第七十二話
冥界の塔の入口に二十組の冒険者パーティが集まっている。
ギルドの要請で集まった冒険者パーティのメンバーは百名近く。
要請の内容は、冥界の塔に現れた新人狩りの討伐。
新人狩りパーティは盗賊と同じ扱いだ。
その上で魔法を使う腕前を考慮してAランク盗賊団として討伐隊を結成することになったのだ。
討伐隊はジェシーが指揮を取る。
Bランクパーティが五組参加しているので、レドリオン領としては異常な規模だ。
ギルドは情報を公開してしていないが、十組、五十名ほどが犠牲になっている可能性がある。
それに暁のパトリックとキャロライン、碧落の微風の四人が襲われたことで新人狩りがいることが証明された。
被害状況を踏まえて、謎の三人組を捕まえるための大規模作戦となった。
「しかし碧落の微風のメンバーは大丈夫なのか?」
ギルドマスターのギャレットがジェシーに聞いた。
今はパーティリーダーたちが集まり、出発前の顔合わせと打ち合わせ中だ。
ギルドからの依頼で討伐隊を組んだので、ギルドマスターのギャレットが本部として迷宮入口で待機する。
ジェシーが実働部隊を率いる。
「はい。俺も心配したんですが、ここで逃げたら冒険者としてやっていけない、とか言って参加してきましたよ」
「でも、この前は結構派手にやられたみたいじゃないか?」
「えぇ、前衛の二人が片腕を焼かれたみたいですが、後衛の二人と駆けつけた咱夫藍のメンバーに助けられたみたいで……。
魔水薬で綺麗に治って、名誉挽回のためにも何とか参加させて欲しいって泣きつかれました」
「かと言って無理はさせられないだろう?」
「今回Cランク以下は必ずBランクと一緒に行動させることにしたんで、大丈夫ですよ」
「それならいいが。
碧落の微風はどのパーティについて行くんだ?」
「話に出た咱夫藍です。
少しでも顔を知ってる方がやりやすいでしょう」
「お前やパトリックは?」
「俺は十字投槍の双子のボブキャットとかと一緒ですね。
パトリックの暁はBランクの紅玉眼と一緒です。黄色いマングースのオーランドが率いてるパーティです」
「そう言えば、オーランドの名前もあったな。
そうか。アイツも強くなったな」
「そうですね。
戦力的には大丈夫だと思います。
後はルートの設定と運ですね」
「そうだよな。冥界の塔だとどうしても細かい通路と小部屋があるから、全てを見て回るのは難しいからなぁ」
「はい。
それでもBランクが五組、それぞれが二十名規模のチームとして動くので案外早く片付くかもしれません」
「今日は冥界の塔の出入りは止めるんだよな。
今、入りっ放しのパーティはどれくらいいるんだ?」
「直近一週間の記録では十パーティほどです。
碧落の微風が襲われてから厳戒態勢にしてます。
それで一昨日と昨日は入場を止めたので、基本的には生きていれば帰って来てるはずです」
「そうか、そいつらが襲われてなきゃいいが……」
「参考ですが、例のシルバーも迷宮に潜ったままです」
「あぁ? 何でこんなときに潜りっ放しなんだ?」
「よほど上まで上がっているか、新人狩りに襲われたか?
新人狩りの仲間っていう線も一応残ってます」
「はぁ、できればそのまま十日ぐらい潜っててくれねぇかな。
アイツが絡むと面倒になる」
「そこはギルドマスターに任せますので、宜しく頼みます」
「あぁ、分かった。
何とかするから、とにかく無事に帰って来いよ」
「はい」
ギャレットへの簡単な説明を終えるとジェシーは各パーティのリーダーたちの顔合わせをし、段取りを説明した。
もうしばらくすれば作戦の開始だ。
同じ場所で碧落の微風のメンバーも咱夫藍チームの他のパーティと挨拶をしている。
咱夫藍が率いるのは今回の作戦に参加したパーティで女性の多いパーティが集まったチームになっている。
光輝角もそんなパーティの一つだ。Cランクのパーティでオリエンタルショートヘア種という珍しい猫人のマティルダがリーダーをしている。グレイの短毛でしなやかさを表に出すようなタイトな服を着ているので身体のラインがはっきりと分かり、ボロンゴがさっきからどこを見て話せばいいのか困っている。
年齢的にもランク的にもボロンゴやデクサントよりも強いお姉さんの集まりなので、さっきから揶揄われてばかりだ。
何としても今回の作戦でいいところを見せて挽回しないと弄られポジションから脱出できない。
ボロンゴとデクサントにとって、今回の作戦は必達クエストだった。
「ボロンゴもデクサントも、本当に無理しないでよ」
マユが改めて注意をする。
二人が弄られてるのを一緒に揶揄い笑ったりするが、この前身代わりになって守ってくれたことを分かっているし、二人の腕が真っ黒に焼け爛れたのも見た。
「カッコつけたりしないでね」
ミユも二人がマユとミユを庇って新人狩りの放った火魔法を浴びたの見た。
ボロンゴとデクサントが身代わりになってくれなかったら、マユとミユが炎に包まれていただろう。
優しい言葉のかけ方を知らないけど、マユとミユは感謝してる。
一方でボロンゴは逃げるしかなかった前回の行動に不満を感じていて、今度こそは、と思っていた。
「今度は新人狩りに一太刀当ててやる」
デクサントはデクサントでシルバーの話を聞いたこともあって、今までよりも一層パーティを大事に思っていた。
「俺がマユとミユを守る」
そしてマユとミユはボロンゴとデクサントの言葉を聞いて、まだ無理だから大人しくしてなよ、と心の中で思うのだった。




