第七十五話
太陽の方尖碑と契約したオレはアマテラスと名付けた。
由来からすると妖精人風の名前の方が良かったかもしれないが、変に意識するのも良くない気がして猫宮の記憶から太陽関連の名前を引っ張ってきた。
太陽の方尖碑も気に入ったみたいだから、いいだろう。
全く動けない太陽の方尖碑は銀の蜥蜴みたいに眷属を紹介してきた。
風の隼と言って、普段は風になってあちこち舞っているらしいが、気が向くと隼の姿になって顕現するらしい。
ヴェネットと名付けたら、コイツも気に入ったらしくオレの肩に乗っている。
風だからか、精霊だからか、全く重さを感じない。
オレの頭と同じぐらいの大きさなのに……。
銀の蜥蜴のときと同じで迷宮核を預かり、代わりに偽核を設置した。
銀の蜥蜴の迷宮核は透明だったけど、太陽の方尖碑の方は金色だった。
偽核として五十階層で手に入れた水の入ってる魔晶石を設置しておいた。
魔力を込める時間が前回より早く済んだので、何が違うのか不思議に思った。
オレが強くなったのか?
魔晶石に魔力がたくさん溜まっていたのか?
そんな風にして五十一階層を後にして、冥界の塔を降り始めた。
迷宮は上がるときはドキドキ興奮するが、下るときは作業になってしまう。
知ってる魔物しか出ないし、上がるときに神授工芸品を拾っているので、特に拾うものが無い。
しかし、今回はそれを考えて最初から最短距離で上がり、下るときにも戦闘をして多少アイテムを拾っていく予定にしている。
気が利くことにオレが多頭邪龍や蟷螂野牛と戦っていると、風の隼が鱗梟のような空中の魔物を倒してくれる。
目の前の敵に集中できるのはありがたい。
チョロチョロされたり、変なダメージをもらうことがないのでストレスも少ない。
太陽の方尖碑は動けないかもしれないが、眷属の風の隼は凄く助かる。
下手すると風の隼に任せるだけで、戦闘せずに帰れるぐらいの速さで飛び回って魔物を倒して行く。
あまりにも速いのでオレが戦闘してる間に神授工芸品を探してもらったら、次々と案内してくれるようになった。
今度は全ての神授工芸品を独占できそうな勢いだ。
凄すぎるので一定のエリア内だけで探してもらうことにした。
流石に神授工芸品があるからと言って、全部拾っていたらいつまで経っても帰れない。
それぐらいの数の神授工芸品が落ちてる。
探索が進んでいない迷宮だと初回攻略者には恐ろしいほどの繰越しが手に入るようだ。
腰鞄ではなくて肩掛け式の魔法鞄も手に入れた。腰鞄の容量に余裕がありそうなので、収納庫に仕舞った。
五十階層から三十階層まで一気に戻って来て一泊休む。
銀の黄金虫に水を出してもらって飲むと、身体の隅々に染み渡っていく。
銀の黄金虫にも感謝して食事してると、銀の黄金虫と風の隼との相性が気になった。
二人とも一切喋らないが、オレに尽くしてくれる。
銀の蜥蜴や太陽の方尖碑は喋るので、精霊としての格か何かがあるのだろう。
話さないと言っても、風の隼は気分屋らしいので、個性や意思もあるだろう。
どうせなら精霊たちに伸び伸びとしてもらうのもいい。
しっかりと眠って一泊休んだら、今度はいい布団を腰鞄に入れておこうと思った。
別に寒い訳ではないが、ちゃんと疲れを取るには睡眠は大事だ。
食事と睡眠について腰鞄を使いこなすことも考えよう。
二十階層台になると風の隼もすることがないので、大人しくしてる。
結局、蒼光銀の二刀流で駆け抜けるのが一番速い。
小細工をやめて剣技を学ぶ方法を考えているうちに二十階層の階段を見つけた。
ここから先は誰かに会うかも知れない。
装備を変えた方がいいかな? と思ったけど面倒だったのでそのまま石の扉を開けた。
……石の扉の向こうには、大勢の冒険者が集まっている。というかこっちに向かって走ってくる。
はぁ? 何?
オレが軽く混乱していると、近くにいた三体の黒ローブが魔法を撃ってくる。
「鎌鼬!」
「竜巻陣」
「火炎槍」
おいおい、いきなり何だ?
魔法を叩き斬ってるうちに後ろで扉が締まる。
斬った魔法は跡形もなく消えた。
「クソッ、扉が閉まる前に飛び込め」
はぁ? 何だ?
「ミネラ、壁」
銀の黄金虫が一瞬で扉の前に土壁を作り出すと、扉への道は土壁で塞がれた。
風の隼は人が多いのが嫌いなのか姿を消した。
「お前かぁ! 音速波!」
「疾風刃」
「火炎陣」
懲りずに黒ローブが魔法を放ちながら特攻してくる。
……五十階層にいた黒ローブとは違うよな。
あの火炎弾は斬ろうと思わなかったけど、同じような魔物か?
…いや、言葉を喋ってるし。獣人か。
でも、退治するために冒険者が集まったのか?
魔法を斬って消した。
でもまだ躊躇した。
「そこをどけっ! 竜巻陣!」
「空気爆破」
「火炎槍」
すぐに魔法を斬る。
黒ローブが走って近づいて来る。
これで何回目だ?
何回も攻撃されてるし斬ってもいいよな?
むしろ斬らないといつまでも攻撃してくるよな?
拘束程度じゃ甘いよな。
魔法を撃ちながら特攻して来た黒ローブが間合いに入って来たので、三体とも斬った。
首を落としたら、動きが止まった。
「「「「えっ?」」」」
更に向こうから走ってくる大勢の冒険者たちが謎の声を上げる。
首を落とした黒ローブを見ても魔物っぽくない。
念のため落ちた首を拾うと三体とも見たことのない白い顔をしてた。
「おいっ、小僧! お前、何してんだ!」
冒険者の中からジェシーが出て来た。
何故か怒ってる。
「えっと、襲われたから返り討ちにした、みたいな」
「そいつらが誰か知ってるのか?」
「いえ。知りません。
何度もしつこく魔法を撃ってきたので撃退しました。
ジェシーさんも見てたでしょ」
「あぁ、見てたけど……、それとは違ってコイツらのことを知ってるか聞いてるんだ」
「知りませんよ。ソイツらが勝手に攻撃してきたのも見てたでしょ」
「あ、あぁ。
しかし、いきなり斬り殺すとは……」
「何言ってるんですか?
ジェシーさんたちも血塗れですよ」
「あ、いや、こんなものはすぐ治る。
それより何で口を封じた」
「口封じなんてしてませんよ。
大体、コイツら何ですか?」
「コイツらが新人狩りだ。
俺たちでここまで追い詰めて来た」
「そんな怪我だらけでどうするつもりだったんです?」
「……包囲してから拘束だ」
「怪我人を増やさずに拘束できたと思いますか?」
「クソッ。何でこんなときに現れやがった?」
「それはこっちのセリフです。
上に行って帰って来たら、いきなり魔法を撃たれたんですよ」
「あぁ〜、全くお前が現れると碌なことがない」
「それもこっちのセリフです」
「分かった、分かったから一緒に下りてくれ。
ギルドマスターに説明する。
お前も同行してくれ」
「……分かりました。
他の皆さんの怪我は大丈夫ですか?
魔水薬ならありますよ」
「そういやお前、魔法鞄を持ってるのか。
魔水薬を出してもらえると助かる。
十五階層から魔物と戦いながらアイツらを追って来たんだ。みんな限界だろう」
「何人ぐらいいますか?」
「Bランクだけだから、五パーティか。
二十名ぐらいだ」
「そうですか。
ジェシーさんもこれどうぞ」
「なっ!
お前ぇ、これ迷宮産じゃねぇか!
こんな高いモン使えるかっ」
「えぇ〜、それじゃこれならどうです?
僕じゃ効果の違いが分からないので、ジェシーさんが配ってください」
迷宮産の魔水薬を仕舞うと、ワンシー工房で買った中級と下級の魔水薬を出した。




