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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第二章 双子迷宮
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第五十三話

 

 パトリックたちが迷宮の詰所で保護してもらってると、ジェシーと一緒にレドリオン領軍から一小隊がやって来た。


「パトリック、大丈夫だったか?」


 ジェシーが優しく声をかける。

 レドリオン領軍から一人の兵士が前に出た。残りの兵士は隊列を組んで、待機したままだ。


「心配かけてすみません。

 恐らく新人狩りです。

 三人組で魔法を使います」


「そうか、三人組で魔術師がいるのか」


「私は第二小隊のロジャースです。

 団長からジェシー殿の指示に従うように言われていますので、指示をお願いします」


「パトリック、すまないが案内を頼めるか?」


「……はい。

 大丈夫です。

 ただ、キャロラインには休んでてもらいます」


「ちょ、パトリック!」


 ギルドからジェシーが来て、まずは状況確認で現場の確認をする。

 そのために領軍から小隊一つが護衛として同行するのだろう。ジェシーもいるし、小隊一つ分三十人が目の前に並んでる。


 だから、大丈夫だ。という思いと、先ほど逃げて来て、また迷宮に入るのか……。

 躊躇う気持ちがあって返事が遅れた。

 でも、調査のために迷宮に潜っていた。

 ここで賊の情報を得ることが大事だ、自分に言い聞かせて返事をした。


 しかし、キャロラインには待っていて欲しい。

 幾らジェシーがいて領軍から一小隊が協力してくれても、迷宮の中では細い通路を進まなければならない。

 今でも迷宮は危険なままだ。


「キャロラインは疲れてるはずだ。

 俺は道案内だけをするから大丈夫。

 領軍に守ってもらえるから、待っていて欲しい」


 パトリックは自分だけが行くことにして、キャロラインの反論は聞かずに歩き出した。






 迷宮に向かって歩きながら、ジェシーはパトリックに声をかけた。

 その後ろに領軍の三十人が控えている。


「パトリック、すまないな。

 簡単に状況を教えてくれないか?」


「今日は調子が良くて十五階層で影隼(シャドウファルコン)を倒したんです」


「おぉ、凄ぇじゃないか」


「はい。それで調子に乗って十九階層まで行ったら骸骨(スケルトン)に囲まれて、逃げるときには幽霊(レイス)から火球(ファイアボール)も打たれました。

 何とか無事に逃げて、慌てて下に降りてたら十六階層で三人組に会いました。

 逃げてる途中だったので、大通りからかなり離れた奥の方です」


「普段は通らないような通路ってことか?」


「はい。

 普段はあんなところは通らないですね。

 そこで話しかけたんですけど、違和感があって、今日手に入れた火炎筒(ファイアパイプ)で火を出してびっくりさせてから逃げたんです」


「珍しいもん手に入れたな」


「はい。今日の前半は調子良かったんすよ」


「分かったから、……」


「そうでした。で、びっくりさせてから反転して逃げたんですけど、火炎槍(ファイアランス)を打たれて、ギリギリ何とか逃げて来たんです」


「そりゃ大変だったな。って出会ったのは何階層だ?」


「えっと、十九階層から降りて来て、多分十六階層です。その後、十五階層の大通りを通ったんで間違いないです」


「そうか。

 それじゃ、十五階層に上がるのが先決だな。

 十五階層についたら案内頼む」


「はい。任せて下さい」


 ジェシーは小隊長に指示すると、二人と三十人は一路、十五階層に向かって進み始めた。





 ジェシーは比較的大きい通路を選びながらもサクサクと進む。

 途中で魔物(モンスター)が現れても、進路上にいなければ無視して進む。

 小部屋にいるような腐死体(ゾンビ)屍肉喰鳥(ハーピー)は後続の領軍に任せて先を進む。


 通路上にいる場合は一瞬で腐死体(ゾンビ)を斬り刻んでいた。

 腰に提げてるのは黒い剣と銀の剣の二本。

 鞘から出すと敵を倒してすぐにしまうので、刀身は確認できない。


 黒い身体に黒い服、黒い剣。

 細く引き締まったドーベルマン種のジェシーに迷宮の中で突然出会ったら、絶対に逃げ出す。パトリックはそんなことを思いながら後ろをついて行った。


 ジェシーにとってはこの辺の魔物(モンスター)は敵じゃないんだろう。

 一切顧みずに先に進んで行く。

 領軍も魔物(モンスター)を殲滅するときは隊列を崩すけど、倒し終えるとすぐに合流して隊列を組んでいる。


 ……敵わねぇなぁ。パトリックは改めてジェシーと領軍の強さを認識した。






 特に犠牲が出ることも無く十五階層に着いた。


「パトリック、ここから案内を頼めるか?」


「はい。……先頭を歩いた方がいいっすか?」


「いや、俺の隣で案内してくれ」


「分かりました」


「領軍の皆さんもここからは少し警戒をお願いします。

 もし冒険者がいたら、拘束しますので、やり過ぎない程度にお願いします」


 パトリックは先頭を歩かなくて良くなったことに安心しつつ、拘束の言葉に緊張する。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。

 この辺にいる全員に話を聞くだけだから」


 ジェシーが軽く言ってくれるけど、パトリックにしたらこの後パトリックたちに魔法を放った冒険者に対面するかも知れないのだ、思わず身震いした。




「こっちだったと思います」


 パトリックがジェシーの隣で説明しながらゆっくり進む。

 ジェシーも見落としがあると嫌なのかゆっくりと歩き、あちこちへ視線を飛ばす。


 領軍の三十人は左右の小部屋の中に踏み込み、完全に確認してから二人の後をついてくる。

 冒険者が隠れていても確実に見つけられる。


「もう少し先に上に行く階段があるはずです」


「今のところ、大丈夫そうだがパトリックも警戒を緩めるなよ」


「上に上がって真っ直ぐ行くと更に上に行く階段があります。オレたちはそこから降りて来たんです。

 その階段の先の場所が賊に会った場所です。

 賊に出会って引き返して来て、上への階段を上らずにこの階段を下りたんです、」


「分かった。

 それじゃ、パトリックたちを狙ったヤツらもその階段から上に行った可能性もあるんだな」


 少し難しい顔をしてジェシーが先頭を歩いてく。


 階段を上がってしばらく進むと、更に上に続く階段が現れる。

 その階層を眺めながらスルーして進む。

 今回の目的地はここじゃない。


「もう少し先です」


 皆が警戒感をマックスに進んだ先に遭遇した場所が出てきた。


「ここです」


 何の変哲もない通路。

 これまでと変わったところは何も無い。


「ここで向こうから来たのか?」


「いえ、この辺りとあっちの方に三人離れてました。

 そこに俺たちが近づいてったんです」


「そうするとこの辺か?」


「そうです。

 そこに一人いて、後の二人はもう少し向こうにいました」


「そこに近づいてった訳だ」


「よう、どうだい? って感じで近づきました」


「そのとき気づいたか、それとも既に気づいてたか、覚えてるか?」


「お互いに気づいてから声をかけました」


「そうか」


「そしたら何人パーティか聞いてきたんです」


「なるほどね」


「それで二人パーティだって伝えたら、向こうの雰囲気が変だったんです」


「それから?」


「キャロラインにサインを出して、こうやって火を出して逃げ出したんです」


 そう言ってパトリックは火炎筒(ファイアパイプ)に火をつけて逃げ出す真似をした。


「こうやって逃げ出したら、すぐに魔法を打たれました」


「どの辺だ?」


「ちょっと分かんないすけど、走り出してすぐこの辺で炎をかわして跳んだと思います」


「結構すぐだな」


「そうっすね。走り出したらすぐに後ろが明るくなったんで、そんなに間は開いてないと思います」


「そうすると結構凄腕ってことになるな……」


「えっ? そうなんすか?」


「あぁ、魔法の詠唱を短くできるのは一部のヤツだけだ」


「うっ、マジっすか?」


「少なくとも逃げ出してすぐに魔法を打ってくるのは、予め準備してたか、凄腕かのどちらかだ」


「逃げる前、はちょっと分かんないです」


「どっちにしろ、運が良かったな」


「はぁ。他は何かありますか?」


「あぁ。そう言えば、身長とか服装は覚えてるか?」


 ジェシーはそこで領軍の小隊長の方に向き直った。


「すみません。

 領軍の中から三人こっちに来てもらって、並んでもらってもいいですか?」


 ジェシーが領軍から三人呼ぶと、パトリックが見たという位置に兵士を立たせていく。


「パトリック、こんな感じか?」


「そうですね。

 右奥の獣人はもう少し小さかったかも知れません」


「あぁ、他はどうだ?」


「違和感が無いので、多分そんな違いが無いと思います」


「これで黒っぽい服装にしたらいい感じかな」


「そうですね。それにしても今まで見たこと無い感じでした。どっから入ったんでしょう?」


「さぁな?

 中で変装してるかもしれないし、見つかっていない通路や魔導具の可能性もあるからな」


 ジェシーとパトリックがそうやって疑問を口にしてると、領軍の一部がざわつき出した。

 来るときに通ってきた通路の方だ。


「どうした? 何かあったのか?」


 ジェシーが聞くと、奥の方から子供が一人連れられて来た。


「お前……。何でこんなところに?」


 ジェシーの視線の先で領軍の兵士がシルバーを囲んでいた。




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