第七十六話
またジェシーに連れられて領軍に行く。
今回はちゃんと報告するつもりで準備してたのに、どうしてこうなった?
指示されて腰鞄に死体を仕舞っただけなのに、死体が消えて胡乱な目で見られるし。
ジェシーだけじゃなくて、大勢に魔水薬を配ったのに、妙な空気になったし。
みんな疲れてたから先頭に立って十五階層まで案内したのに、十五階層に着いたらほぼ全員がヘンリーみたいな対応をしてくるし。
確かに十五階層まで一人で魔物を殲滅しながら歩いたけど……、気を使って速すぎないようにゆっくり歩いたのに。
何故か名前も知らない冒険者たちからやけに丁寧な対応をされた。
……解せぬ。
唯一の例外は碧落の微風のメンバーだ。
彼らが親しげに近づいて来ると、Bランクの冒険者たちが遠巻きにして会話に聞き耳を立てていた。
彼らは十五階層に入るのが初めてだったようで、かなり興奮している。
ミユが相変わらずベタベタと心配して来て、ボロンゴが興奮して喋りまくってるのを見てたジェシーやハヤテが苦虫を潰したような表情をしてて、少し笑った。
冥界の塔を出ると、ギルドマスターのギャレットが待っていた。
彼も僕を見るなりげんなりした表情になった。
「どうしてお前がいる?」
「上の階層から下りて来たら、新人狩りに襲われました」
「ジェシー、どういうことだ?」
「いや、我々が二十階層に追い込んだところで、シルバーが下りて来て、かち合ったんです」
「……それで?」
「三人の新人狩りがシルバーのところを抜けようとして、逆にシルバーに返り討ちにあって、全員死にました」
「なっ?
……結局、新人狩りは何者だった?」
「妖精人のようです」
「はぁ? ちょっと待て。
……そのことを知ってるのは?」
「俺とシルバーだけです。
シルバーが死体を魔法鞄に入れてます」
「分かった。それは領軍で報告する。
それにしても、何でみんな微妙な雰囲気なんだ?
無事に新人狩りを討伐したんだろ」
「それも、コイツのせいです。
新人狩りが十五階層に現れてから、俺とBランクの選抜メンバーで必死に追って二十階層に行ったんですけど、そこにいきなり現れたコイツが一瞬で倒してしまって、肩透かしというか、何コイツ、みたいな雰囲気になってしまって」
「あぁ〜、なるほど」
「おまけに二十階層から下りるときにコイツが先頭に立って道案内してくれたのはいいんですが、……何というか、ムチャクチャなスピードで魔物を殲滅していくわ、死体の中から確実にアイテムを見つけていくわ、で、結局全員が何もせずについて行くのに精一杯だったので……」
「あぁ〜、それは災難だったな」
ジェシーとギャレットの目が遠いところを見ている。
……僕が悪いんでしょうか?
「本当、お前は一体何なんだ?
そもそも何で蒼光銀の剣を二本も持ってるんだ?」
ジェシーが羨ましそうな目で僕の剣を見る。
……これはただの仕舞い忘れです。
新人狩りを倒した後、急に隠すと変かな、と思ったけどやっぱり目立つのね。
「続きは領軍に戻ってからだ。
今回の作戦に参加したパーティは解散してギルドで報酬を渡す。
シルバーはこのまま領軍で取り調べだ。
恐らくBランクパーティのリーダーは後日内容確認だ」
ギャレットが声を張ってみんなをねぎらうと三々五々帰って行った。
大勢いる冒険者の中に見覚えのある黒猫を見かけたが、この後の予定が詰まっていて追いかけることができなかった。
領軍に着くと前回と同じ査問専用の会議室に連れて行かれる。
今回の議題は何になるのか?
今日はギャレットは最初から座っていて難しい顔をしてる。
しばらくして扉が開くとジャガーのツァルデ将軍とチーターのメリクス団長が入ってくる。
赤獅子公爵は来ないようだ。
そっとギャレットの方を見ると心なしかホッとしてる気がする。
二人が入って来て扉が締まったので、今回はお偉いさん三人と僕とジェシーだけで査問のようだ。
「では、早速ギルドで行った新人狩りの討伐報告とシルバーの迷宮攻略についての合同報告会を始めます」
おぉ、査問じゃなくて報告会だ。
「冒険者ギルドのジェシーから新人狩りの討伐について経過報告を」
ギャレットに指示されてジェシーが報告を始める。
「先日、二件の新人狩り未遂事件がありました。
一件目は暁、二件目は碧落の微風が襲われましたが、無事に逃げ出し冒険者の殺害を狙う一味の存在が判明しました。
ギルドでは事前に調査を始めており、既に八組、四十三名が行方不明になっています。
そこで本日、Bランクパーティ五組を含める二十パーティ、百名体制で冥界の塔に入りました。
五チームに分かれて調査を行い、一番早いチームが十五階層に入ったところで新人狩りに襲撃されました。
新人狩りは三人組の妖精人でした」
「妖精人?」
「神話の生き物では?」
ツァルデ将軍とメリクス団長が怪訝な顔をしたけど、ジェシーはそのまま説明を続ける。
「十五階層で襲撃されたのですが、すぐに他のチームが合流したので三人組は撤退しました。
こちらはメンバーを編成し直してBランクパーティのみで追跡を行いました。理由は三人組が三人とも魔術師で魔法を使ったので被害を抑えるためです。
三人組は魔物の出る通路を通って逃げたため、なかなか追いつけず二十階層の大通りでやっと視界に捉える距離まで近づきました。
後続のパーティも合流して徐々に三人組を追い込みました。
三人組の逃げる先には開かない扉しかなかったのですが、三人がそちらに逃げるとその扉が開きここにいるシルバーが出て来ました」
ジェシーはご丁寧に僕を紹介してくれた。
開かない扉のところでもツァルデ将軍とメリクス団長が怪訝な顔をしていたけど、スルーだ。
「三人組は扉に逃げ込もうとしてシルバーに魔法攻撃をしましたが、全てシルバーに防がれました。
その後も何度か魔法攻撃を行ったのですが、全てシルバーに防がれた上、シルバーに返り討ちになり一瞬で斬り伏せられました。
シルバー、死体を出してもらえるか」
ふぅ、ここでバトンタッチらしい。
腰鞄から三人の死体を出す。
黒いローブを着た真っ白い顔の死体だ。
死体を並べた後で黒いフードを外すと白い顔が露わになるが、その顔は獣人のものではない。
獣耳もなく、神話に出てくる尖った耳をしている。
「追跡中のことですが、獣人を蔑む発言をする者もいました」
死体を見て思い出したようにジェシーが追加した。
「では、私からも報告させて頂きます。
私は先日から冥界の塔の未達階層に挑戦していました。
詳細は後ほど報告させて頂きますが、四十階層へ行き帰ってきたところでした。
二十階層と二十一階層を隔てる扉。
これは階層主を倒すか、階層主が倒されて不在のときしか開きません。
階層主を倒し、上層階へ行って来た私はその扉に戻って来ました。
そして扉を開けた私は理由もなく突然魔法攻撃を受けました。
ジェシーさんたちが追い込んだ三人組が私の元へ特攻してきたのです。
立て続けに魔法攻撃を受け、黒いローブの正体は魔物かと思いました。
しかし、何かを喋ってるようでもありました。
攻撃を防ぐと再度魔法を撃ってきました。
また防ぐと再び魔法を撃ってきました。
魔術師が三人です。
威力もあり、攻撃スパンも短かったです。
動きを止めても、魔法を止めないとダメだと思いました。
私の間合いに入って来たので、斬りました。
以上です」
ツァルデ将軍とメリクス団長だけでなく、ギルドマスターのギャレットも何かを考え込んでいる。
「ジェシー、三人組の腕前はどれほどだった?」
「Bランク五パーティ、二十名で一度も攻撃を当てられませんでした。
風魔法使いが二人、火魔法使いが一人。
詠唱は短く、何種類かの魔法を使い分けていました」
「シルバー君、妖精人を見たことは?」
ツァルデ将軍からご指名が入ってしまった。
「ありません。
ジェシーさんに言われて初めて知りました」
「妖精人は冥界の塔で何をしようとしたのか?」
「取り返そうとしたのでは?」
太陽の方尖碑との会話があるからか、ついそう言ってしまった。
「ふむ。
ジェシー、君はどう思う?」
「はい。獣人を嫌っていたので何か罠を仕掛けようとしたのかもしれません」
「ふむ。三人が亡くなったので、首謀者は突き止められんか。
新人狩りについては以上とする。
今後、妖精人については秘匿し、盗賊崩れの夜盗の仕業とする」
「「「はい」」」
「続けてシルバーの迷宮攻略の報告会を始める」




