第六十五話
いやぁ、銀の短弓は凄い。
これまで手に入れた神授工芸品はそれぞれ凄いので比較しようが無いけど、ここ冥界の塔では使い勝手がメチャメチャいい!
二十六階層から出てきた怨霊や更に上の階層で出てきた骸骨猩々も何度か連射すると殲滅できる。
あの嫌らしい怨霊を遠距離から一撃で倒せる。
魔物との距離は関係なく、視認すれば倒せるって楽しい。
見つけたらすぐに倒せるので神授工芸品狙いで魔物を探し回ったりした。
おかげで例の捻転鉄刀木の杖を十本ほど集めることができた。
買取額を聞いたせいか蘇生屍体がごくたまに落とす弓よりもこっちの杖の方が嬉しい。
この弓があれば三十階層から上も余裕だ。
三十階層で休憩しながらそう思ってました。
冥界の塔の三十一階層。
カタカタと言う音が聞こえて通路の奥を見ると、これまでよりも一回り大きな盾が見えた。
階層が上がったので蘇生屍体が新しい武器を使うようになったかと思って光の矢を斉射した。
しかし、弓は盾を撃ち抜くことができず、当たって弾けた。
なるほど、直線的な弓だと防がれるのか。
今度は弓を少し天井に向かって射る。
天井スレスレを通った矢が弧を描いて盾の向こう側に落ちる。
一斉に放った十本の矢が盾の向こうに吸い込まれるようにして刺さると、敵が倒れた。
盾に被さるようにして倒れたのは赤い骸骨。
……そういえば、足音がカタカタと。
蘇生屍体だったら足音がカタカタ鳴るはずが無かった。
倒した骸骨を見るとその骨の一本一本が真紅の骨でできている。
砕けた頭蓋骨の横にある一際太い骨を拾うと赤黒くて思ったよりも軽い。もう一本拾って打ち鳴らすと、キンッ、と高い音が出た。
不思議な骨だ。
一応、何かの素材になるかも知れないので何本か拾って腰鞄に入れる。
この先も盾持ちの魔紅骸骨が沢山出てくるかと思うとうんざりする。
何かいい対策を考えたいところだ。
しばらく進むと小部屋の中に魔紅骸骨が四体いた。
一体が盾持ちで残りは剣を持ってる。
盾持ちが先頭で、その後ろに三体。
どんな戦い方をしてくるのか確認するためにも殲滅するか。
即座に銀の短弓で四体に向けて光の矢を二本ずつ合計八本放つ。
盾持ちが盾を持ち上げて、横向きにすることで後ろの魔紅骸骨に矢が直撃することを防いだ。
咄嗟にしては効果的な防御だ。
防ぎきれなかった矢が二本、横の魔紅骸骨の頭と胸を砕いた。
……矢が当たれば問題なく倒せる。
すぐに短弓を収納庫に仕舞い、盾持ちを盾ごと蹴り倒して後続の二体を目指す。
相手の剣と斬り結ぶつもりはないので日本刀で突きを放ち一体の頭を割り、もう一体から振り下ろされた剣を見切って後ろにかわした。
そのとき、背後に何かぶつかり衝撃で前に押された。
そのままかわしたばかりの魔紅骸骨に向かって前転すると、相手の足を刀で払って転ばせる。
転んだ魔紅骸骨の首を落として背後を確認すると、丸太のような茶色い土竜が迷宮の地面に潜るところだった。
土竜?
迷宮に潜った土竜を警戒してると盾持ちの魔紅骸骨が立ち上がって突進してくる。
くそっ! どっちだ?
魔紅骸骨の盾をかわして右手に転がると、少し先の壁面に土竜の頭が見える。
そこだ!
立ち上がりざま、日本刀を土竜の頭に突き刺して仕留めると、背後の魔紅骸骨を振り返った。
魔紅骸骨は盾の後ろに身を隠して、攻撃するタイミングを測っている。
埒が明かない。
思いきって盾に向かって走ると、盾を正面から中段蹴りで押し込んだ。
相手はしっかりと腰を落として耐えたようだが、これで終わりじゃない。
盾に足をかけたまま魔紅骸骨の頭上を飛び越えると、背後に回り込んで頭蓋骨を叩き割った。
殲滅できたけど、課題が増えた。
新しく出てきた噛砕土竜。
死体を見ると、猪のような大きな体に乱杭歯が突き出した口。この姿で地中に自在に潜るのだから間違いないだろう。
不意を突かれると不味い。
今回はマントがある背中で助かったが、足を噛まれたりしたら動きが止まってしまう。
これからは見えない噛砕土竜も警戒しなければならない。
魔紅骸骨の使ってた武器や大きな骨、噛砕土竜の死体を腰鞄に仕舞いながら、アイテムを探す。
「ミネラ、水」
銀の黄金虫が作り出したコップに水を満たす。
それを飲みながら辺りを見回すと、新しい魔法巻物を見つけた。
そう言えば魔法巻物があれば魔法が使えるんじゃなかったか?
この前、魔水薬について聞いたときに魔法巻物も聞いとけば良かった。
何種類か手に入れたけど、どれがどんな風に使えるのか全く分からない……。
筒や筆なら勢いで使っても大したことにはならないと思うけど、魔法巻物は……どうだろう?
問題ない気もするけど、たまに凄い貴重なアイテムが混ざってるからなぁ。
分からないものは仕方ない。今のところは貯めといて、いつか有効に使わせてもらおう。
初めて土竜が出現したこともあって念入りに小部屋を調べると奥の壁面に掌に乗るぐらいの水仙を見つけた。
小さな花が三つ連なり、周りの花びらは白く中央は黄色い。
迷宮の中に花が咲いているのかと思ったが、手で触れてみると明らかに質感が違う。
しなやかさ柔らかさがない。金属でもなく石でもない、硬い木に近い感触だ。
裏側には留め金があったので、装飾品だろう。
神授工芸品らしく呼ぶなら水仙の胸留め。
魔力を流してみると一瞬輝いて元に戻った。
……何に使えるのか分からない。
どこかに神授工芸品の機能を解説してくれる精霊はいないかな。
使い方の分からないアイテムがどんどん増えていく。
しかし、装飾品なら高く売ることもできる。
どうせ土竜を警戒しなければならないのだし、小物が出るなら出るで、今回のように壁面や天井も意識すればいいことだ。




