第五十六話
注意してください。
昨日、調子に乗って朝と夜の2回投稿しています。
朝読まれた方は夜にも1話投稿済みですので注意してください。
レドリオンの貴族街、領軍の会議室で査問を受けている。
会議室の中には偉そうなジャガーの男とチーターの女。
ギルドマスターのギャレットがその二人の横に並んで座っている。
僕をここまで連れて来たBランク冒険者のジェシーと領軍の小隊長は僕の横に並んでいる。
それまでは横に並んでるテーブルの向こうに座っていたけど、階層主の双頭番犬を倒して手に入れた黒弓を出してから様子が変わった。
「もう一度、言うぞ。
嘘をつくな。
どうやってこの弓を手に入れた?」
ジャガーの男が僕を睨んで言った。
……さて、どうするか?
話が通じないと話すことが無い。
話すのは面倒なので腰鞄に入ってる三頭冥犬の頭を床に出した。
「「「「「ひっ!!」」」」」
会議室にいる全員が変な声を出した。
僕の身長より大きな三頭冥犬の頭が血塗れで急に現れたので、みんな言葉を失ったようだ。
「これは三十階層の階層主、三頭冥犬です。
この頭と同じ頭が三つついた大きな犬でした。
爪で攻撃してきて、その後噛みつき攻撃を繰り返してきました。
頭を順番に仕留めて倒した真ん中の首です。
あ、それからこれが前脚です」
ついでなので三頭冥犬の前脚も床の上に出した。
「「「「「ひぇっ」」」」」
何か変な声がより変になった。
頭と前脚を出したけど誰も触ったり調べたりしようとしない。
腰が引けた状態で固まっている。
……う〜ん。
話が進まない。
あ、そうか。
神授工芸品も見せる必要があるか。
「これがそのとき手に入れた弓です。
今度の弓は弦がありますが、弦を引くと矢が生成されるのは同じです」
「ヒィッ!」
銀の短弓を取り出し、弦を引いて矢を生成させるとギャレットが椅子から転げ落ちた。
……失礼な。別に驚かしてないし、脅してもいない。
矢を消してしばらく待ってるとジャガーの男が再起動した。
「ギャレット、これが階層主だと判断できるか?」
「……申し訳ありません。
冥界の塔の二十階層と三十階層の階層主はまだ分かっていません。
先ほどの双頭番犬とこの三頭冥犬については初討伐になります」
「難易度はどの程度になる?」
「竜の洞窟の二十階層は階層主が盾革蜥蜴で、こちらはパーティでBランク、ソロだとAランク相当です。
三十階層は強奪脚竜になりますが、こちらはソロだとSランク相当です」
「それは本当か?」
「はい。
冥界の塔は今まで十九階層が最高です。
竜の洞窟の三十階層、強奪脚竜の討伐も二十年ほど前の記録になります」
「小隊長、この子供の戦い振りは見たか?」
「いえ、自分は見ていません」
「ジェシーだったか? お前は見たか?」
「はい。見ました」
「どうだった?」
「十九階層の骸骨と幽霊を問題なく倒していました」
「……そうか。」
「しかし、階層主は別次元の強さです」
「そうだな。
オレも階層主と戦ったことがあるから分かる。
さっき話に出た盾革蜥蜴だよ。六人パーティで挑んで何とか盾革蜥蜴を倒した。
更に竜の洞窟を進んだが、三十階層には行けなかった」
さっきまで強気だったジャガーが妙に卑屈だ。
ジェシーはジェシーで階層主に思い入れがあるみたいだし。
「ひょっとしたら新人狩りと仲間かもしれません。
それだったらパーティで階層主を倒した可能性もあります」
「それはいつだ?」
「……」
「三十階層まで潜るだけでもかなり時間がかかる。
聞いている限りでは新人狩りとは別行動だと思うが?」
「それは、……その通りです」
「であれば、ここからの査問については冥界の塔の魔物と攻略方法についての聴き取りとする。
その中で彼のここ数日の行動内容を明らかにして判断する。
良いな」
「「「はい」」」
ギャレットとジェシー、小隊長が返事をして一応合意されたようだ。
と言っても、とりあえずの嫌疑は晴れたけどまだ話すのか、……何なんだよ、今までのやりとりは?
ジャガーの男が席を外して、ギャレット主体の聴き取り調査が始まった。
ギルドで湧水筒と火炎筒を渡した後の行動について細かく聞かれる。
別に隠すことは無いので正直に話していった。
唯一嘘をついたのは二十階層の階層主を倒した日にちだけだ。
ギルドに顔を出したときには既に倒してたけど、内緒にしてたから今回倒したことにして辻褄を合わせた。
拾った神授工芸品のこともチーターの女がやたらとしつこく聞いてきて困った。
怨霊を倒したときに手に入れた紫色の捻れた木でできた杖を見せた途端、『捻転鉄刀木!』と言って目を血走らせて駆け寄って来たときは本当に怖かった。
何か良く分からないけど、魔力の通りの良い杖らしい。
深淵黒檀や捻転鉄刀木と言う魔力をよく通す木について聞きたいけれど、チーターの女のせいでそんな雰囲気じゃない。
……後で必ずギャレットに喋ってもらう。
正直、二十階層より上はお勧めしないけどそれを判断するためにも魔物の情報は貴重な情報だ。
「階層主の情報は金貨百枚でしたよね?」
「あぁ、そうだ」
「新しい魔物の情報は幾ら出しますか?」
「金を取る気か?」
「そうですね。
強引に連れて来られた分ぐらいは詫び代として請求したいですね」
「……あまり調子に乗るなよ」
「まぁ、今回安売りしたら次回情報を出さないだけですし、これでチャラにしようって話なので、かなり親切だと思いますよ」
「くっ、分かったよ。
新しい魔物一種につき金貨十枚だ」
「分かりました。
高い階層の情報の価値を分かって頂けると助かります」
ちゃんと対価を払ってもらうことに成功した。
ま、あの食いつき方だと神授工芸品の方でもっと稼げそうなんだけど、安売りは良くないからね。
「それにしても、何で蒼光銀の長剣なんて持ってるんだ?
ギルドでも反りの入った剣しか見せてなかっただろ?」
「それはまた内緒の話です。
ちなみに幽霊はこの剣だから倒せます。
十九階層ではジェシーさんも苦労してましたよ」
「おい、ジェシー、本当か?」
「はい。この剣で斬っても擦り抜ける感じで何度も斬りかかってやっと倒しました」
「それは原生樫を加工した剣か?」
「はい。冥界の塔はこれじゃないとキツイんで……」
「後でその原生樫とか深淵黒檀について話してもらうからね」
「はぁ? お前、それはちょっと他の獣人に聞けよ」
「二十六だか二十七階層の怨霊はこの蒼光銀の長剣でも空振りするからね。
どう、こんな情報欲しくない?」
「あ……。
蒼光銀で空振りって、確かお前は魔力強化できるだろ?」
「さ〜て、続きを知りたい?」
「お前、本当にやり方が汚ねぇな」
「いやいや、最初に試して来たのはそっちだからね」
「……分かった。
後でちゃんと永精木について教えてやるから、さっさと話せ」
「じゃあこの剣を貸すからちょっと魔力を流してみてよ」
すぐ横にいるジェシーに渡すと、目でギャレットに確認してる。
ギャレットが頷くと、静かに魔力を流し始めた。
「これは……、何てスムーズな」
魔力が流れて長剣が光り始めると、魔力が散らないように流すのを抑えて纏うように変えている。
やっぱりかなり魔力の扱いが上手い。
ここからもう一段階上げて欲しいんだけど、できるかな?
「もっと増やせる?」
「増やす?
これ以上増やすと魔力が抜けてしまうが……」
「魔力が抜けないように、もっと増やす」
「ん?!」
ジェシーが頑張ってるけど、無理なようだ。
光ったり暗くなったり不安定でコントロールできないらしい。
「これ以上は無理だ」
「一応、参考程度に見てね」
僕はジェシーから蒼光銀の長剣を返してもらうと、魔力を流して赤熱させた。
長剣が融けた鉄のように赤く光る。
「何だ?」
「これは、どうやって?」
「ここまでやると怨霊を倒せる」
僕が戦った事実とは違うけど、この方法の方が分かりやすいだろう。
今のままじゃ無理だし、魔法は試してないから分からないし。
とにかく今以上に魔力を込めるしか無い。
そのとき、会議室の扉が開き男が二人入って来た。
一人はさっきまでいたジャガーで……。
もう一人は赤獅子だ。




