第六十二話
冒険者ギルド、二階の会議室。
六人がけのテーブルに僕とギャレットだけが座っている。
冒険者ギルドのランクアップ、神授工芸品の買取りを済ませたところだ。
「魔力について簡単に話しておこう。
魔力とは魔法を使ったり、魔導具を使うときに必要なエネルギーのことだ。
獣人一万人に対して一人の割合で魔法が使えるってやつだな。魔術師が貴重と言われる所以だ。
そして魔術師には属性の適性がある。
これは魔力をどう使うかの適性だな。五大属性って聞いたことあるか?」
「木火土金水」
「そう。木火土金水が五大属性。五行の相生、相剋だ。
魔術師は得意な属性しか使えない。
そこで生まれたのが魔導具。魔術師に代わって魔法が使える道具だが、エネルギーに魔晶石が必要になる。
この辺が魔法の基礎だな。
とにかく、魔力は使える獣人が少なくて扱いが難しい。
でも圧倒的な力がある。
そんな魔力だからモノとの相性も極めて難しい。
普通のモノは魔晶石のように魔力を貯めることができない。もっと言えば魔力を流してもすぐに拡散してしまう。
しかし魔晶石は迷宮の奥でしか手に入らない。
そこで一部の獣人が魔力を貯められる魔晶石の代わりになるモノを探して見つけたのが永精木と蒼光銀だ。
どちらも魔力の濃いパワースポットで手に入る木材と鉱石だ。
普通の木や鉱石が長期間、濃い魔力に曝されることで変質したと考えられている。
深淵黒檀や原生樫ってのはそう言う魔力に適性のある木材のことだ」
「それで、何でギルドで木剣のことを内緒にしてるんですか?」
僕が質問するとギャレットはいきなり苦虫を潰したような顔になった。
「最初からそんな質問か?
ギルドとしても広めたい、いや、魔力が使えるヤツを鍛えたいんだが、誰でも使えるモノじゃないんだ。
だからこっそりと置いてる。ってとこかな」
「ジェシーさんは木剣使えるみたいですが、魔法は使えないんですか?」
「恐らく魔法は使えないな。
魔力を流すってのと、魔力を使って魔法を使うのは難易度が違う」
「冒険者ランクの上級者は魔力を使える獣人ですか?」
「基本的にはそうだな。
魔力を使えないと強い魔物を倒せない」
「と言うことはギルドマスターも魔力を使えるんですね」
「あぁ、少しは使える。
だが高ランクの魔術師連中には敵わない。
アイツらは呼吸するように魔法を使うからな」
「なるほど、木剣を使える獣人が伸びていく可能性があるってことですね?」
「そうだ。
ギルドの昇格試験とかでそれを試すんだよ」
「分かりました。
永精木の素材はどこにありますか?」
「迷宮の奥だ。
大体十階層より奥に行くと原木がある。
その原木を加工して使うんだ」
「それじゃギルドにあるのは竜の洞窟から取って来たんですか?」
「そうだ。
自然にも生えてるスポットがあるらしいが、俺は知らない」
「ふ〜ん。
それじゃ試験で木剣を折るって結構勿体ないことしたんですね」
「あぁ、永精木は硬いから普通は折れないんだがな。
力だけが自慢の奴が来たときに、ジェシーが鼻を折るためにやるぐらいだ」
「黒弓とか紫の杖だけは異常に反応してましたが、何かあるんですか?」
「永精木にも種類があるからな。浅い階層で手に入る木材と深い階層でしか手に入らないモノじゃ扱いが違うさ。
そして、当然加工の難易度も上がる。
深淵黒檀でできた黒弓だったら、それだけで上級ランカーに取って喉から手が出るほど欲しい武器だ。
それが更に魔導具として加工されていれば、それこそ魔法鞄より高値になる。
一品モノの優れた武器だからな。
紫色の杖、捻転鉄刀木の杖も同じだ。魔術師が魔法を使うときに魔力伝導性のいい杖を求めるのは当然だな」
「その割には杖は安かったですね?」
「それは素材の差だな。
深淵黒檀と捻転鉄刀木の差、それから武器としての完成度。
捻転鉄刀木の杖に魔晶石とか属性石が嵌ってたら高値になったんだがな」
「杖だとそんな加工もできるんですか?」
「あぁ、そこはよく知らねぇが石を使って増幅させたりとか色々あるらしいな」
「へぇ。
それにしても、何で永精木の弓か杖、が欲しいんですか?」
「…ったく、勘のいい奴だ。
優先順位で行くと、蒼光銀の剣、槍、それから永精木の杖、そして弓だ。
いくら永精木と言っても蒼光銀には敵わないから、杖か弓なんだよ」
「ジェシーさんは木剣使ってましたよ」
「それはジェシーの戦い方の話だな。
魔力で木剣を強化した方が戦い易いんだろう」
「ふ〜ん」
釈然としないけど、それ以上は教えてくれないようだ。
魔力の使い方か、もう一つの武器との相性みたいなものがあるんだろう。
「今日のところはこんなもんだったかな?
いや、そう言えば前回は全然話題にならなかったが、二十階層の石の扉、あれについて教えてくれ」
あ〜そう言えば、あれが尋問の原因だった。
でも初回特典について説明するのはかなり面倒だな。
「僕の聞いた噂です。
初めて階層主を倒した場合、その冒険者しか先に進めなくなるそうです」
「はぁ?
そんなことがあるのか?」
「それを確認したくてジェシーさんに二十階層の石の扉を開けれるか試してもらいました」
「で、どうだったんだ?」
「開きませんでした。ジェシーさんも他の兵士でも開かなかったんです。
だから、今は僕しか先に進めません」
「そう言えばそうだったな。
それでジェシーが尋問した方がいいと判断したんだった。
……それにしても俺もそんな噂聞いたことないのに、よく知ってたな」
「……たまたまです」
「急にだんまりかよ。
まぁいいや。他にも思い出したら教えてくれ。
次からも基本的に俺が窓口になる。
領軍だとツァルデ将軍じゃなくて、団長のビルドラン、オセロットで豹柄の大男だ。そいつに声かけてくれ」
「分かりました。
それなら基本的にギルドマスターにお願いします」
「それじゃ金貨を取ってくるからしばらく待っててくれ」
ギャレットが苦笑しながら出て行った。
永精木は使えるかどうか悩むところだ。
蒼光銀亜人形と戦って蒼光銀の長剣を折ったので、木剣を普段使いしようかと思ったけどちょっと難しそうだ。
そんなことを考えてるとギャレットが戻って来た。
リナも一緒だ。
リナは困惑したような顔をして僕を見て、その後怒った顔でギャレットを見た。
「まずライセンス証を返すぞ。
リナから説明を」
「はい。ではまずライセンス証をお返しします。
この度の昇格でBランクになります。
名前とランクの確認をしてお仕舞いください」
リナがいまだに怒った顔でライセンス証を返してくる。
何これ? 怖い。
「はい、ありがとうございます」
「シルバー君、たまたま強い魔物を倒して神授工芸品を手に入れたからって、危ないことしちゃダメよ。
もしギルドマスターに無理なこと言われたら私に教えてね。絶対何とかしてみせるから」
僕の手を握ってそう言うと、会議室を出て行った。
残された僕とギャレットが目を見合わせる。
……ギャレットが強引に僕をランクアップさせたように思われているみたいで、何となく気まずい。
「……」
「それから、これが今回の報酬だ。
白金貨四枚と金貨四百六十枚」
「これが白金貨ですか……」
白金貨は金色ではなく、明るい銀色だ。
一回り大きな銀貨、いや明るいのでやっぱり白金貨か。
「白金だよ。
冒険者も鉄、銅、銀、金ってあるだろう。
金の上のSランクを表す白金と同じだ。
白金貨一枚で金貨千枚だからな。
……本当、この街に来て数日で金貨四千枚ってどんな稼ぎだよ」
ギャレットが丁寧に説明してくれる。後半に混ざった愚痴みたいなのは聞き流した。




