朝からアレコレ話してるようだ。
各自で話してるけど三人のお嬢様たちが話題の中心だ。
「やっぱりあのお嬢様たちは別格だよな。
装備からして違ったもんな」
「あぁ、あの透ける重ね生地のローブや綺麗なレイピアだしな」
「二人は蒼光銀のレイピアと剣だったし、黒いローブの子は深淵黒檀の杖だったな……」
「なにっ? ハク、どうした?」
「まさか、見ただけで分かったのか?」
僕が三人のお嬢様たちの武器の材質を言ったら驚かれる。
……言われてみれば僕も迷宮に入るまで何も知らなかった。
「ハク君、昨日の技について教えて欲しいんだけど」
クロムウェル、ネグロスと三人で話してたら、クラスメイトの女の子たちが話しかけてきた。
虎模様の子とグレイの子、斑らの子だ。
……名前はまだ覚えていない。
「おはよう。昨日の技って言うと?」
「ハク、ちゃんと俺たちにも教えてくれよ。
あの鉄剣を斬った技と、鉄剣をくっつけた技だよ」
「あぁ、あれね。
斬る方は気合い、くっつける方も気合い」
「いや、ハク、それはムリだわ」
「本当、私も見たことないもん」
「だって、他に説明しようが無いし……」
どうやって伝えようかと考えてると例のお嬢様たちが登校して教室に入って来た。
しかも、何故か真っ直ぐ僕に向かってく来るし。
「メイクーンさん、でしたわね。
お時間よろしくて?
昨日の技について教えて頂きたいのだけど?」
ひぃえぇ〜。
何か恐い。
「あ、はい。
それでしたら、今、話してたところなので、ご一緒にいかがでしょう?」
「ええ、よろしくてよ」
何故か、急遽、僕の座席の周りに円形に椅子が並べられてみんなが僕を囲んで座った。
ぐぇ。
顔が引き攣りそうになる。
「一応、さっきネグロスが言ったように二段階に分けて説明します」
こうなったら仕方がないので、僕の理解で話すしかない。
多分、このクラスにいると言うことはそのうちまほを使えるようになるだろうし、他にも金属性の獣人がいれば僕のやり方をどう捉えるのか聞いてみたい。
「まず、一つ目は木剣で鉄剣を斬った方。
これは永精木と言われる魔力と馴染みやすい木剣が必要です。
詳しくは知らないけど、普通の木剣だと無理だと思う。
たまたま訓練場にあったから使わせてもらいました。
その木剣に魔力を流すとちょっと光ります。
そこで、魔力が散らないように抑え込むと鉄剣より硬くなるから鉄剣を斬れるようになります」
「ハク君はその永精木の剣って持ってないの?」
「実際にやってみせて欲しい」
クラスメイトたちは何も知らないのか、結構勝手だ。
「残念ながら持ってなくて……。
あ! 似たようなものならあるからちょっと待って」
僕は腰鞄から原生樫の杖を出した。
出した瞬間、皆んながギョッとする。
あ、腰鞄のことは伝えてなかった。
お嬢様たちが普通に持ってたから、つい普通に使ってしまった。
……スルーだ。
ここで説明してたらキリがない。
「これは永精木の一種、原生樫でできた杖です。
魔力の通りがいいので、魔術師の方には高く取引きされるようです」
あ、高く取引きされるって言ったら、どうして僕が持ってるのか? って聞かれるとマズいな。
とりあえずスルーして、金額的な話はしない方向でいこう。
どうせなら鉄剣も必要か。
続けて腰鞄から骸骨が使ってた一本銀貨五十枚の鉄剣も出した。
「この鉄剣はとりあえず置いといて。
こっちの杖は魔力を流すと明るく光ります」
実際に実演して、軽く光らせる。
魔術師だったら、ここから魔法を使えるはずなんだよな。
「それで、今の明るい状態はこの杖から魔力が抜け続けている状態です。
この状態だとイマイチ弱いので、魔力が散らないように、グッと抑え込みます」
杖に魔力を纏わせて散らないように抑えた。
杖の光が少し弱くなる。
「この状態が魔力で強化してる状態です。
この状態だと、鉄剣と打ち鳴らしても木の杖の方が硬いです」
鉄剣で叩いて実演すると、キンキン鳴って木の杖が斬れないし折れないのが分かった。
皆んなもそういうものかと、何となく理解してくれてる。
「この状態で鉄剣を斬ると、斬れます」
二つの机の上に渡しハシゴのように鉄剣を乗せると、上から杖で鉄剣を斬る。
キィンと音がして、剣を杖で両断した。
おぉぉぉ。
皆んなが感心した眼で僕を見る。
お嬢様たちはまだ疑い深く見ている。
「ここまでが前半ね。
後半は斬って二つにした鉄剣を加工します」
そう言って原生樫の杖を腰鞄に仕舞った。
そこで、タイミングよくジュビアーノが教室に入ってきた。
「はーい。楽しそうなことやってるけど、おしまいよ。
授業始めるよ」
皆んな渋々と座席に戻っていく。
ジュビアーノがその様子を見ながら言う。
「このバスティタ上級学院の授業だけど、基本は訓練。
これは持論だけど、強くなるには自分で考えて自分で鍛えるしかない。
最初は教わった方が効率的な面もあるけど、どこかでその教えを超えなきゃならない。そうじゃなきゃそれ以上強くなれない。
だから、自分で考えて自分を鍛えることを学ぶ」
聞いてる生徒の一部が怪訝な表情を浮かべてる。
そりゃそうだ。
学院に入ったのに、自分で強くなれってことだよな。
「今月は午前中に演習場で体力向上、午後から訓練場で魔法練習、夕方に演習場で武闘訓練とする。
上級生は別の演習場を使うから、あの場所を自由に使っていい。
昨日、同級生の走りや色んな技を見ただろう。
まずは自分で盗んでみろ。
二週間後に再度、ランニングとアピールを行うから、それまでに今の自分を超えろ。
いいな!」
ジュビアーノはそういうと教室を出て演習場に向かって歩き出した。
「最初の一ヶ月はこの演習場での魔法は禁止だ。
魔法はフェンスのある訓練場で練習すること。
フェンスの中なら、多少の魔法はフェンスで止めれる。
演習場みたいな広いところでパカスカと魔法を撃つんじゃないよ。
魔法のコントロールを身につけたら演習場でも魔法を使っていいが、それまでは無茶はしないでくれ」
演習場に着くなりジュビアーノが言った。
魔法の練習をしたいのにあの訓練場の中じゃないとダメなのか。
「それじゃ、まずは走りな。
体力がなけりゃ戦えないよ。
あ、今週は森の中には入らないこと。まずは平地で色々考えて色々試してみな」」
ジュビアーノの言われて皆んなが走り出す。
……どうしたらネグロスたち上位陣に勝てるか?
平地の走り、森の中の走り、上りもあれば下りもある。
……いや、違うな。
仲間に勝つのもいいが、それよりも大事なのは魔物に勝つことだ。
どうしたら魔物に勝つ体力が身につくか、だな。
……思い出せ。
迷宮の奥でも動き続けるには、戦い続けるには何が必要だ?
……走るだけじゃなくて、戦う力か。
仕方ない。
重りでも出すか。
腰鞄から骸骨の盾を出す。
盾を二枚出して片手に一枚ずつ持って走ることにする。
「ハク、突然どうしたんだ?
って言うか、やっぱそれ魔法鞄だよな。
何でそんな貴重なアイテム持ってんだよ?」
突然、腰鞄から鉄製の盾を二枚出した僕に対してネグロスが色々言ってくる。
「お前ら、はぁ、何で、そんな、余裕が、ある、んだ?」
クロムウェルは既に息が切れて、ついてくるのに必死そうだ。
胸当てとかしてるし黒地のマントもあるから明らかに僕たちよりも走り慣れてない。
……大変そうだ。でも、とりあえずは行けるところまで頑張ってもらおう。
「ちょっと負荷を上げようかと思って。
剣を振り回し続けれる力が欲しいから」
「おぉ〜、何かちゃんと考えてるな。
それじゃ、俺もちょっと変えようかな」
そう言うとネグロスは走りながら左右にステップを入れだした。
器用な走り方だ。あんな走り方を続けれるなんて、そりゃ森の中でも速いわ。
唖然としてる間にドンドンと離されていく。
くぅ〜、もう少しはついていきたい。
盾の重さに振り回されながらも、バランスを崩さない走り方を探しながら走る。
いっそのこと、シールドバッシュのつもりで前に構えて走った方が速いか?
両腕を身体の前に構え、盾を前面に押し出しながら走ってネグロスを追いかける。
腕を振れないので走りにくいけど、走り続けるのは楽になった。
後はスタミナだ。
演習場の広さは際限がない。森はあるけど、その横には見渡す限り平原が広がっている。
どこまで広いのか?
たまにジュビアーノがいる位置を確認しながら、走っては戻りを繰り返して演習場を走り続ける。
ジュビアーノが笛を吹いて皆んなを集めるまで走り続けた。
学院の食堂でお昼を食べるときには腕がプルプルと震えてネグロスに笑われたけど、クロムウェルは足がプルプル震えてる。
一朝一夕で体力はつかないのだから、できることをやるしかない。
あ、他のクラスメイトがどんな訓練してるか見とくべきだったな。研究を忘れてた。




