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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第二章 双子迷宮
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第五十四話

 

 オレが三十階層の三頭冥犬(ケルベロス)を倒して街に戻ろうとして冥界の塔(ハデスタワー)を降りてると、途中で大勢の兵士がいた。


 何だ?


「どうかしたんですか?」


 兵士の一人に話しかけると、やたらと驚かれてワラワラと集まった兵士たちに囲まれてしまった。


「おい、子供がどこから入ってきた?」

「一人だけか? 他に仲間はいないのか?」


 何か色々面倒なので、どこかにいる隊長を探して兵士たちの間を歩いていくとジェシーがいた。


「お前……。何でこんなところに?」


「えっ? 普通に探索ですよ。

 今から帰るところですが、何かあったんですか?」


「ちょっと待て。

 詳しい話は後で聞かせてもらうが、お前はどこから来た?」


 ジェシーが剣に手をやりながら詰問する。


「どこって、上から降りて来ました。

 確認しますか?」


 ジェシーがオレの格好と武器を見た。

 銀糸のマントに気を取られ、蒼光銀(ミスリル)の長剣を見て目を見開く。


 ……一目見てバレてしまったか。


「何階層まで行ってた?」


 どうするかな?

 秘密にするか? 情報料をもらうか?

 軍隊まで出てるし今回は証拠もあるから伝えとくか。


「三十階層まで行って来ました」


「嘘をつくな」


「二十階層に上がれば確認できますよ。

 階層主(フロアマスター)双頭番犬(オルトロス)はいません。

 一緒に行きますか?」


「行ったところでお前が倒した証拠にはならないぞ」


「少なくとも、僕が言ったことの証明にはなります。

 今、二十階層の階層主(フロアマスター)双頭番犬(オルトロス)はいません。

 僕が倒したからですけど、いる、いないで騒ぐよりは確認した方が早いですよ」


「ここは十六階層だ。

 どうやって行く気だ?」


「自力で歩いて行きますよ。

 ジェシーさんならついて来れるでしょう?」


「クソガキが……。

 小隊長、腕利きを三人出して下さい。

 俺と小僧が道を拓きます。三人は後ろからついて来て下さい。二十階層の様子を確認します」


 人の言葉にイチャモンつけるからついつい喧嘩売りたくなってしまった。

 ま、結果オーライだ。

 さっさと確認して何だか分からない言いがかりを払い退けないとムカつくからな。


「これから俺とコイツに三人の兵士を加えた五人で二十階層を確認して来ます。

 領軍の残りの皆さんはパトリックと共に迷宮を出て、出入りしているパーティの確認をお願いします」


 ジェシーは残った小隊長に引き継ぎすると、三人の兵士に指示を出した。


「危ないと思ったら三人ですぐに引き返して下さい。

 十九階層の幽霊(レイス)が魔法を放ちそうになったら盾を前面に出して、防御に専念して下さい」


 ちゃんと僕の情報を信じて指示を出してるあたり、根は真面目なんだろうな。


「さぁ、行くぞ。

 道中で何をしてたか聞かせてもらうからな」


「内容によってはちゃんと伝えますけど、そもそも何で領軍が出てきてギルドと一緒にいるんですか?」


「そこからか?

 ……お前は容疑者だからあまり伝えられないんだが」


「僕はいいですけど、状況も分からずに上の階層に行くと結構危険ですよ。

 パッと見、領軍の兵士には幽霊(レイス)を倒せそうにないです」


「……お前、嫌なこと言うなぁ」


「どちらかと言うと親切ですよ。

 僕にとっては嘘つき呼ばわりされたから嘘じゃないって証明しに行くだけで、他の人を守るなんて言ってないですから」


「あ〜あ〜、分かったよ。

 話してやるからちゃんと戦ってくれ」


「それも話を聞いてからですね。

 降りて帰るところだったのに、わざわざ誰も到達していない二十階層に案内してあげるんですから」


「はいはい。分かったから。

 何も無ければギルドから詫びの品を出すから勘弁してくれ」


「それなら話を進めましょう」


「今日の午後、パトリックたち二人組のパーティが新人狩りに襲われたんだ。

 相手は三人組。中には魔術師もいる。

 それがさっきの場所だ」


「あんな変な場所、よく通りましたね?」


「お前も通っただろうが?」


「僕は近道探してたからです。

 大通りに出なくても二十階層までは登れるんですよ」


「はぁ?

 そんなこと調べてどうすんだ?」


「三十階層まで行こうと思うと結構歩くんですよ。

 近道探すの当たり前だと思いますけど?」


「それは、……浅い階層(フロア)神授工芸品(アーティファクト)探すヤツと深い階層(フロア)で戦うヤツの違いなのか?」


「知りませんけど、僕は今日そうやって上に行きました」


「そうか……。

 パトリックたちは調子に乗って十九階層に行って、骸骨(スケルトン)に囲まれて慌てて逃げ帰って来たそうだ」


「それなら、多分僕と同じような道ですね」


「あぁ。

 そこに骸骨(スケルトン)がいる。

 俺は左のヤツらを倒すから、右のヤツらは任せるぞ」


 ジェシーは目がいい。

 通路の先に六体の骸骨(スケルトン)がいたので、ジェシーの指示に従って右の三体を斬り倒した。

 ジェシーも同じタイミングで左の三体を倒している。


 一瞬、ジェシーが使っている剣が木刀に見えたけど、すぐに鞘に仕舞ったので確認できなかった。

 後ろからついて来てる兵士がちょっとビビってるけど放置する。


「で、何でした?」


「それで、上から下りて来て、ここで出会ったパーティに声をかけたら魔法を打たれたって話だ」


「その割には物々しいですね」


「ん? そうだな。

 これまでに五十人ほどが犠牲になってる可能性があるから、厳戒態勢なのさ」


「そうですか。

 いつから被害が出てるんですか?」


「ここ二週間から一カ月ぐらいだな」


「僕、ここに来てまだ一週間も経たないですよ」


「その前は隠れてたかも知れないから、除外する訳にはいかないな」


「なるほど」


「お前のその剣はどうした?」


「この剣ですか?」


「そうだ。その剣だ」


「ジェシーさんの剣について教えてくれたら教えますよ」


「はぁ?

 何だそりゃ?」


「ただでは教えないってことです」


「クソッタレ。

 それならまぁいいや。

 その剣で幽霊(レイス)が倒せるのか?」


「倒して進んだので問題ないです」


 二人で話しながらサクサクと進む。一人で攻略するのと二人で攻略するのでは、全然スピードが違う。

 立ち止まることなく進んで、十九階層に入った。


「あ、あそこの骸骨(スケルトン)たちの後ろに幽霊(レイス)がいますね。

 どうします?」


 通路の先に幽霊(レイス)が見えたのでジェシーに聞いた。

 ジェシーが露骨に嫌な顔をして考え混んでる。


「……倒せるところを見せてもらおうか?」


 自分で倒すと言わないので、ひょっとしたら倒せないのかも知れない。

 僕も蒼光銀(ミスリル)じゃなかったら倒せないので、ジェシーの武器次第だ。


「分かりました」


 ジェシーもいるので、剣を投げたりして隊列を崩すとかは考えなくていい。

 僕が突っ込めば、ジェシーも突っ込んで一気に隊列が崩れるし、ジェシーを狙う魔物(モンスター)もいるから僕一人だけに集中して囲んで来ることが無い。


 多少見た目の数が多くても、半分しか相手にしないので気にせずに突撃した。


 骸骨(スケルトン)を薙ぎ払いながら幽霊(レイス)に向かって一直線に駆ける。

 幽霊(レイス)が魔法を唱える前に一撃で倒した。


 もう一匹の幽霊(レイス)を見ると、ジェシーに何度か斬り裂かれながらもまだ生きてる。


 おや?


 ジェシーは魔力を纏えるはずなのに苦戦してる?


 加勢しようとしたら幽霊(レイス)が消えた。

 ……ジェシーが倒したようだ。


 不思議に想いながら残った骸骨(スケルトン)を倒して、後に残された魔水薬(ポーション)を拾った。


「倒せたみたいですね」


「何とかな。お前が使ってるのは蒼光銀(ミスリル)だな?」


「さぁ? どうでしょう?」


 ジェシーの戦い振りを見た感じ、強いけど幽霊(レイス)とは相性が悪いみたいだ。

 剣に纏わせる魔力が足りないのか、武器の斬れ味が足りないのか。

 もう少し使いやすい武器なら良かったんだけど、今の剣だとちょっと足りないようだ。


 そう言えば上の階層で蒼光銀(ミスリル)の長剣が怨霊(ゴースト)に効かなかった。

 あれもひょっとしたら、僕の魔力が弱かっただけかも知れない。

 アイアンクローで直接魔力で攻撃したら倒せて、蒼光銀(ミスリル)の長剣を使ったら倒せないっていうのは上手く魔力を纏わせられなかったからじゃないか?


 そう考えるとムカつく。

 今度は必ず蒼光銀(ミスリル)の剣で斬ってやる。




 順調に進んで二十階層への階段を見つけた。


「この階段を上がれば二十階層です。

 元は大通りに双頭番犬(オルトロス)、三メートルぐらい大きさで頭が二つある真っ黒な犬がいました。

 倒したので、しばらくはいません。

 確認して下さい」


「あぁ、そのために来たんだからな」


 ジェシーが先頭になり階段を登り始めた。




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