第六十九話
碧落の微風の四人は冥界の塔の八階層を探索していた。
「昨日はあの子供と何してたんだ?」
通路を注意して歩いてたデクサントが少し挙動不審になりながらあくまでも素っ気なく自然体になるようにしてミユに聞いた。
ミユの行動を気になっていたボロンゴとマユも猫人特有のツンと立った猫耳をピクリとミユに向ける。
「何って? この前食事したときに話した薬師のワンシーさんのお店に案内したよ」
「そうか……」
「ワンシーさんに調合見せてもらっちゃった」
「えっ? ミユ、ワンシーさんに調合見せてもらったって本当?」
ミユの言葉に反応したマユがすぐに食いついてくる。
何をどう聞いたらいいか分からないデクサントが思案にくれている横で姉妹が話を続ける。
「本当。初めて調合見たけど、何か感動したな」
「ちょっと話が跳んでるって。
最初から教えてよ」
「だから、ワンシーさんのお店に行ったらワンシーさんがシルバー君を気に入って、簡単なレクチャーと実演をしてくれたの」
「えっ? ワンシーさんだって忙しいんじゃない?」
「何か知らないけど、お店をお休みにして教えてくれたよ」
「え〜っ。だっていつも忙しいから魔水薬買ったら、さっさと帰りな。とか言うじゃん」
「そうそう。でも、いつもと違ったよ」
「シルバー君って何者?」
「あはは、私も思った。
ギルドでもギルドマスターからお呼びがかかったし、モンテリ商会だとヘンリーさんとモンタギューさんにクリスタさんまでが凄い丁寧に対応しててびっくりしちゃった」
「ちょっと、それってどう言うことなの?」
「シルバー君が言ってたんだけど、この街に来るとき、ヘンリーさんだけがシルバー君の強さを見抜いて丁寧に対応したんだって。
不思議だよね」
「ヘンリーさんってそんなキレ者だったの?」
「うん。そうらしいよ」
姉妹二人の噂話が止まらない。
ボロンゴとデクサントは足を止めたまま話の内容についていけてない。
姦しくしてると通路の奥から誰か近寄って来る。
「そこにいるのは誰だ?」
ボロンゴが気付いて体を強張らせたら、向こうから声がかかった。
「そっちこそ、そこで止まってくれ」
ボロンゴは言いながらデクサントに目配せすると、二人がマユとミユの前に出て警戒する。
「悪い。不安にさせたか?
私たちは咱夫藍だ」
冒険者パーティ、咱夫藍の五人がゆっくりと姿を現した。
咱夫藍は女性五人のBランクパーティ。リーダーのフランシスはセルカークレックス種の黒猫。
長い巻き毛が特徴の魔術師だ。
他には斥候のシャラルボ、戦士のクリック、軽戦士ナースカ、弓士チズルスがいて速攻型の戦闘を得意にしている。
五人の美女が現れるとボロンゴが動揺して持っていた剣を落とした。
「Bランクの咱夫藍サンデスカ?」
「そうだ。先日冥界の塔で新人狩りが出たという話があったので、様子を見ながらアイテムを探してるんだ」
「そうなんですね。
パトリックさんも調査してましたけど、咱夫藍の皆さんもですか?」
咱夫藍に憧れているマユがボロンゴの前に出てフランシスに話しかける。
「ああ、腕の立つ三人組らしい。
君たちのパーティ名を教えてもらってもいいかな?」
「はい。私たちは碧落の微風です。
私たちは四人パーティなんです」
「もし、今日の稼ぎが十分なら早めに帰った方がいいが、どうだ?」
フランシスがマユに尋ねる。
碧落の微風のリーダーはボロンゴだが、フランシスたちを見てから固まっているのでマユをリーダーだと思ったらしい。
「今日はまだ目ぼしいアイテムを手に入れてないので、もう少し探索しようと思います」
「そうか、それならいいアイテムが見つかるといいな。
ただ、くれぐれも注意してくれ。
何かあったらすぐに逃げてくれ。私たち以外にも調査してるパーティがいるから、もしもの場合はとにかく誰かに声をかけるんだ。いいね」
「「はい」」
咱夫藍のメンバーは軽く手を振って通路を進んで行った。
咱夫藍と別れて、マユを除いた碧落の微風のみんなは緊張していたことに気づく。
「フランシスさんに会っちゃった」
マユが興奮してミユの手を取って話す。
その様子を見ながらボロンゴが再起動し、デクサントが直立した姿勢を崩す。
「……初めて見たな」
「ボロンゴ緊張し過ぎ〜」
デクサントがボソッと呟くとミユがボロンゴの様子を茶化した。
「いや、あれは、……何でもない。
ちょっとびっくりしただけだ」
オタオタと狼狽るボロンゴを見ながらみんなで笑った。
碧落の微風の一行は一息ついて改めて神授工芸品を探しながら歩く。
今日は運が良いかも。
そんなことを思いながら歩く。
そんなときに小部屋の中にいる三体の屍肉喰鳥を見つけたボロンゴが三人に指示を出す。
「デクサント、屍肉喰鳥が三体いる」
「確認した」
「マユとミユが弓を射たら、俺たちで突撃する。
マユとミユでカウント合わせて」
「うん。マユ、いくよ。三、二、一」
シュン、シュン。
マユとミユの弓が屍肉喰鳥二体の羽に刺さり、動きが鈍る。
ボロンゴとデクサントが飛び込んですぐにそれぞれ目の前にいる一体を倒した。
残った一体をマユとミユの第二射が捉えて、続けざまにボロンゴとデクサントが斬撃を叩き込んだ。
「デクサント、念のためトドメを」
「ああ」
「みんなお疲れ。
今回は見つかるんじゃない?」
屍肉喰鳥にトドメを刺すと、四人で小部屋の中を探す。
ゴツゴツしていたり、起伏があるの中をゆっくりと探すとミユが見つけた。
「やったぁ。加熱板だよ」
「やったな」
ミユが加熱板を抱えて飛び跳ねる。
買取屋に持って行けば金貨三十枚が相場だ。
やっぱりついてる。みんながそう思った。
「今日はここまでにしよう。
咱夫藍を追いかけようぜ」
ボロンゴが意気揚々と小部屋を出ると、戻る道とは反対側に人影を見つけた。
「どちら様ですか?」
ボロンゴは相手に声をかけながら、みんなにも人がいることを伝えると、三人が慌てて小部屋から飛び出しボロンゴの後ろに付き添う。
「……」
通路の先の人影は一人。
「もう一度聞きます。あなたの名前は?」
ボロンゴは相手に話かけながら、みんなを背中で押さえて少しずつ下がった。
その意図が分かったメンバーも少しずつ後ろに下がる。
「……」
影がゆっくりと杖を持ち上げた瞬間、四人は元来た道を走り出した。
「逃げろっ!」
すぐに走り出した四人だが、その背後が明るく光る。
足を止めて振り向いたデクサントが見たのは赤い火の玉。
みんなを庇おうと両手を広げたデクサント。その手を引っ張り火の玉の直撃を避けたボロンゴ。
マユとミユも左右に跳んでかわしている。
初撃をかわした碧落の微風のメンバーだけど、すぐに二発目の火の玉が浮かび上がる。
今さっき通って来た通路を必死で走る四人の背後に再び火の玉が襲いかかって来た。




